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第六十三章 ヴェオリア公爵領の事情 

 いよいよヴェオリア公爵に関する話が始まります。

 今後のレオナルドとノアと王太子、頭脳明晰な腹黒三人と宰相閣下の活躍を楽しみにして頂ければと思います!


 この国には様々な祭りがある。王都の夏祭りなどは地方だけでなく隣国からも観光客や芸人や露天商が集まるほど盛大だ。

 しかしこの国は農業国のために、収穫を感謝する秋祭りがもっとも大切にされて、各領地で三日三晩催される。

 

 ヴェオリア公爵家は国の最南端に大きくて豊かな領地を所有している。そしてそこで催される秋祭りは、この国一番と言われるほど盛大な祭りだ。

 

 ヴェオリア公爵家及びその一族や一派は二日ほど前にその秋祭りに参加するために、領地に向かって出発していた。

 王都からは往復で二週間、祭りの準備時間を含めて滞在は通常二週間とすると、ひと月ほどは王都を離れる事になる。

 

 つまりその期間がヴェオリア公爵一派を断罪し、失脚させる為の準備期間となるわけだ。

 もっとも王太子や宰相達はこれまでに大体の悪事の証拠は集めていたので、今はその最後の追い込みにかかっていた。

 

 元々この時期に実行しようと決めていたのだが、予定外にみんなが慌てているのは、想定外の事が幾つか起きたからである。

 その最たる原因は、国王がヴェオリア公爵の悪事に勘付いてしまった事だった。

 長い事気付かずにいたのに何故このタイミングなんだと、真の改革派メンバーは頭を抱えた。

 しかも勝手に一人で行動を起こしたせいで、ブレインのトップのザクリーム侯爵が、貴重な近況二年間の記憶を喪失してしまった。

 その上王太子妃の浮気が暴露された事で、予定を早めなくてはならなくなった。

 そして一番腹立たしいのは、国王が余計な行動をとらないようにするために、王妃自らが彼を見張らざるを得なくなった事だ。

 この国の改革推進の立役者である王妃が戦線離脱した事は、改革派にとっては大きな痛手であり、悔しい事だった。

 

「本当に忌々しい奴だ。あいつは昔からここぞという時に邪魔ばかりしてきたが、今回はその最たるものだ!」

 

 宰相は税務課から提出された帳簿の説明をレオナルドにしながら、腹立たしげに唸った。

 

「何故三ヶ月前に説明してくれた本人に、今度は私が説明し返さないといけないんだ?」

 

「申し訳ありません、お手数をおかけして……」

 

「君のせいじゃないよ、あの馬鹿のせいだ!」

 

「馬鹿って・・・」

 

「いいの、いいの。

 宰相はあの父の幼馴染みで側近。子供の頃からの一番の被害者なんだから、何を言っても許される…」


 王太子はにこやかに微笑みながらこう言った。よっぽど宰相閣下は国王陛下に振り回され、尻拭いをさせられてきたのだろう。

 

 宰相閣下や王妃殿下、そして王太子殿下に比べれば、自分の被害はまだましなのかもしれない。一応妻ともやり直しも出来た事だし… 

 そう思おうとしてみたが、これまでの色々な出来事を思い出すと、そう簡単には許せない。

 まあ、ヴェオリア公爵やあの第二王子の悪質さと比べれば、単なる世間知らずで脳天気な迷惑男と言えなくもないが…… この認識は甘過ぎるだろうか?

 ウンウン、やはりそれは甘い。そんな事で済ませてはいけないと、レオナルドは親友のノアを思い出して頭を振った。

 

 そして王太子はこう言った。


「それと、そんなに慌てる事はないですよ。宰相。一応保険はかけてあるから」


「保険とは?」 

 

「いざと言う時には、公爵達を領地に足止めする対策をちゃんとしてあるって事さ」

 

 王太子の言葉に宰相と侯爵が帳簿から目を離して顔を上げた。

 

「対策とは具体的にどのような事ですか? 私は聞いていませんよ」

 

 宰相がきっと王太子を睨むと、彼はニッコリと笑った。

 

「ほら、敵を欺く為にはまず味方からと言うじゃないか。

 なにせ貴方は国内外の誰もが認めるこの国の指導者、頭です。皆の注意は貴方に向いているでしょう? だから、私が陰で勝手に進めれば敵側に気付かれずに済むかなぁって……

 とりあえず今まで、あちら側とも仲良く振る舞っていたからね。

 

