第32話 パーティメンバー
今夜は二話更新。こちらは後半です。
私達、色物集団を迎えたフィールドは大きな森だった。
ロザリーと何度か行った覚えのある森とは、木の大きさや種類が異なる。この森は更に背と、密度が高い。それに合わせて葉の色も、梢のざわめきも少し硬いような印象だ。あちらが春先ならばこちらは、肌寒い夏といった雰囲気だろうか。
風は少し冷たく、どこからかツンと鼻を突くような刺激臭が漂っていた。用事もなければ態々入ろうとは思わないだろう。
いつの間にかパーティのリーダーの様な扱いになっている、竜騎士エリクが不気味な森からこちらを振り返る。
既に私達は戦地へと足を踏み入れているはずだが、彼の表情には余裕があり、少なくともロザリーよりは頼りになりそうに映った。
「今回の課題をもう一度、全員で確認したいんだけど、いいかな? 何か流れるようにここまで来ちゃったから、一応ね」
このパーティで一番の上級者である彼がしたのは、そんな提案だ。当然拒否しようとする者は名乗り出ない。実質的な決定事項と言ってもいい。
パーティプレイにあまり参加したことのない私には馴染みがないが、そういう最終確認みたいな話し合いもするのか。本格的だな。
必要なのかと少し疑問にも思ったが、私も初心者みたいなものだし、できる限り慎重になった方がいいかもしれないと考えを改める。誰か一人が勘違いをしていて目標を達成できなかったなど、目も当てられない。足を引っ張った本人も周囲もとてもいい気分で終わることはできないだろう。
そんな心配をしていると、私は初心者というワードをきっかけにある事に気付いた。私の隣で私に引っ付きながらも、矢筒と剣を準備しているティファニーについてだ。
「……確認といえばティファニー、あなた学院に入って日が浅いのでは? 色々と大丈夫ですか?」
「え? サクラちゃん……わたしの事心配してくれるの!?」
「知らない仲ではないので。私を追って来たにしては妙にレベル高い気がしますが、その辺どうなんですか?」
現在の私のレベルは30そこそこ。対してティファニーのレベルは何と26と結構高水準だ。私以下、ティファニー以上のコーディリアにも結構近い。
現在のレベルキャップが50なのを考えれば、彼女は十分に“中級者”程度の実力があることになる。
私が萌にこの作品をしていることを話したのがいつだったかは忘れてしまったが、確かパープルマーカーの解除前後だった記憶がある。
それから私を探していたとして、どうしてここまでレベルを上げる必要があったのだろうか。普通に学院を歩いていた方が出会えそうな気もするが。
そんなことを問いかけると、彼女は自信満々といった表情で胸を張る。
「わたしね、他の所で冒険者もしてたことあるんだから。弓の腕なら任せてよ! サクラちゃんを守るためにここでの勉強も訓練もしたからね!」
「……ならいいです。過度な心配はいりませんね」
「はぅあ……つんけんしてるのかわゆすぎ……」
ずっと気になっていたのだが、中身が成人女性と分かっているのに彼女のこの反応、どういう事なんだ……。
私とティファニーのそんなやり取りが終了すると、エリクがうんうんと頷いていた。おそらくは守る云々という話からだろう。どうやら背が低い呪術師である私は完全に彼の庇護対象として見られているらしい。
それとも、もしかすると可愛いという点に同意しているのだろうか。
「確かに、助け合う、仲間を守るっていうのは大事なことだね。僕もそうありたいと願っているよ」
「そういう話だったかしら、今の……でもお姉さんも、一流の男として女の子は守り抜く覚悟よ! 任せなさい!」
これまた話が妙な方向に流れて行ったな。この面子、思っていた以上に話が進まない。今回は話の腰を折ったのは私なので、指摘のしようもないのだが。
