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第60話 競合課題2

 課題の競合とは、特別課題のみに存在する仕様だ。


 特別課題は基本的に唯一無二で、誰かがクリアすると同じサーバーの中では再度出現することはない。あったとしても精々似たような課題が出るくらい。

 そして賢者の花冠(はなかんむり)では……と言うよりも現代のVRゲームのほとんどは、通信を行う見かけ上のサーバーは一つしかないので、出現した特別課題は文字通り世界に一つだけの課題となる。


 では同じ特別課題を、ほぼ同時に複数のパーティが受けるとどうなるのか。

 コンマ数秒でも早い方が優先されて、遅れた方は課題に参加できないのだろうか。


 実は違う。

 先に受けたパーティと別のパーティが数秒以内に(より正確に言えば、課題を受ける意思を示し、それが確定する前に)、同じ課題を受けると課題が“競合”するのだ。


 競合した課題には、課題を受けることができた複数のパーティが同時に参加することができる。同じ目標を持った生徒が、同じ魔法世界で同時に活動できるのだ。

 特別課題の出現条件が良く分かっていないので狙ってできる事ではないが、課題達成に対する報酬も参加した全員に与えられる。


 そして、最も大きな仕様として、競合課題を受けた生徒は、競合相手として学院から認められた他の生徒への“妨害行為”の一切が許可されている。

 攻撃しても眠らせても、もちろん殺してもいい。それによって誰かにマーカーが付くことはない。課題で指定された特定の魔法世界では、という区切りは付いているが、競い合うという名目で一時的に生徒同士で殺し合うことさえ許されているのだ。


 そんな仕様なので、競合課題は本作では数少ない、とても限定されたPvP要素、という見方も出来る。

 しかし、実際にはそこまで殺伐としているわけではないらしい。


 ほとんどの特別課題の目的は調査。そのため一体しか居ないボスを討伐する必要があるわけではないし、最悪フィールドの写真でも撮っていれば、報酬は微々たるものではあるが一応達成扱いになる。

 要するに、課題内容に競争を煽る様な要素があまりないのである。事実上競合相手に負けたとしても、何も得られないわけではない。万が一、完全に何も得らない程に強い競合相手に粘着された場合、常時粘着していたはずの競合相手も調査は全く進んでいないはずだ。


 そのため、システム上は競合しているものの、競合課題で本当に争うかどうかは生徒次第となっている。

 別々に調査をして互いに一切干渉せず調査を行うのも、競合パーティと協力して事に当たるのも生徒の自由だ。もちろん、協力しようと言って最後に裏切り、美味しい所だけ持って行くのも自由。難しいとは思うが。


 そんなシステムであるため競合課題と言いつつも、基本的には協力、そうでなくとも不干渉の方針になることがほとんどらしい。

 そもそも、競合相手を力一杯叩いても作業は互いに進まないので、自陣にまったく得がない。

 競争させたいのかさせたくないのか、よく分からないシステムだ。まぁ、弱小としての自覚のある私としては、血気盛んな連中と当たる可能性が低いのは大歓迎ではあるのだが。


 話し合いを続けるティファニーとロザリーの作業を一旦中断させた私達は、競合相手どんなパーティかな、コーディリアの課題だからコーディリアと同じくらいの強さの人じゃないかな……なんて他愛のない話をしながら、万象の記録庫から今回の目的地まで飛んだ。


 本と人ばかりの記録庫から一変した視界一杯に広がったそこは、どこか清涼な気配の漂う森だった。

 鬱蒼とした木々が立ち並び、その木々もコケやツタで緑色に覆われている。見渡す限りの深い緑。

 私達が立っているのはそんな森の中にある、切れ目の様な場所だった。空を見上げれば、森の中でここだけ太陽の光が差し込んでいる。


 爽やかな、それでいて肌寒いように感じる森の中で、私は仲間を振り返る。

 丁度、笑顔のロザリーが「深淵より滲み出でよ、我が魔刃……アビス・リッパー!」と魔法の書から自作の大鎌を取り出している所だった。ちなみにあれは私とコーディリアの武器を作った経験を存分に活かした武器なので、仰々しい名前通りとはいかないまでも、そこそこ強かったりする。


