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第四十九章 子供同士の駆け引き

 レオナルドが神童だった事がわかるエピソードです。

 この章と次章で彼の運命が変わります。


 ザクリーム侯爵夫妻は典型的な保守的な考えの持ち主で、伝統や格式を重んじ、子供達にもそれを強要した。

 しかしそうはいっても、この国一番と言われるほど美しくて愛らしい娘二人を父親は溺愛し、結構彼女達には甘かった。

 

 妻の手前、母親の言う通りにしなさいと命じ、逆らう娘達を叱る振りをしながらも、陰では娘達の言いなりになって、なあなあになっていった。

 そして二人の姉達が思春期になってタッグを組んで母親に対抗するようになった頃は、自分だけ逃げ出して女性達の争い事には関わらないようになった。

 するとさすがの母親も二対一では娘達には敵わなくなり、やがて娘達の事を無視するようになった。

 それでも厭味ったらしく二人の誕生日には、ハイネックでシンプルなまるでフォーマルのようなドレスを贈り続けたのだが……

 

 そして娘達の操縦に失敗した両親の関心は、次第に末っ子で唯一の男の子であるレオナルドに集中するようになった。

 並の親ならば、飛び抜けた容姿をした息子に溺愛してメロメロになるところだろう。

 しかし、自分達も標準以上の容姿をしていたザクリーム侯爵夫妻は、それ程容姿に重きを置いていなかったので、息子を甘やかしたりはしなかった。

 

 彼らは王家に忠誠を尽くすようにと、まるで呪いのように息子に言い続けた。王家に役立つ人間になる為だと、あらゆる学問や武術やダンス、そして社交マナーを強制した。

 そして彼らにとって必要性が無いと思う事は何一つさせては貰えなかった。

 

 人間の価値は社会的地位に比例する。侯爵家の人間として相応しい者になれと、友人どころか口をきく相手まで選定され、家の使用人とも気安く口をきくなと言われていた。

 そんな偏狭的な両親の元で育てられたレオナルドだったが、いかんせん忙しい両親と接する時間よりも、当然姉達と接する時間の方が何倍も多かった。

 そのために彼は両親よりも姉達の影響をより多く受けていた。

 次第に両親の言葉は右から左へと受け流す技術を覚え、両親の前だけは彼らの望む保守伝統派の振る舞いをし、表面上は決して逆らわなかった。

 

 しかし姉達の保守派以外の派閥の友人達の話を聞いたり、姉達のファッションスポンサーになっている商会の人間達とも交流して、多様な考え方が出来るようになって行った。

 

 そしてミラージュジュと出会った事でレオナルドの世界は更に広がって行った。

 この国の市井の人々の暮らしを知り、それらが荒廃している現実も知った。

 やがて彼はその荒廃の原因と問題点、そしてその対策法について、思いつくままノートに書き留めるようになっていった。

 

 そう。彼は今自分がしたい事やすべき事、将来自分が何をやりたいのかを、親から押し付けられるのではなく、次第に自分の頭で考えるようになっていったのだ。

 

 まだ幼い頃、やりたかった事を全て取り上げられ、せっかく出来た友人とは引き離され、薔薇園で姉弟三人で泣いた。

 少し成長してからは、たった一人で薔薇園の中で蹲って弟は泣いていた。

 

 そんな弟が祭りから帰って来てから突然様子が変わった。そしてその後も変装しては屋敷を抜け出して行くようになった。

 どこへ行っているのかと尋ねると、街の図書館だと答えた。仲の良い友達が二人出来て、一緒に本を読んでいるのだと言った。

 最初のうちは本当は遊び友達が出来て悪さをしているのではないかと心配したが、次々と新しい知識を仕入れてくるので、あながち嘘では無いのだろうと思うようになった。

 

 以前は嫌々やっていた剣術や武道も熱心に取り組むようになった。

 その上、フォールズ流派の騎士道まで習いたいと言い出した。そして反対されると、いざと言う時に役に立たない形だけの武道を習っても意味がない。そう言って、今まで続けてきた訓練を全て放棄してしまった。

 それまで従順だった息子の反抗に母親はパニックに陥った。

 娘ばかりか息子にまで反抗された事に大きなショックを受けたのだ。

 

 その時娘達は白い目で両親を見た。

 

「今王都は国がしっかりしないから治安が悪いのですよ。

 ですから自己防衛のために実践的な騎士道を学ぼうとしているのに、何故反対されるのか、その意味がわかりませんわ。

 形だけの武道でいいと言うのなら、もっと国が治安をしっかりしてもらわないと困ります」

 

「お父様は、私達子供が危険な目に遭っても構わないというのですか? 護衛がいたって、それで安全という訳ではありませんでしょ」

 

 父親はぐうの音も出ず、息子の要求を呑んだ。そして、その後、それが正しかったと思い知る事になったのだった。


 

 ミラージュジュと出会ってからレオナルドはガラッと変わった。

 無気力気味だった弟が前向きになり、積極的になり、何より幸せそうだった。

 そんな弟の変化を姉達は喜んでいた。

 

 それなのに弟は変声期を迎え、わかっていた事とは言え、少女と上手く行かなくなりそうな雲行きになった。

 しかもそもそもの原因が自分達だったので、二人の姉は、弟に申し訳なく思った。そしてなんとか二人の仲を取り持とうと考えた。 

 

