第二十六章 護身術と親友と禁書
ヒロインの子供の頃の意外なエピソードが語られます!
やたらとロリコン変態が出てきますので、嫌な方はお避け下さい。
☆この国の治安状態はいまいちという設定です!
ミラージュジュは伯爵令嬢だったが、両親が彼女の存在を完全に無視していた為に、娘が外出する際にも護衛をつけてくれなかった。
独学で勉強する為には図書館へ通わなければならない。しかし街中を、少女が一人で出歩くのは危険だ。
そこで伯爵家で行儀見習い兼家庭教師だったアンジェラが、ミラージュジュに護身術を教えてくれたのだ。
相手をやり込めるのではなく、一瞬のすきを狙って暴漢から逃げる方法を。
実は恩師アンジェラの父親は代々騎士団に所属していた。
そして彼女の家の子供達は全員、性別など関係なしに鍛錬を受けさせられていた。
騎士である夫や息子がいない時は妻と娘が家を守るのだから、たとえ女であれ、最低限自分自身を守れるくらいにはなれと。
アンジェラの父親はミラージュジュの父親のライスリート伯爵の部下だったのだ。
それ故に彼女がこの屋敷で行儀見習いをする事になったのだが、聞くと見るとでは大違い。
多くの勲章を授与されていた騎士団副団長は、男尊女卑が甚だしく、その上非常識な人間で、父親から聞いていた立派な騎士像はすぐに崩れ去った。
「行儀見習いのために来たはずなのに、精神修行だったわ。そして家庭教師。その上護身術の師範の真似までするようになるとは……」
そう彼女は笑った。
ミラージュジュは生きていくための術を全てアンジェラから教わったのだ。そして友人をつくるきっかけも。
まずレナの事は、祭りで賑わう露店の前で、酔っぱらいの若い男に絡まれ、腕を掴まれているところを助けた。
ミラージュジュは男の足を木靴で思い切り踏みつけてやったのだ。
木靴で踏まれると飛び上がるほど痛い。しかもすぐには動けない。急所ほどではないが、逃げる時間を稼げる。
ミラージュジュはレナの手を取ってその場から逃げ出して人混みに紛れた。
それから広場に向かった。その近くに警邏隊の駐屯所があったからだ。
しかしその途中で彼女は、醜く太った中年の男が、自分と同じくらいの銀髪の女の子の頬を叩いている場面に遭遇した。
叩かれていたその少女がノアだった。
「今日は美少女にとって厄日なの?」
ミラージュジュは中腰の姿勢だった男の背後にそっと近付いて行くと、その大きな背中を木靴で蹴りつけた。するとその男の体が前のめりになったので、今度は尻の下、太腿の間を蹴り上げた。
男は地面に頭から突っ込み、股に手を当てて悲鳴をあげて転げ回った。
ミラージュジュは呆気にとられている少女の手を取ると、男に向かって、
「美人局ですって?
子供に手を出そうとする方が悪いのよ。変態!」
と叫んで駆け出した。そして、やはり呆気にとられていた金髪少女の手も取って、再び祭りの人混みの中にダイブしたのだった。
まあ、親友二人との出会いはこんな感じだったので、とても人には話せなかった。
もちろん、夫と執事にも親友との出会いの部分は端折って話をした。
あの後、祭りの三日間を三人で過ごした。そしてそれからも時々図書館で会うようになった。
昼間のほとんどを図書館で過ごしているミラージュジュと違い、レナとノアは忙しいようだったが、暇を見つけると会いに来てくれた。
そしてそんなある日、たまたまレナがいない時にノアが貸してくれたのがその禁書だったのだ。
もちろん始めから禁書だと知っていた訳じゃなく、読んでいる途中で気付いたのだが、本の中身が面白くて読むのをやめられなかった。
読み終わってそれを返す時、この本をどうやって借りたのかと尋ねると、ノアはあっけらかんとこう言ったのだ。
「この図書館の司書に付き合って欲しいと言われたから、ここにある蔵書の中で、まだ誰にも貸し出された事の無い歴史本を読ませてくれたら考えてもいいわって言ったの。
そうしたら、この本を貸してくれたのよ。
面白かったでしょ?
帝国崩壊後、いかなる方法で各国が独立していったか、その手の内がよくわかって。
うふっ。本当の事なら何も禁書にしなくてもいいのにね!
もう魔物も精霊も人間によってほとんど滅ぼされてしまったし、魔力持ちの人間も稀な存在になってしまった。
人心掌握の方法だって、実際に書かれている訳じゃないのだから、別に今更隠す必要もないのにね」
「・・・・・」
「えっ? それでその司書と付き合うのかですって?
まさか!
私もジュジュと同じく、まだ十一歳の私と付き合いたいなんていう変態なんてごめんよ。
えっ? 約束?
この本を私以外に本当に読んだ人がいないのかどうか、他の司書さんに確認して、その通りだったら付き合ってあげると言ったら、約束は反故にされたわ。どうしてかしら?」
ミラージュジュが禁書にまつわる友人とのこのエピソードを話すと、彼女の夫と執事はなんとも言えない表情を浮かべた。
「その本によると、東の国のそのリーダーは自らは国王にはならなかったみたい。でも、真の実力者だったのでしょう。
人心掌握法であるマインドコントロールのやり方を封印してしまった。
いいえ、もしかしたら将来に禍根を残さないようにしてしまったのかもしれませんね。
彼らは好き好んでそれを使ったわけではないのですもの。
ただ国民全員が犠牲を払って国を興した。それを自覚しているからこそ、千年以上経っても平和を保てているんでしょうね。
平和は綺麗事では保てない。それを国民全員が理解しているからこそ、無闇に争い事をしないんです。
『上に立つ者が嫌な事は一部の者達に強制してやらせ、自分達だけ涼しい顔をして楽しているような国は駄目だ。
罪や泥を被る覚悟がない者に忠誠を誓う者はいない。
いくら魔法や呪いを使っても、本人の心がこもっていない忠誠心なんて土台役には立たない。
それなのに自分の威厳を保ちたいがために、人を支配し服従させる事ばかりを追い求め、己の責任を全うしようとしない者など、上に立つ資格はない。
何故そんな当たり前の事に気付かないのだ!』」
「ジュジュ?」
ミラージュジュが途中で口調を変えて政治思想を滔々と喋り出したので、夫と執事は驚いた。
しかし、話し終えるとミラージュジュはニコッと笑った。
「今のが本を読んだ後のノアの感想なんです。まだわずか十一歳だったのに凄いと思いませんか?
私なんて、ああ面白かったくらいしか思わなかったのに。
でも、今なら彼女が言っていた事が少しだけわかるような気がします。
自分の手を直接には汚さず、罪悪感を持たずに他人を利用するような人達は、絶対に上に立つべきではありません。
しかもそれが私利私欲の為なら言語道断です」
ミラージュジュは己の欲のために権力を振りかざして夫を従えさせ、ザクリーム侯爵家を利用した王子を許せない。
そして邪魔者をいとも簡単に始末しようとした連中も。
『黒い二重線』がした事は確かに許せないが、彼らが好き好んでそんな事をした訳ではないだろう。
呪いの入れ墨を入れられている者は、王家に逆らう事が出来ないのだから。
それに彼らは犯罪者だとされているが、本当の悪人とは限らない。
王侯貴族の意見に異議を唱えただけで、運が悪ければ政治思想犯という、大罪人にされてしまうのだから。
読んで下さってありがうございました!