「くっくっく……我が闇の力と叡智を以て、先人の遺物の謎を解き明かしてやろう……」

「……そう聞くと、古代言語学ってやっぱり副専攻の中でも特に有用な気がしてきますね」

「それはお前も……いや、今にして思えば、なぜ魔法言語学は副専攻にないのだろうな」

「……さぁ? 教えられる先生がいない……ということではないでしょうし、どうしてでしょうね。当たり前だから教えてくれないとか?」


 遺跡の調査と言うことで、このパーティで唯一古代言語学を学んでいるロザリーが上機嫌だ。確かに古代言語学は、遺跡の調査では役に立ちそうな知識だ。彼女が張り切るのも多少は分かる。

 まぁ彼女が知っている言語が、このランダム生成の魔法世界でも使われていれば、という前提があるが。


 私は古代言語は読めないが魔法言語なら多少は読めるので、私も調査中どこかしらで役に立つかもしれないな。


 そんな事を言い合いながら装備を準備していた私達だったが、パーティの一員であるリサが、そんな私達を見て驚愕の表情で固まっていた。


「あ、あんた達……何で全員制服じゃないのよ!」

「え? ……ああ、そう言えばそうですね」


 リサに指摘されて、私は自分の服装を見下ろした。

 私が今着ているのは制服ではない。あのティファニー謹製、黒のドレスだ。手にしている武器も、もちろんロザリーの白い傘。


 学院にいる間は普通に制服で過ごしているのが、魔法世界では何と言っても武器が必要。そして今使っているのはこのドレスに似合う様に作られた白い傘……。

 試しに一度制服で手に持ってみたりしたのだが、今一つ格好良くないという評価をロザリーから受け取ることになった。何よりティファニーのプレゼントを一切使わないというのも何なので、私とコーディリアはこうしてドレスを“戦闘用衣装”として登録しておいたのだ。


 流石に普段着にするのはちょっと……多分、学院首席のブローチを胸に着けるより、あのドレスで生活する方が目立つと思う。

 そこはティファニーに納得してもらった……というか、そもそも彼女はいつも着ていて欲しいとかではなく、偶にその恰好を自分に見せて欲しいというのが本音だったので、私とコーディリアの制服と私服に関する主張はあっさりと認められた。


 服を作った張本人であるティファニーは、私達が着替えるならと言って自分はあの痴女……和洋折衷の遊び人の様な服を着ている。ひらひらとしていて弓を引くのに色々と邪魔だと思うのだが、リサによって前衛から解放された彼女は気にする様子もない。

 ティファニーは今もリボン状の帯に矢筒と剣を隠し、私と出会った時から使っている弓を弄っている。


 ロザリー? あいつは常時制服を着用していない。最後に制服を着ている姿を見たのはいつだったか……もう思い出せない程に昔の話だ。

 もうずっと前から、学院でも魔法世界でも自分の考えた格好いい寡黙な天才死霊術師の服をなびかせている。当然戦闘衣装もそれだ。


 そうなると、現在のパーティで戦闘衣装を用意していなかったメンバーはリサだけになってしまっていた。

 彼女が今着ているのは戦闘用に誂えた衣装ではなく、半ば普段着になっている制服だ。多少着こなしで個性を出しているとはいえ、私達の様に派手さはない。


 彼女は自分の服を見下ろして小さく嘆く。


「……もしかして、制服で記録庫に入るのもう流行ってないの……?」

「いえ、(わたくし)たちは偶々で……そもそも、こういった服装に流行り廃りがあるのでしょうか……?」

「着替えたいならわたしが作ろっか? 流石に帰ってからの話になるけど」


 予想外の所で落ち込んでしまったリサを、コーディリアとティファニーが宥めている。ティファニーの提案は多分、優しいとかではなく“狂戦士”という強クラス相手ならそこそこお金取れるんじゃないかみたいな算段だと思うが。


