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第75話 研究の成果

 不味いな。

 目の前の状況を見て私は歯噛みする。


 この戦況を端的に表現すると、苦戦と言う他ない。

 何とかなっているのはコロコロ君のおかげだが、そもそも彼はどちらかと言えば味方ではなく護衛対象だ。そんな彼が最大戦力として、エリク相手に斬り合いを仕掛けている。それだけでも良くないのだが、問題はそれどころではなかった。


 戦況は一見こちらが押している様にも見えるが、エリクはどれだけ大ダメージを与えても即座に回復してしまうのでまるで無意味である。最初は慎重な戦いをしていた彼も、自分の回復能力に気付いてからは積極的な戦い方へと切り替えている。

 その上、気になる事が二つ……。


「……あの力、忌々しいですね」

「傷の回復、能力値の増強、状態異常の無効化……精霊の力でしょうか」

「効果はそれだけではない気がしますが、その線が濃厚でしょう」


 加勢に来てくれたコーディリアとそんな会話を交わしながら、私はまだ使っていない最後の状態異常、恐怖の魔法を使う。万が一の望みに賭けて高濃度の毒液も一緒に投げた。

 もはや一切避ける気のないエリクは、その魔法と薬をその身に受ける。


 しかし、魔法視では一切の影響を残さず、魔法と薬は虚空へと消えて行った。

 いや、正確に言えば一瞬状態異常を示す円が出るのだが、即座に消えてしまう。つまり、彼らは装備や耐性で状態異常を無効化しているのではなく、即座に解除してしまう“体質”ということだ。


 そんな魔法、私は聞いたこともない。

 神聖術ではないだろう。召喚術の支援効果は幅広いので知らない物もあるとは思うが、何度か出したり消したりしている召喚術の動きとは関係なく常に発動していることから、まず違うと予想できる。


 となれば残された可能性は、あの見覚えのないバフ効果……。

 コーディリアの言う通り、まず間違いなく精霊の何かだろう。精霊の里の大精霊から正式に精霊核の破壊を依頼され、戦闘力では敵わないから特別な力を与えられる……ありがちな話だ。


 しかし同時に、何とも特別感のある“シナリオ”だ。

 言ってみれば“ありがちな英雄譚”。特別課題自体がシナリオのある課題なのだから、正規ルートはあちらと言う事か。ある意味真っ当に調査していた私とは正反対の行動なのにな。


 そう考えると、この力……本来は、あの“壊れかけの機械を相手に勝利できるようになる”ためのバフだと言える。

 つまり今の彼らは、あの時のコロコロ君以上の力を持っているということになる。普通に考えて、ただの一般生徒である私達に倒す力はない。戦略の鍵は護衛対象でもある彼となるが……。


 しかし、私には一つの不安があった。

 私はコロコロ君とエリクが切り結ぶ様を、瞼越しに覗く。

 双方が攻撃し合い、オーラが揺れる。僅かに小さくなった青と黄色。しかし黄色の方はすぐに元の大きさに戻り、青はそのままだ。これは回復効果の有無なのだが、問題はもう一つある。


 隙を突く様にティファニーが矢を放ち、エリクの左目を射貫く。大きく揺れたエリクのオーラは、少し時間を掛けて元に戻った。


「……やはり、何かありますね」

「え?」


 私は最早目晦まし以上の意味がない魔法を繰り返しながら、そんなことを呟く。


 どう見てもダメージ量がおかしい。

 コロコロ君の火力はティファニーに比べて、少なくとも倍以上はある。これは実験の結果分かった事実だ。

 しかし実際にエリクと斬り結ぶところを見ると、ティファニーの方がダメージが出ている様に見えるのだ。


 まず間違いなく、精霊か、それに類する者か……とにかく対象は分からないが、コロコロ君からの攻撃を軽減し、彼への攻撃力を増しているとしか考えられない。

 言うなれば“精霊特効”とでも言うべきか。


 私達にコロコロ君の回復手段がない以上、彼を前線に立たせておくのは時間に限りがある。

 しかし彼一人ではバフの関係で押し切れず、私は状態異常の無効のせいでほとんど役割を持てない。頼りになるのはティファニーとコーディリア。残りの二人、ロザリーとリサはそれぞれの敵と相対しているので呼び出せない……。


 この状況からの勝ち筋なんてあるのだろうか。


 言ってみれば、向こうは負けイベントを覆す能力値を持ったキャラクターで、私達は負けイベントのボスを味方に付けた一般人。

 シナリオがおかしくならないために、勝っても負けても負け扱いになるなら……何て現実味のないことも考えてしまうが、この仮説もまた正規の手順を踏んで力を手に入れた彼らには通用するとは思えない。


 精霊核を破壊した場合、大精霊がお礼としてくれるのは一体どんな代物なのだろうか。そんな現実逃避をしている間に戦況が動く。


 黒い稲妻が戦場を駆け、ティファニーが間一髪の所でそれを躱す。

 しかしコロコロ君との距離が離れてしまったため、エリクは1対1の状況を見逃さずに攻勢に転じた。


 攻撃の発生源は少し離れた場所にいる暗黒術師。攻撃型の魔法使いだとは思うが、その役割はどちらかと言えばサポートが主体に見える。言ってみれば、前衛(エリク)が気持ち良くなるための装置だな。

 とにかく、一つ試してみたいことがある。実験台には丁度いいし彼女に協力してもらおうか。


 召喚体が(ことごと)く状態異常の餌食になってしまい、随分大人しくなってしまった召喚術師。私はハラハラしながらも手が出せない彼を尻目に、暗黒術師に向けて一つの魔法を発動する。