 しかし、弟とその初恋の少女との関係は、姉達の心配をよそに、更にまずい方向に進んで行った。

 何故ならその後ある事件が起きて、レオナルドは少女に謝るどころか、何も告げられないまま会えなくなってしまったのだから・・・

 

 ✳ ✳ ✳ ✳ ✳ ✳ ✳

 

「確か、君は誘拐されかけたんだよね?」

 

 宰相が言いにくそうにこう言うと、レオナルドは苦虫を噛み潰したような顔で頷いた。

 

 ザクリーム侯爵家は筆頭侯爵家である。王家の親族が新たに興した公爵家などよりもよほど歴史が古い名家であり、王家も一目置く家だった。

 

 

 そんな名門中の名門であるザクリーム侯爵家を招いたパーティーで、なんとその主催者である末端侯爵がレオナルドの監禁誘拐を企てる! という、信じられない暴挙に出たのである。

 もちろん未遂だったが。

 

 その夜会は保守派の貴族と家族だけが招待された、まあ仲間内の親睦を深める為のパーティーだった。

 主催者の侯爵家は元々は伯爵だった。しかし父親の代で商売で大儲けをして、十年以上も多額の納税をした事で侯爵位を授かったという成り金だった。

 両親は本心ではあまりこの侯爵とは付き合いたくはなかった。

 しかし、保守派の勢力を伸ばすためにその資金源が必要だったので、その招待を無下には出来なかった。

 

 その侯爵家にはレオナルドと同年代の息子がいた。その息子はレオナルドと会うと、いつもおどおどした態度で、何かを言いたげな顔をしていた。

 

 そしてその日は特に青い顔をしながらその少年が声をかけてきた。

 

「東の国が作った珍しい秘密道具が手に入ったのでご覧になりませんか?」

 

 と・・・

 それは何かと尋ねると、見てのお楽しみだと少年は言った。それを聞いたレオナルドは鼻で笑った。

 

「そんな事で僕が騙されてついて行くと思うの?」

 

 少年はギョッとして怯えた顔でレオナルドを見た。

 

「騙すなんてとんでもない。本当に秘密道具があるんです。音を、音を記録出来る道具です」

 

「そう? じゃあそれをここに持ってきて見せてよ」

 

「大きくてここに持って来るのは無理です」

 

「嘘はよくないなぁ。上着のポケットには入る大きさだよね、それ…」

 

 レオナルドの言葉に少年は絶句した。

 

「持っていらっしゃるのですか? 我が国でその秘密道具を持っている家は、数軒だと聞いたのですが」

 

「その一つが我が家だと言う事だよ。我が家の力を知らない訳じゃないだろう? 王家のお側用人と呼ばれているザクリーム侯爵家だよ」

 

「ええと、君の名前はケイシーだったけ?

 この国で数個しかないくらい貴重な秘密道具が本当に君の部屋にあるの? 違うよね? 一体君は僕をどこへ連れて行こうとしていたの?」

 

 ケイシーはガタガタと震え出した。そんな彼を支えながら、レオナルドは耳元で囁いた。

 

「わかっているよ。父親に命じられて逆らえなかったんだろう?

 君が以前から僕に何か言いたげだったのはわかっている。

 ありがとう。僕も君と似たような立場だからわかるよ」

 

 ケイシーは驚いた顔でレオナルドを見た。そしてその後に続けられた言葉の意味が理解出来ずに、彼は目を瞬かせた。

 

「ねぇ、信じられないかも知れないけど、もし、君が僕に味方をしてくれたら、君をこの家から自由にしてあげるよ。僕自身の未来は不自由になるだろうけどね」

 

「? ? ?」

 

「例え今回の件が未遂で終わったとしても、計画を立てた事は立証出来るんだよ。

 うちにはね、『王家の影』がついているからね。

『王家の影』って知ってる? 

 知らないかぁ〜。それじゃ、暗部ってわかる? 

 あっ、知ってるみたいだね。その暗部の中のエリート中のエリートが『王家の影』だよ。

 王族と公爵家、それに筆頭侯爵家であるザクリーム家にはその『王家の影』がついているんだ。

 彼らは国王の指示でしか何も話さないけど、国王陛下と僕の父親は幼馴染みで仲がいいから、きっと『王家の影』から証言を聞き出してもらえると思うんだ。

 そうすればどうなると思う?

 ・・・・・・・・・・

 ああ、大丈夫。もしこの屋敷に住めなくなっても、君の暮らしは保証するよ」

 

「ど、どうやって……?」

 

「宰相閣下にお願いするよ。君の保護を。

 僕ね、政府の内務省と近衛騎士団から勧誘されているんだ。学園を卒業したら入ってくれって。まだ入学もしていないっていうのにね。

 だから君の保護をしてくれた方に入るという契約を結ぶよ」

 

「そんな、僕のために貴方の人生を決めさせるなんて事できません」

 

「それはお互い様だろう?

 それに多分今回の計画は、君の家だけで立てた事ではないのだろう?

 僕を一人にするためには、両親や姉達を足止めしなきゃならないから、協力者がいないと無理だ。

 その連中を全て捕縛出来たら、宰相閣下もきっと大喜びして、僕の要求は呑んでくれると思うよ」

 

 ケイシーは瞠目した後、覚悟を決めたように大きく頷いたのだった。


 読んで下さってありがとうございました!


(注)ザクリーム家に付いている『王家の影』は、基本、当主に付いています! レオナルドが変装して出歩いている事は知りません!


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