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第一章 契約結婚

 小説あるあるのテンプレがオンパレードに次々ヒロインに襲いかかって来る、そんなストーリー展開です。本当は副題に〜テンプレ・オンパレード・ストーリー〜としたかったのですが、文字が多すぎて断念しました。

 色々とてんこ盛りですが、決してドタバタコメディーものではありません。シリアスです。最終的にはハッピーエンドになる予定です。

 最初のうち、夫が最低過ぎて引いてしまうかもしれませんが、訳アリなので、最後まで読んで下さるとうれししいです。


 ミラージュジュはつい油断してしまっていた。無事何事もなく学園を卒業できたので。

 

 だってそうでしょう? 卒業式の翌日は結婚式を挙げる予定だったのだから、このまま無事結婚生活が始まると、普通は考えるじゃないですか!荷物もとうに嫁ぎ先に運び込んでいたし。

 それなのに、まさか結婚式で神官の前で永遠の愛を宣言した直後に、白い結婚を言い渡されるなんて。こんなの詐欺だわ。

 

 元々政略結婚なんて、契約結婚とそう変わらないものなのかも知れない。だけど、もし契約結婚をするなら事前にそう言うべきよ。そうすれば、私だって、覚悟を決めて、貴族の令嬢らしく毅然と対応できたかもしれないわ。

 

 でも、婚約してからこの三年、滅多に会う事はなかったが、夫レオナルドはとても彼女に優しかった。紳士的で、とても大切にしてくれた。だから生まれ初めて彼女は期待をしてしまったのだ。この方だけは自分を見てくれる。この方だけは自分を愛してくれる。たとえ一番でなくてもと……

 

 貴族が愛人を持つなんて事はよくある事だ。正妻は政略結婚によるものが多いから、真に愛する人は愛人にして外で囲うのだ。

 それでも正妻の産んだ子供しか後継者には出来ない。もし愛人の産んだ子を後継にしたければ、正妻の産んだ子として偽らなくてはならず、どんなに夫が高飛車であろうと、妻が認めなければそれでおしまいだ。

 だから一応正妻を立てて、それなりに扱うのが当たり前になっている。

 昔は妻を脅して無理矢理認めさせる輩もいたらしいが、今では妻の親族がいる前で養子縁組のサインをしたものでなくては有効にならない決まりになっている。

 それはそうだろう。勝手に愛人の産んだ子を後継者にされたのでは政略結婚の意味を成さなくなるのだから。

 

 それなのに、結婚の誓約書を書いたその直後に、真実の愛で結ばれている相手がいるから、君とは形だけの夫婦だと言い渡されたのだ。

 しかも、愛人を外で囲うのではなく、同じ屋敷内で共に過ごすというのだから、どれだけ人を馬鹿にしているのだろう? 

 その上、その愛人の産んだ子を後継者にするつもりだから、愛人が妊娠したら、妊婦の振りをしろと平然と言った。

 ミラージュジュが産んだ事にすれば、わざわざ彼女の実家の承認もいるまいと。

 

 悪魔のように狡猾な男だ。そして、血も涙もない冷血動物だ。普通そんな非常識な要望が通る筈はない。しかし、夫はわかっているのだ。妻が自分の要望を受け入れる事を。彼女には拒否権がない事を。

 

 そう。彼女は今更離婚されても帰る家はない。いや、家はあるが、彼女自身が絶対に戻りたくない。それを知っているからこそ、こんな無茶苦茶な要望をしてきたのだ。

 

 

 最初から優しくなんかしてくれなければ良かったのだ。そうすれば、無駄な期待など抱かなかったのだから。その鬼畜のような要求だって、唯々諾々と承知しただろう。実家から出られたらそれだけで良かったのだから。

 しかし、優しくしてくれたから、微笑みかけてくれたから、少しだけ期待してしまったのだ。もしかしたら自分を見てくれるかもと。自分の存在を認めてくれるかもと。

 

 もう長い事自分には感情なんてものはなくなってしまったと思っていた。しかし、後から後から涙が溢れて止まらなかった。

 本当は女の、いや、妻の矜持で鉄の仮面を付けるべきだったのだろう。しかしそんなプライドなんて今更何の役に立つのだろうか。妻どころか、人間としてこんなに蔑ろにされているのに。

 

 薄笑いを浮かべながら淡々と話をしていた夫は、妻が声を出さずに泣いているのを見て、初めてギョッとした顔をした。きっと、うっとおしいと思ったのだろう。

 しかし、こうなってはどう思われようが、もうどうでも良かった。きっとこの男も両親や兄同様、私が泣こうが喚こうがただ無視するか、居なくなるか、泣くなと怒鳴るかだろうとミラージュジュは思った。

 

 ところが意外な事に、夫は妻が泣き止むのを辛抱強く待ってからこう言った。

 

「私の要望は以上だ。それで君の要望は?」

 

 妻は夫の言葉にまた驚いた。これだけ自分勝手で非人道的な事を言ったのに、妻の要望を尋ねるなんて信じられなかった。

 愛人は認めない。自分だけを愛してと言ったら、その願いを叶えてくれるとでも言うのか。絶対に無理だろう。

 どんな要望なら叶うのか、それが気になったので、無駄だと思いながらも一応言ってみることにした。

 

「形式上の妻をいきなり要望されても、私には残念ながら演技力がありませんので、すぐに他人様にばれてしまうでしょうから、社交の場には出たくありません。それでよろしいでしょうか? 