 それはただの状態異常魔法だ。

 しかし、授業で習ったわけではない。どこかの資料を漁ったわけでも、もちろんネットから拾って来たわけでもなかった。


 私独自の、オリジナルの魔法。

 私が一から作図して、試行錯誤の末に描き出した物だ。もちろん元となった魔法はあるのだが、まさか本当に呪術として転用できるとは思っていなかったし、流石に魔法の種類を書き換えるなんて事は初めての経験だったので、多少の……いや、少なくない労力が費やされている。


 突如その魔法陣に取り囲まれた暗黒術師は、一瞬だけ驚いた表情を見せたが避けようともしない。呪術なんて効果がないと高を(くく)っているのだろう。精霊の力……回復効果と状態異常無効があればそう考えるのは当然だ。

 彼女はこれを、意味のない魔法を目晦ましとして繰り返す私のささやかな無駄な抵抗だと、そう思っている。


 私にはそれが手に取る様に分かる。

 なぜなら、そう思わせる様に戦っていたのだから。


「コーディリア、時雨をエリクに張り付かせて」

「はい。分かりましたわ」


 暗黒術師を取り囲んでいた魔法陣が一瞬輝くと、ふわりと柔らかな光を残して消えて行く。

 攻撃性の欠片もないその見た目を不思議に思いつつも、彼女はティファニーを引き離すために次なる魔法を発動した。


 どうせそれ、不発だろうけどな。

 私はその結果を見ることもせずに傘を閉じ、エリクの下へと駆け出す。


 今私が使ったのは“狂化”の魔法。

 対象に狂化状態を付与するという、狂戦士の魔法の改良版だ。リサにいつか見せて貰った魔法陣を呪術用に改良し、シーラ先生と相談しながら完成させたオリジナルの魔法。


 狂化はスキルの使用を封印する代わりに能力値を増幅させる効果だが、ここで重要なのはこれが“バフ”であるということだろう。

 良性状態異常に分類される狂化状態は、“状態異常解除”の魔法で解除されない。それでいて状態異常を付与する呪術という括りだからなのか、パーティメンバー以外を対象にすることができる。

 一応魔物に使うとバフなのになぜか“耐性”があったりするのだが、生徒相手には関係のない話だ。


 大半の学科にとって被ダメージ増加+スキルとアイテム封印というのは、能力値上昇を引き換えにしても割に合わない効果である。特に後衛の魔法型なんて何も出来なくなるのとほとんど大差がない。

 攻撃の手がなくなるだけでなく、元々低い防御力は能力上昇効果を得てもほぼ変わらず、ダメージ上昇効果をもろに受けてしまうのも難点だ。


 これが暗黒術師の彼女に通ったということは、狂化状態が解除されるまで彼女は何もできないという事。

 これで召喚術師と暗黒術師は封じた。神聖術師と狂戦士は向こうの二人が何とかしてくれている。残っているのはエリクのみ。


 私の頭上を追い越して、蝉の時雨が空を飛んで行く。ばたつくような翅の動かし方の割りに、飛行速度はかなりのものだ。それは一瞬目を外すと消えてしまう程。

 彼はコロコロ君と激闘を繰り広げるエリクの背後に着地すると、その巨大な腹を僅かに動かした。


「蝉は翅を擦り合わせて鳴くのではなく、お腹に音を出すための膜と筋肉があるのですよ」


 とはコーディリアの談だが、これだけ大きいと翅がピクリともしていないのがよく分かる。私はてっきり鈴虫みたいに鳴いているのだと思っていたが、どうにもそれは違うらしい。

 言われてみれば二枚の翅はこすり合わせられるような位置に付いていないな。


 時雨の主な役割は敵の能力値の低下だ。

 鳴き声を聞かせた相手の能力値をガクッと下げる。役割としてはデバフしかできない歌詠みといった所で、遺跡の調査で使った捨て身の攻撃など最後の手段である。


 しかし、今回重要なのはそこではない。

 実はこの鳴き声、かなりうるさいのだ。それは至近距離で聞かされると自分の声すら聞こえなくなる程。この場ではこっちの方が重要だった。

 しかも声自体が攻撃判定になっているらしく、パーティアタックの仕様の関係で味方の耳にはあまり大きく届かない。


 突如として始まった、体長70㎝はあろうかという蝉の独唱。

 それを間近で聞かされたエリクは顔を顰める。耳を塞ぐ事もできないし、味方からの声などまともに聞こえないだろう。背後にいる味方と連携など取れるはずもない。


 これでエリクは完全に孤立した。

 しかも暗黒術師からの支援がまだあると思い込んでいるし、もしかするとロザリーがハメた神聖術師の窮地にも気付いていないのかもしれない。


 これで何とか決着を付けたい所だが……。


 私は不安を振り払うように、勢い良く地面を蹴った。



 感想、評価、ブックマークありがとうございます。


 次回! 長かった競合課題編ついに完結(予定)です。昨日あたりで大体二週間くらい経ってましたね。時の流れが早い……。


 また前々から書くと言っていた用語解説状態異常編、ついに完成の目途が立ちました。何事も無ければそろそろ公開すると思います。もし要望があれば専攻学科編とかも書くかも。他にも毒性学とか魔法陣とか色々込み入った設定がありますが、こっちはまぁあんまり本筋に影響なさそうなのでなくてもいいかなと。

 色々設定は書くしそれが転機や伏線になることもありますが、基本的に何か色々主人公が考えているんだなぁくらいの話なので……。

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