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第二十五章 親友との出合い

今までチラチラと出てきていた、ミラージュジュと親友二人との出合いの話です。


「王家に仕える護衛の人って、みんな契約魔法か何かをかけられているのですか?」

 

 それまでずっと黙って聞いていたミラージュジュがこう尋ねた。

 

「どうだろう? まさかそんな事はないと思うけど。王家に忠誠心のない者にいくら魔法をかけてもどうせ信用出来ないし」

 

「そうですよね。強制しても心の中までは支配できないですものね。

 という事はトムさんは本当に王家の誰かに忠誠を誓っているのでしょうね。あの人、強制されているという感じはしなかったですし。

 でも、これはただの勘なのですが、絶対にアダムス殿下に対する忠誠ではないと思います」

 

「この屋敷の者が全員そう思っているよ」

 

 夫が苦笑いした。

 

「でも、もしあの殿下のような王族が部下を絶対に支配したいと思ったらやはり魔法よりマインドコントロールで支配した方が安心で、しかも確実ですよね?

 だって高位貴族に契約魔法をかけたら大問題になりますものね。重罪人ならともかく」

 

「奥様、そのマインドコントロールというのは?」

 

 マインドコントロールとは、相手に気付かれないように、特定の言葉で精神状態を自由に操作し、自分の思いのままに動かすことだ。一種の暗示だ。

 

「魔法を使わなくてもそんな事が出来るのですか?」

 

「ええ。 

 大昔帝国が崩壊した後、各地で民族間紛争が起きたでしょう? 人間が魔法使い、魔物、妖精の力を借りて長らく争ったって。

 そして百年以上経ってようやくそれぞれの民族が独立して現在の状況に落ち着いたのですよね。

 でもその独立した国の中で、唯一魔法や魔物や妖精の力を借りずに、人間が己の力だけで勝ち抜いて独立した国があるんです。

 それが大陸の最東端にある国なの」

 

「この大陸で一番発展していて、文化が進んでいる国ですよね。しかも軍事力も相当高いのに、独立後一度も他国と揉め事を起こした事のない平和な国と評判が高い国……」

 

「ええ、そうです」

 

「あの国は魔法などを用いないで独立したのですか、知りませんでした」

 

「今も魔力持ちはあの国には住めないそうですよ」

 

「で、()の国がどうしたんだい?」

 

「ですから、()の国が魔力などの力がないのにどうやって争いに勝ち抜けたかというと、リーダーになった方がマインドコントロールの力を使ったかららしいのです……」 

 

 魔力を持たない人々が魔力を持つ人々の国に取り込まれてしまったら、力のない彼らに明るい未来はない。

 魔力持ちの奴隷になる未来しか見えてこない。だからどうしても自分達の国を作らないといけない。でもどうやって魔力持ち達に勝てるのか……

 

 やはり総力戦で戦わないといけない。しかし、現実は体力はともかく、精神面の強さ弱さはかなり個人差がある。そこで数人の催眠術師が、兵士達に暗示をかけた。

 

 すると彼らは魔法使いや魔物、妖精にも怯えることなく果敢に戦いに臨むようになった。

 彼らは恐れも迷いも躊躇いもなく突撃してくるので、次第に敵方は彼等を恐れ慄くようになっていった。

 

 リーダー達は暗示の効果に驚き、催眠術師に頼らずとも、これらの暗示をもっと効果的に使えるようにする方法を研究し始めた。

 それがマインドコントロール法だったのだ。

 

「そのマインドコントロール法というのは、魔力並に恐ろしいですね。

 それを使われてしまったら、自分の知らないうちに、人の言う通りに行動してしまうのでしょう?」

 

 話を聞いたパークスが珍しく青褪めていた。

 

「まあそうだが、国家が成立した後は使われなくなったそうだよ。

 魔法でいう禁術みたいなものとなったんだろう。

 ただし、周辺の国々はその東の国がいざとなれば、国民総出で怖いもの知らずで挑んでくることを知っている。だから手を出さないのさ」

 

 レオナルドの言葉にパークスはなるほどと頷いた。

 

「やはり旦那様もそのマインドコントロールとやらをご存知だったのですね」

 

「これでも外交官なんでね。

 でも、君は何故そんな事を知っているんだい? ジュジュ」

 

「子供の頃に読んだ歴史書に書いてありました」

 

 ミラージュジュの言葉にパークスが驚きの表情を表した。

 

「そんな危険な書物が図書館に置いてあるんですか? まずくはないですか? 