 貴方の真の奥様はこの侯爵家のメイドだったという事ですが、元々男爵家のご令嬢なのですから、その方をお連れになっても問題はないのではありませんか?

 私はそれほど世間に顔を知られておりませんから、ばれないと思いますが?」

 

 すると夫は即刻拒否した。

 夫の真の奥様のマナー技術は、侯爵夫人としては不十分だと言うのだ。それなら、教育を施せばよろしいのでは?と言えば、自由奔放なところが気に入っているのだと宣った。

 そして案の定彼はこう言った。

 

「学園の成績はかなり良かったと聞いているが、意外に君は頭が悪いね。私は形式上の侯爵夫人が欲しいから、それを振る舞える伯爵令嬢である君を妻にしたんだ。

 君に演技力なんかいらない。貴族同士なんてみんな、ほとんど政略結婚で愛情など持ち合わせていないのだから、仲の良い演技なんてそもそもしなくていい。ただ社交界のマナーさえきちんと守り、侯爵夫人として振る舞ってくれさえすれば。

 それに、社交もしないのなら、君は一体この家で何をするつもりだい? ただの無駄飯食らいになるつもりかね?」

 

 要望を言えというから言ってみただけだが、思った通りの返答だった。だから、今度は彼女の方から尋ねてみた。

 

「それでは、一体どんな要望なら聞いてくださるのですか? 頭の悪い私には見当もつかないのですが」

 

「さすが成績上位者、切り返しが早いね。

 うーん、そうだね。たとえば君の実家を潰してやるとか?」

 

 思いがけない言葉にミラージュジュは瞠目した。彼女は婚約している間、家族の事を悪く言った覚えなど全くなかったからだ。それなのに、何故そんな事を言い出したのか。いや? 話をしなさ過ぎたせいで疑問を持ったのかもしれない。

 

「私の実家を潰してしまってよろしいのですか? 政略的に伯爵家がこの侯爵家にメリットがあると思ったからこそ、不本意ながら私と結婚なさったのでしょう?」

 

「確かに君の言う通り、父は黒いダイヤの鉱山を持つ伯爵家と縁を結ぼうとした。しかし、もう代替わりしてこの侯爵家の当主は私だからね。私の考えは古臭い認識の父とは違う。

 エネルギーの材料として黒いダイヤはそろそろ用無しだ。第一、そろそろ君の実家の鉱山、枯渇するだろう?」

 

 夫は黒縁眼鏡を片手で直しながら、とても嫌らしい、皮肉のたっぷりこもった言いまわしでこう言った。それを聞いて、妻は今度こそあ然とした。

 さすが侯爵家、よくぞそこまで他所の家の懐状況を調べたものだ。いや、驚くのはそこじゃない。没落とまではいかないが、徐々に衰退する家だとわかっていながら、何故そんな家の娘とわざわざ結婚したのだ!

 

 彼女の心の声が聞こえたかのように、彼は言葉を続けた。

 

「だからね、さっきから言っているように、私は侯爵夫人として当たり障りがなく振る舞える妻が欲しかったんだよ。その実家なんてそもそもどうでもいいんだ。しかし、普通の高位令嬢では、私の要望をきいてはもらえないだろう?」

 

 なるほどそういうことか。妻はようやく納得した。

 しかし皮肉な事だ。たとえお飾りの妻だとしても、生まれて初めて自分は、家ではなく自分自身を必要とされたわけなのだから。

 

「それでは、実家を潰して、あの家の者達を平民に落としてください。その望みを叶えてもらえるのでしたら、貴方のおっしゃる通りに振る舞います。そして、私に必要がなくなったら、即刻切り捨てて下さっても構いません」

 

 自分の力だけでは到底あの家に復讐は出来ないのだ。それを代わりにやってくれるのなら、どんな屈辱的な命令でも従おうではないか。

 ただし、もしそれが口約束で終わったら、こちらだって考えがある。一寸の虫にも五分の魂があるのだ。

 そんな妻の考えを見抜いたように夫は言った。

 

「心配するな。契約は必ず守る。

 そして、君を切り捨てる事は絶対にしないよ」


読んで下さってありがうございます。

今日中にもう一つ投稿予定です。

引き続き読んで下さると嬉しいです。


 誤字報告ありがうございます!



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