私は初期装備の杖を取り出しながら、わいわいと盛り上がる各々の装備を見比べていく。尤もセイカ以外は制服姿なので、装備というよりは武器というべきだろうか。
装備更新をしていないので、私が装備しているのはもちろん入学試験の時に無料でもらった杖だ。魔力補正値以外はゴミ同然だが、こんなのでも無いよりはマシ。
ちなみに私が装備を更新しない最大の理由は、装備で魔力を伸ばしても“状態異常の影響力”に一切関係しないためだ。ここが伸びるならすぐに買い替えている。
ティファニーは前述の通り弓矢と剣。メインで弓を使って、近距離では剣を抜くのだろう。
弓は照準器や卵型の滑車など色々と付いていて、知識のない私には正直さっぱりだ。昔は冒険者をしていたという話の通り、その様々な補助具からは装備への強い拘りが窺える。少なくとも本人の言葉通り弓の腕前には期待できそうか。
剣は独特な反りと“返し”のある軽そうな曲刀。形状は面白いが、こちらはあまり特殊な効果がありそうには見えない。
コーディリアが持っているのは魔法のランプ。擦ると魔神が出てきそうなアラビアンなあれではなく、手に持つタイプのランタンだ。
その中には白い光が揺れている。こちらも独特な見た目とは裏腹に、ただの魔法の杖の一種。装備としては魔力を伸ばす効果くらいしかない。夜行性の虫に好かれそうではあるので、もしかするとそういう意図で持っているのかもしれない。いや、無いとは思うけど。
そして一番の上級者であるエリクは、素直そうな槍を持っている。見た限りはこれと言って特徴はなく、多分見た目通りの普通の槍。
竜騎士は確か槍や銃といった戦闘距離の長い装備を得意としていたはずだが、銃は持っていないようだ。この世界の銃は魔力と器用さのステータスで火力が上がるので、もしかすると槍一本なのはステータスの振り分けの関係かも知れないな。
最後にセイカ。セイカの武器は、多分筋肉。以上。
……徒手空拳なのには一応理由があり、彼女が拳闘士という拳で戦う専科のためだ。戦い方は読んで字の如く、殴る蹴るに威力の補正が入る。防御の高い敵に強いという情報も聞いたことがあるが、そもそものリーチの所為であまり強いとは言われないクラスだ。
全員が武器の用意を終えた所で、エリクが真面目な顔で課題の内容を確認する。どうやら話を脱線させたかったわけではなく、確認の前に私達の装備の準備が終わるのを待っていただけのようだ。
「さて、今回の課題だけれど、“ガラク”の調査、可能ならばこれを討伐となっているね。とりあえず最初の目標は、ガラクという魔物の集落を見つけることだ」
「集団で生活し、人語を解する魔物……最悪、倒さなくてもいいのですよね。少々戦力的な不安がある様に思いますが……」
「とりあえず見つけて、少数に喧嘩売ってって感じかな。サクラちゃんもわたしも居るし、数的有利作るのは比較的楽だと思うよ」
エリクの確認を聞いて、コーディリアとティファニーがそれぞれ反応する。
頼りにされている所悪いが、重要な所で役に立たないのが呪術師だぞ。
私はそう反論したかったが、一応ティファニーの作戦には頷いておくことにした。確かに弓で遠距離からちょっかいをかけるのにも、昏睡させて逃げるのも比較的楽にできそうなのは事実だ。
「うん。パーティのバランスは悪くないよね」
「バランス“は”、ね……」
前衛二人に後衛三人。タンク、アタッカー、サポーター、サモナーと欲しい所は揃っている感じではある。専属ヒーラーが居ないのが多少気になるかもしれないが、実は回復魔法が出来る生徒は一人入っている。
問題は半数以上が不人気学科であるという点だ。ちなみにぶっちぎりの不人気は不動の呪術師だが、次点は多分蠱術師。拳闘士も中々の所に食い込む。
マシなクラスはティファニーとエリク位。まぁ弱いか強いかなんてやってみないと分からないのが魔法世界での常だ。
とりあえずの行動方針を決めた私達は、深い森の中へと足を踏み出す。
その先の地獄を予想もせずに。




