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第六十二章 心を苦しめる相手

 レオナルドとミラージュジュは、今まで胸に秘めていた事、そして言い辛い事まで打ち明けて、お互いの思いを確認し合います。

 そして手を合わせて前へ進もうと決心する、そんなお話です。

 苦くて甘いです!


 初めて二人が出会った時何故レオナルドが女装していたのか、彼はもうそれを妻に話さずとも理解してもらう事が出来た。

 姉達と話し合った直後に宰相からの使者が来て、彼がその対応をしている間に、姉二人が妻に説明をしてくれていたのだ。

 

 かなり遅めの昼食を三人で寝室でとりながら、姉達がこう言ったらしい。

 

「そもそもは私達が屋台の食べ物を食べたいと我儘を言ったせいなの。

 使用人は買ってきてくれないし、私達は祭りの最中は街へ出してもらえない。それなら変装して屋敷を抜け出そうって事になったの。

 でもあの子優しいでしょ? 私達を警護なしで外へ出すわけにはいかないから自分が行くって言ってくれて……

 ところが平民の服が女の子の物しかなくて、あんな事になったのよ。

 えっ? 瞳の色はどうしたのかって? ああ、あれはね、東の国の発明品でね、変装用の『アイガラス』というグッズを目の中に装着していたのよ。

 知らない? 貴族がお忍びで出かける時に便利だって、以前から密かに流行っているんだけど。

 ほら、あの子の瞳は金色で目立つでしょ。だから『アイガラス』で一般的な青い瞳に変えたんだけど、それでも我が弟ながらあまりにも綺麗で目立ち過ぎたみたいね。

 後で男に絡まれたと聞いて恐怖で震え上がったわ。今更だけど私達の大切な弟を助けてくれてありがとう。

 私達それを知った時、絶対に貴女と弟の仲を応援しようと決めたのよ」

 

 妻は姉達の話に納得してくれたようだった。

 姉達は見合い話の件で弟を脅して女装を命じた事は、上手く誤魔化したようだ。

 そして、姉達が探りを入れたところ、彼女は子供の頃にレオナルドから結婚話を断られた事を知らなかったらしい。

 

「そもそも淑女教育どころかまともに育てていない娘を侯爵家の嫁にしようだなんて、いくら非常識なライスリード伯爵でも考えていなかったみたいよ。

 裕福な商家にでも嫁に出すつもりだったんじゃないかと、ジュジュちゃん自身も前に言っていたしね」

 

 と姉達は言っていた。

 それを聞いて夫はホッとした。もちろん、会いもせずに彼女を拒否してしまった事は深く反省して後悔しているのだが。

 

 それとミラージュジュは、会えなくなった後のレオナルドの頑張りを聞いて酷く驚き、申し訳無さげだったという。

 彼女は自分達の婚約は両家の政略結婚だと思っていたのだ。ところがこの縁談は夫自らが彼女を望んだもので、しかも彼が必死になって進めた縁談だったのだ。

 そう。当時のレオナルドは既に宰相達に目をつけられるほど将来有望の若者だった。

 その彼がミラージュジュと結婚が出来ないのなら、王城勤めを拒否すると脅したのだ。その為に周辺の後押しが得られてやっと成立した婚約だったのである。

 

 しかも正式に二人が婚約を発表したのは、レオナルドが十八でミラージュジュが十五の時だったが、実際の婚約はその二年以上前に結ばれていたのであった。

 それは彼女を絶対に他人に奪われないようにするためだった。

 

 どうにか許しを得られて妻とキスをした後、夫はノアへの気持ちを恐る恐る尋ねた。すると妻は、

 

「ノアが本当は男だと聞いて驚いたのは事実ですが、男でも女でも、孤児でも王様の子供でも、スパイでも侍女でもどうでもいい事です。

 ノアが私の大切な親友だという事は永遠に変わらないですわ……

 スージーお姉様と王太子殿下の関係と同じです」

 

 と言った。ミラージュジュは姉達から先程の話も聞いたようだった。

 姉達はミラージュジュを本当の妹のように思い、信頼をしているからこそあの話をしたのだろう。

 愛する姉達に心から認めて貰えた事がとても嬉しくて、涙が出そうになった。

 それなのにこんな質問をする自分を情けないとは思いながらも、やはりきちんと確認すべきだと、彼は覚悟を決めて今度はこう尋ねてみた。

 

「もしノアが最初から男だとわかっていたら、君はノアと結婚していたかな?」

 

「あら、焼きもちですか? 旦那様でも嫉妬するのですね?

