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第41話 テスト明け

 筆記テストは、大きく分けて専門と共通に分かれている。

 共通部分は専攻学科に関係のない、“魔法使いとして”の心得や、一種の設定としてだけ存在する魔法の基礎知識が出題される。これらはどの専攻なのかにかかわらず、全生徒に似たような問題が出題される。

 実はここだけでも合計で50点分もの配点がある。尤も、合格点は75点なので共通部分を満点にしても合格は出来ないのだが。


 残りの出題は専門部分、つまり専攻学科の問題になる。今回で言えば、初級の授業で習った魔法についての問題だ。

 基本的には魔法効果と魔法陣についての問題がずらりと並ぶ。複数並んでいる魔法陣から適切な物を選べだとか、魔法の効果の説明文の穴埋めだとか。応用問題では、特定のカスタムを施した時の威力値と詠唱時間の変化などまで。多少数学的な問題もあるが、全体から見れば少数だ。

 私が思った通り、魔法言語についての問題は直接的には出ていない。呪術科の全員が教えられているわけではないので、覚えていれば多少解くのが簡単になる程度の知識でしかなかった。


 そして、専門の配点は実質的に無限大に近い。とてもテスト時間内に解答できる問題数ではないからだ。

 酔狂なプレイヤーが記述式の文章題を飛ばし、選択問題のすべてを1と解答して数えた問題数は、合計2,000問。他の学科でも似たような問題数になっているらしいという噂だが、今の所確証はない。

 問題数に対して出題範囲が狭いので同じ知識で解ける似たような問題が頻出するわけだが、実際に解いて行くとまったく同じ問題と言うのはあまり印象に残らない。細かいところが違うのだ。よく見ないとひっかけ問題のように間違ってしまうだろう。


 もちろんこれだけ問題数があるならば、例え当てずっぽうでも、2000問解けば合計点数で余裕で合格……という事は無い。

 専門部分の点数は、何と正答率でマイナスに補正が入る。具体的には解き終えた部分までの正答率の2乗が、獲得した得点にかけられるのだ。


 例えば、専門部分で100点中50点を獲得した場合、正答率である0.5の2乗がかかって12点しか入らない。専門で12点だと、例え共通部分で満点を取っていたとしても不合格。

 しかし50点中50点を獲得していた場合、1.0の2乗がかかって50点が丸々得点として与えられるのだ。共通部分も満点ならば合計100点。筆記試験は無事合格となる。


 つまり、急いで解くことに大した意味はない。数を多く解けば解く程、間違った解答をした場合の減点が大きい。

 そこまで数を解かず、“難しい問題の手前”の問題まで解いて提出、というのが合格するための基本方針になるだろう。

 正答率に自信がない場合は素の点数を上げる必要があるので、分からない問題を飛ばすというのも作戦ではあるが、とても危険な選択だと思う。先に進んだ結果点数が下がると言うのは容易に想像できる条件なのだ。


 これは明らかに、運任せに早解きをした生徒を合格させないための措置だ。

 例えば当てずっぽうの早解きで2000問中200問正答した場合、獲得した点数の1%しか得点にならない。時間内に全問解く場合、共通部分も全問正解はしていないはずなので、これでは合格は厳しい計算となる。絶対できないという程ではないが、“問題に”助けられない限りは不可能だろう。

 逆に解くのが遅い人にとっては有利に働く条件だが、解くのが遅い生徒は正答率が高い事の方が稀だろうから、そこまで救われる生徒は多くはないと思う。


 しかし、ここまで色々とこの筆記テストについて語ったが、実際にテストをこうして受けて見ると、正直合格するだけならばそう難しいテストではない印象だ。

 共通部分の問題はかなり簡単で、事前に出題傾向を調べていれば誰でも満点が取れる内容。専門部分はやや難しい印象だが、それでも一問も解けないと言うほどではない。

 全問解くにはまったく足りないとはいえ、普通に受ける分には時間も十分にある。共通部分を満点、専門部分で30点は誰でも狙える難易度だと言えるだろう。


 試験終了の鐘の音と共に、私はペンを置く。カンニングや、時間外の解答は厳しく罰せられ、問答無用で不合格になる可能性もあると注意があった。

 私としても変な所で減点されたくはない。


 ペンの音以外が響かない教室で、受講者達が誰からともなく大きく息を吐く。それから程なくして一番後ろに座っていた生徒が、小さな山のように積み上がった私の解答用紙を回収していった。