 それに当初の予定では、いざとなったらレオナルド君が貴方に話をする予定だったんだよ。

 しかし急に色々な事が起きたせいで、彼にも僕にも貴方に説明する暇が無くなったんだ。

 まさかこんな事態になるとは思っていなかったんで、申し訳ないと思ってる」

 

「レオナルド君も関与しているんですか?」

 

「関与というより、発案者が彼だったんだよ。

 サラッと提示されたし、あんまり斬新なアイデアだったんで、前々からクーデターでも計画していたんじゃないかと邪推したくらいだよ」

 

「一体どんな計画を立てたんだね?」

 

 宰相はレオナルドに尋ねたが、当然今の彼がそんな事を覚えているわけがない。

 まあ、彼は子供の頃からアイデアが浮かぶとそれをノートに書き留めていて、その中の一つに思い当たる計画があった。しかしあれは・・・

 

 案の定、王太子からその計画の内容を聞いたレオナルドは真っ青になった。

 よくもあんな無茶苦茶な作戦を王太子殿下が採用したものだと……

 

 

 この国と南の隣国は、大昔から両国の間に流れる大河をもって国境としていた。それは川岸が絶壁になっていたために、川を渡るのが容易ではなく、そこで文化や物流が断たれてしまうために都合が良かったのだ。

 

 もっともこの二カ国を繋ぐ場所が無かったわけではない。

 そこはもっとも川幅が広い場所で、その川の中央に、まるで島のように存在する大きな中洲がある場所だった。

 

 両国とも自国の川岸から中洲にまで橋を渡して、互いの国を通行出来るようにしていたのだ。

 そしてそれは言い換えれば、その中洲を通れば互いに隣国へ侵略しやすくなるのため、過去に何度かその中洲を手に入れようといざこざが起きていた。

 

 今ではその川の両岸に櫓が建てられていて、互いに見張りを立てている。そしてその櫓の隣には入国管理をする為の建物が設置されていて、人々の出入りをチェックしていた。

 そのおかげでここ百年ほど、両国には揉め事などは殆ど起きず、互いに親睦を深めてきたのだが、このところ少々事情が変わってきていた……

 

 元々ヴェオリア公爵家は南の国からの侵略を防ぐための重要な役目を担っていた。

 とはいえ、北や東西の辺境地と比べると、それほど防衛が難しくはなかったので、辺境伯の地位は与えられず、単なる一伯爵家に過ぎなかった。

 ただし防衛のためにそこそこ出費が嵩む事は事実だったので、広大な土地の割には税金をかなり免除されていた。

 

 この一伯爵だったヴェオリア家が何故公爵家にまでのし上がったのかといえば、今から百年ほど前に、この伯爵家の一人娘と当時の王家の第二王子が恋に落ちて、伯爵家に婿入りしたために公爵の爵位を賜ったのである。

 

 公爵となってからのヴェオリア家は多くの戦略家を輩出し、次第に中央に勢力を伸ばしていった。そしてその最たる戦略家が今の当主という訳だ。

 娘や孫を王族に嫁がせ、姻戚関係になって王族の信頼を得て、今では国王を掌の上で転がすほどになったのだ。

 

 しかし、ヴェオリア公爵家は中央にばかり目を向けていたために、もっとも大切な自分の足元を疎かにしていた。

 派手な秋祭りを催してさえいれば、領民は満足しているものだと思っている愚かな領主だった。

 

 領主は中央の貴族達への賄賂や、派手な王都での生活のためには湯水のように金を使ったが、領地や領民のために金を使う事には出し惜しみをした。

 

 特に公共工事などに金を使うのが嫌いだったせいで、水道や水路もろくに整備されなかった。そのために、日照りが続くと領民は飲み水や生活用水、田畑への水やりにも困るほどだった。

 

 下水道や排水工事もろくに行われていなかったので、大雨が降れば田畑も家もすぐに水浸しになり、そのせいで度々疫病が流行っていた。

 

 街道の整備もしてくれなかったので、農作物を出荷するのさえかなりの重労働であった。

 

 しかも豊作や不作はお天道様次第だというのに、たとえ不作でも豊作の時同様に税の取り立てをしたので、農民達の生活は逼迫する一方だった。

 

 ヴェオリア公爵領は確かに広大で豊かな穀倉地帯ではあったが、近頃では決して住みやすい土地では無くなっていた。

 

 その為にここ数年、領民の流失が多いらしい。特に例の中洲を通って南の隣国へ逃げ込む農民が後を絶たないのだという。

 川の両岸の櫓の兵士達も、農民達を気の毒に思って見て見ぬ振りをしているという。

 

読んで下さってありがとうございました!

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