 う〜ん。たらればの話は意味がないと思うのですが、ノアは私にとっては性別には関係なく、心の友だったんです。なんでも相談出来る……

 それに比べて旦那様は、私の心を唯一苦しめる事が出来る相手ですから、お二人に同時に申し込まれたとしたらやっぱり旦那様と結婚していたと思います」

 

 妻の答えに夫は戸惑った。

 自分が妻を唯一苦しめる存在? いやいや、それは少しも嬉しくない。

 自分は誰よりも妻を愛していて、妻を苦しめるものは全て排除したいと思って今日まで頑張ってきたというのに。

 そんな困惑している夫に妻は笑った。

 

「私、レナに会うまでは感情が麻痺していたんです。

 嬉しいとか楽しいとか、苦しいとか悲しいとか、そして寂しいなんてそんな感情は何も無かったんです。

 感情を捨ててしまわなければ辛い事ばかりで耐えられなかったから……

 

 でもあのお祭りの日に男に絡まれているレナを見た時、あんなお日様みたいな子の側に居たい。

 あの子の側に居られたら、私もお日様の輝きを少し分けてもらえるんじゃないかと、ふとそう思ったんです。

 そしてそんな太陽みたいな子を汚している男を憎らしいと思ったら、勝手に体が動いていたんです。

 つまり、旦那様が私の心に感情というものを与えて下さったんです。

 

 レナとノアと別れ離れになって、私はまた感情を失くしてしまったけれど、そんな私の心を再び震わせてくれたのも、結局旦那様でした。

 婚約、文通、白い結婚、愛人問題、事故による記憶喪失・・・

 相手が旦那様だったから私は苦しんだのです。同じ事をされても旦那様以外の人相手だったら、私の感情は麻痺したままで、何とも思わなかったと思うのです。

 でも、痛みも苦しみも感じないのが幸せでしょうか? 違いますよね? 苦しみや悲しみを知っているからこそ、幸せのありがたさがわかるのではないでしょうか。

 私は、旦那様と巡り会えて幸せです」

 

 

 深い口付けを交わした後で妻がこう言った。

 

「私は今とても幸せです。だからこそ、私を幸せにしてくれた旦那様の、大切なお姉様を苦しめている人達の事が許せません。

 旦那様、どうかお姉様を裏切った人達に思い知らせて下さい。自分達がどれだけの罪を犯したのかを・・・」

 

「もちろんだとも。あの気位が高い姉が誠意を込めて尽くしてきた事にも気付かず、蔑ろにしてきた奴らを絶対に許しはしないよ。

 それに、奴ら二人だけじゃない。高位の人間が自分の置かれている立場を弁えずに好き勝手にやっていたら、それに仕える者、領民、そして一般の民はたまったものじゃない。

 あんな連中を野放しにしていたら、この国の民達もやがて我慢の限界を迎えるだろう。

 君も協力してくれるかい?」

 

「もちろんです、旦那様。

 旦那様にそう言って頂けて嬉しいです」

 

 妻は目を輝かせたが、夫は笑みを消してこう言った。

 

「だけどこれだけは忘れないで。

 僕は君を失ったら正気ではいられない。掠り傷を負っただけでも何をしでかすかわからない。それを肝に銘じて行動してね。

 昔みたいに考え無しに無鉄砲に動く事だけは絶対にしないと約束してくれ」

 

 初めて夫を怖いと思った妻は、何度も何度も頷いたのだった。

 

 これでレオナルドの秘密はほとんどなくなりました。実際は王太子の件はまだ秘密にしていますが、既に二人の仲は強固なものになっているので問題ないでしょう。多分……


 後はミラージュジュの実家問題(小さい問題かな?)と、ヴェオリア公爵一派との対決の話となって行きます。

 続きを楽しみにして頂けると嬉しいです!

 

 読んで下さってありがとうございました! 

 そしてこれまでにブックマークや評価をして下さった方々、励みになっています。ありがとうございました!

 

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