 テストが終わった途端に、若干だが頭がぼんやりしてくる。酸欠だろうか。私も頭に残った熱を追い出すため、他の生徒に倣って大きく息を吐いた。

 できる限り本気で解いたが、どういう結果になることやら。共通部分はほぼ満点の自信があるが、専門部分は勘違いで間違っている部分も多そうで油断はできない。


 監督官だった眼鏡の教師が、集めた解答用紙を持って教室から出た。それを合図に、生徒たちは席から立ち上がる。


 これにて筆記テストは終了だ。酷い間違いをしていない限りは合格は出来たと思う。問題はシーラ先生がどの程度の点数を期待しているかだが……こちらは今心配しても仕方がないな。

 合否の発表は明日、詳しい点数は実技テスト終了後の明後日だ。今から筆記テストについて私にできることは、ただ待つだけである。


「すーっ、ふーっ……どうだった?」

「まぁ合格点は余裕ですが……どうでしょうね。見直しせずに解き続けましたから。案外低いかも、という不安は拭えません」


 隣に座っていたロザリーの問い掛けに、率直な感想を返して私も立ち上がる。私達は二人で、人の流れに乗る様に歩き出す。もちろん向かう先は人のひしめく教室の出口だ。


 テスト明けの高揚感と、どこか窺うような友人に対する問い掛け。それが少し懐かしく感じて、私は思わず頬を吊り上げる。


「……なんだか、昔を思い出す会話ですね」


 学生の頃なんて、大して楽しい思い出もない。

 そう思っていたのだが、実際にこうして過去と似たような体験をすると、あの頃に戻りたいような気分になってしまう。これも思い出の美化といった現象の一種なのだろうか。


 しかし、ノスタルジーに浸っているお気楽な私とは違い、ロザリーの反応はやや不審なものだった。


「ぐっ……ま、まぁ我らなら余裕だな。当たり前じゃないか。わっはっは」

「まさか、不合格なんて言わないで下さいよ? だから昨日テスト勉強したらって言ったのに……」


 どうやらロザリーは自信がないらしい。試験が始まる前から緊張していたが、おそらくは事前準備不足だったのだろう。私は彼女に反省するように告げる。


 しかし、そうは言いつつも、実際には私はあまり心配をしていなかった。

 ロザリーの場合、その時は実技で取り返せばいいだけなのだから、そもそも筆記試験を受ける必要もないのだ。筆記試験を落ちたというのは大した問題でもない。

 弱い弱いとは言われるが、それでも召喚系のクラスは戦えるクラス。実技でも十分に結果を出せるだろう。


 周囲を見る限り、ロザリーと同じように苦い笑いを浮かべる生徒は多い。テスト明けで晴れやかな顔をしている生徒と半分半分だろうか。私には何としても筆記で合格したい理由があったが、多くの生徒が気楽にテストを受けていたようだ。

 実は、筆記は時間の無駄だから受けないという生徒も結構多いらしい。今回は初回だから記念に受けた生徒もいるが、次回からは筆記を受ける生徒は物好きだけになって行くだろうな……。


「まぁ、結果はどうであれテスト明けです。レベル上げを兼ねて課題置き場に行きましょう。コーデリアが待っています」

「むぅ……我、そのコーデリアという娘と初対面なのだが……そいつは変な奴ではないんだな? この前のパーティは酷かったそうではないか」

「彼女は大丈夫です。むしろ向こうが“あなたに”どういう反応をするのかの方が圧倒的に心配ですね……」


 私は若干心配そうなロザリーを先導するように、人の溢れる廊下を進んで行くのだった。



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