 とにかく、彼女は放っておいても大丈夫そうだ。

 多分だが、何日もパーティから除外され続けてナーバスになっているだけだろう。戦いが始まれば元気になるはず。


 私はそう結論を出すと、改めて周囲を見回す。

 私達のいる森の切れ目は中々特徴的な場所だ。一本の線の様に木々を分断し、陽光の筋を背の低い草へと落としている。どう見ても人工的、もしくはそれ以外の何かの要因によって、ここだけ木が取り除かれた場所のように見えた。

 僅かに曲がっている切れ目の先を見詰め、私は目下の問題を口にする。


「……鬱蒼とした森ですが、ここはどうやら道のようですね。おそらく問題の遺跡へと続く道……」

「しかし、前か後か、どちらに進むべきか。それが問題だ。……そう言えば、競合した生徒の姿が見えん。どちらへ向かったのだろうな」

「これだけのんびりしていて来ないということは、先にどちらかへ向かったのでしょうね。立て看板でも残しておいてくれれば、逆方向へ向かったのですが」


 私達が降り立ったのは森の中の道と思しき場所だ。今回調査すべき遺跡の目の前ではない。近くにあったとしても木々が邪魔をして見えないだろう。鬱蒼とした森は見通しが悪いのだ。

 目的地である遺跡はどちらかに進んだ先にあると予想されるが……そのどちらに行けばいいのかは分からない。

 同じ場所へやって来たであろう競合パーティとも、なるべく会いたくないというのが私の本音だ。


 私とロザリーが進行方向について悩んでいると、突然ティファニーが手を挙げた。その顔には迷いは見えない。


「遺跡の方に進めばいいんだよね? じゃあわたしが見て来るよ。皆はちょっと待ってて」

「え……?」


 彼女は言うが早いか、弓を肩にかけると近くにあった大きな木に手を掛ける。凹凸はあるとは言え、ほぼ垂直に立っているその木を抱きかかえるようにすると、彼女はするするとその木に登り始めた。それは危ないとか止めろとか、そういった忠告の一切を許さぬほどに素早い動き。

 ツタやコケと言った手を掛けるには少々危なそうな要素満載の木を、まるで駆け上がる様にして登っていく。


 彼女はあっさりと枝の多い領域までやって来ると、猿の様に身軽な動きで天辺へと足をかけてしまった。

 私はそれを見て小さく首を振る。私は何時間やっても絶対に無理だな。


「……呆れた。あんな特技も持ってたんですね。ロザリーは出来ますか?」

「木が登れても、正直な話、格好良くはないだろう。まぁ森で迷わずに済むというのは、利点かもしれんが」


 ティファニーはしばらく木の上でキョロキョロとしていたが、何かを見付けると高い木の上からぴょんと飛び降りる。当然着地を綺麗に決め……軽微な落下ダメージを受けて顔を顰めた。

 油断していて猿も木から落ちた……と言うより、うっかりダメージを受ける事を忘れていたような反応をする彼女に、私達はゆっくり近付いて行く。


「あ痛っ……そうだ、ここだと()()ついてないんだった……」

「ティファニー、どうでした?」

「ああ、うん。見えたよ。森の中……ここから左手に遺跡っぽい建物があるね。ここを真っ直ぐ道なりに進んだ先を左に曲がると見えてくると思う。道は続いていたよ。ただ……」

「ただ?」


 一旦区切られたティファニーの言葉に、コーディリアが首を傾げる。

 それを見ていたティファニーがだらしない笑みを見せたが、私の視線を受けて一つ咳払い。そのまま気を取り直すように話を続けた。


「逆方向、この道を遺跡とは反対に進むと、何か集落っぽい所に繋がってるみたい。多分だけど、遺跡と調査拠点みたいな村を繋ぐ道なんじゃないかな、ここ。情報を集めるならそっちの方が楽そうだけど……どっちに進む?」


 ティファニーの問い掛けに対して多数決を取ると、結果は3対2。

 面倒な交渉、情報収集を嫌う私達遺跡派が半数を超え、私達はこのまま遺跡へと向かうことになったのだった。



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