 悪用しようとする輩が出てきたらどうするんでしょう」

 

「ジュジュ、外国官として参考に読んでみたいから、その本のタイトル名を教えてくれないかい?」

 

 すると、ミラージュジュが珍しくばつがわるそうな顔をした。そして言い辛そうにこう言った。

 

「ええと。その本は多分もう読めないと思います。多分禁書だと思うので……」

 

「「・・・・・」」

 

 男性二人は黙った。

 この品行方正、淑女の鏡、いや見本みたいなミラージュジュからはとても想像出来ない話に絶句した。

 もっとも、妻の子供の頃を知っているレオナルドが驚いたのは、禁書を読んだ事ではなく、何故自分がそれを知らなかったのか、という事だが。

 

 ありがたい事に、レオナルドの代わりにパークスがそれを質問してくれた。

  

「奥様はどうやってその本をお読みになったのですか? 禁書というくらいなのですから、本来はそう簡単に読む事は出来ないのでしょう?」

 

「ええ……。

 まだ年端のいかない子供だった頃の話だし、お二人だからお話ししても構わないですよね?

 実は友人から又借りしたんです」

 

「又借りと申しますと、ご友人が誰かから借りたその本を奥様がお借りしたという事でしょうか?」

 

「そうです」

 

 ミラージュジュは頷いた。

 

 子供の頃、ミラージュジュには親友と呼べる大切な友人が二人いた。

……過去形ではなく、彼女にとってはいる!だったが…

 

 一人は三つ年上の貴族の令嬢で名前はレナ。家名は知らない。そんなものは必要ないと思っていたから。

……大人になった今では一応聞いておけば良かったと切に思っている。そうすればもっと簡単に彼女を見つけられただろうに…

 

 レナは眩い金髪に深い青い瞳をした絶世の美少女だった。突然会えなくなった当時は、あんな美人なんだから、すぐに会えるだろうと高を括っていた。

 しかし、三つ違いの為に学園では在籍が重ならなかったし、先輩達から情報を得ようと努力してみたが、教えてもらったどの美少女もレナとは違っていた。

 

 結婚して半年が経ち、少しは社交の場に出るようになってはいたが、未だに彼女には再会出来ていないし、有力な情報も入ってこない。

 あんなに美人なのに不思議でならない。領地にでも籠もっているのだろうか?

 

 そしてもう一人の友人は、同じ年のノアだ。平民なので元々家の名前はない。

 幼い頃に両親を亡くしていたらしく、彼女は孤児院で暮らしていた。

 ノアもレナ同様絶世の美少女で、眩しく輝く銀髪にエメラルド色の瞳をしていた。

 

 ノアとも突然会えなくなり、何度孤児院を訪ねても知らぬ存ぜぬを繰り返されて、けんもほろろに追い返された。

 そこで仕方なくミラージュジュが家名を名乗ると、神父達はコロッと態度を変え、ノアは養女に出したと言った。

 そこでその養子先を尋ねたが、それは教えられない決まりになっているの一点張りだった。

 

 ミラージュジュはその時点でその教会に不審を抱いた。いや、前々から怪しいとは思っていたのだ。

 しかしまだ子供だった彼女には為す術もなかった。それがとても悔しかった。

 

 その親友二人と一体いつどうやって知り合ったのかというと、それはミラージュジュが九才の時、国一番の大きな祭りが行われた初日の事だった。

 

 レナとノアはその美しさのせいで、男に絡まれて危険な状況に陥っていた。

 そんな二人をミラージュジュが助けた事が知り合うきっかけだった。

 

読んで下さってありがうございました。

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