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第31話 変態2号

 私がパーティ募集の席に腰を下ろしたのを見て、コーディリアも自分の席へと戻る。

 それに追従するようになぜかティファニーも私のすぐ隣へと椅子を持って来て腰を下ろし、べっと舌を出して大男を嘲った。そのまま抱き着かれそうだったので適当に手で遠ざけるが、どうやら逆効果だったようで差し出した手に頬ずりをされる。軽く引き剥がそうとするが、びくともしなかった。


「手もちっちゃいねぇ……かわえぇ……」

「……」


 もうこいつはこれでいいや。中身が萌だと分かった今、通報レベルの変態から鬱陶しい知人程度まで認識が軽くなっている。そして鬱陶しい知人には慣れているのだ。

 そんなティファニーの様子を微妙な表情で眺めていた優男だったが、あっと何かを思い出すと、彼も私達と同じテーブルを囲むように前へと一歩進んでみせた。


「そうだった。ここで呪術師がパーティ募集しているって聞いて来たんだけど……良かったら僕も混ぜてもらえないかな?」

「……あ、そうでしたね。私達、メンバーを募集していたのでした。すっかり忘れていましたわ」


 優男から飛んでくるパーティ申請。ちらりとその顔を見上げると、そこにはにこやかな笑みがあるだけだ。……誰でもいいというのが当初の方針だったので、拒否する理由は特にない。

 ここにいる理由をすっかり忘れていたらしいコーディリアの言葉を聞いたティファニーは、ぱっと表情を輝かせる。分かった分かった、お前も入りたいのな。


 そして、そのやり取りを見ていた“もう一人”も、それならばと更に手を挙げる。


「あら、パーティ募集だったの? じゃあ、お姉さんも入ろうかしら。これも何かの縁よね」


 そうして、ティファニーに続き謎の大男もパーティに加入。

 これで私史上初となる5人(フル)パーティはメンバーが揃う事になった。何この色物集団。どうしてこんなことに……。


 その後は優男が中心になって話はあれよあれよと進んで行き、五人掛けの円卓に過不足なく揃った生徒は自己紹介をすることとなった。

 まずは僕からと優男が立ち上がる。


「僕の名前はエリク。クラスは竜騎士(ドラグーン)で……何か他に言う事あるかな? 質問とか……」


 彼は困ったような顔で周囲を見回す。それに対する反応は芳しいとは言えなかった。

 コーディリアはこういう時に引っ込み思案なのかすまし顔、ティファニーに至ってはお前なんて興味がないとでも言いたげだ。唯一大男は彼の姿をじっと見ていたが、それでも何か聞きたいことがある様子には見えなかった。


 私としても、初対面でずけずけと聞きたいことがそうそうあるわけないだろう……と言いたいところだが、私には一つだけ彼に聞きたいことがあった。

 すっと手を挙げると、真っすぐな視線が私を捉える。きっとこの人は“いい人”なんだろうなという、多少の暗い予想を胸に抱いて、私はたった一つの疑問を口にした。


「どうしてこんな面子に加わろうと思ったんですか? 見た所、組む相手にはそれほど困っている様には見えませんが」


 パーティメンバーのステータスは、ある程度自由に閲覧することが出来る。もちろん私が彼、エリクの能力値を覗き見ることなど簡単だ。


 魔法の書に書かれていたのは、ほぼレベル上限近いステータスだ。彼は間違いなく、知識のまるでない初心者などではない。

 レベル上限の生徒として思い出すのは狂戦士のリサだが、彼はある意味彼女以上の能力値だ。


 リサと私が出会った際、彼女は既にあの使えない大斧以外の()()()の装備を売り払っていた。

 つまり防具は素っ裸状態で、ステータスに記入される装備は大斧一本という攻撃特化の潔さだ。彼女はあの産廃兵器を買うために、それほど金に困っていたという事だ。


 しかし、この優男エリクは彼女ほど金には困っていないようで、装備品もそこそこ良い物を揃えている。

 その上、どちらかと言えば耐久寄りの性能をしている竜騎士という専攻を考えるに、ソロではなく普段からパーティプレイで課題を熟しているタイプの生徒であろう。


 そんな彼は、当然組む相手には困っていないはずだ。それなのに呪術師のパーティ募集を見てやって来た。

 彼のその言葉を信じるなら、態々私達を選んで来たという事に違いない。最初から呪術師の私を探していたティファニーとも、成り行きで参加したもう一人とも条件が違うのだ。


 そこが知りたい。もう少し正確に言えば、確かめたいと感じてしまっていた。

 エリクは私の疑問に少し困ったような表情をしたが、すぐに言葉を選び終えて返事をする。


「……いや、大した理由はないよ。空きがある所に入ろうと思っただけでね」


 嘘だな。これだけ人がいるのだから、空きなんて他にもいくらでもある。それは運がよかったなぁなどと、楽観的にその言葉を信じるほど純真でもない。

 というか、例え何と答えたとしても私は彼の言葉を信用できなかっただろう。


 彼は見ず知らずの人の喧嘩に割って入る程に正義感が強く、優しい人物なのだ。

 そういう前提が、先入観があるから予想が歪む。歪んだ上で訂正されない。何を聞いても当たり障りのない嘘にしか聞こえない。


 きっと彼にとって、私に協力を申し出るのは“慈善活動”なのだ。

 弱者を選んで、選択的に手を差し伸べる。彼はそういう人の好さを持っている。そしてそれをひけらかす事もせず、相手に伝えようとも考えていない。ただただ優しさを弱者に向けるだけ。


 そしてその私の先入観で歪んだ予想が、どうしようもなく腹立たしい。私が弱者だと言う決め付けを、彼の傲慢だと感じてしまうのは、私が優しさを受け取れないへそ曲がりだからだろうか。


 しかしそれだけだ。腹立たしいだけ。それが確認できたところで何も変わらない。私は彼をメンバーから蹴り出すでもなく、「そう」と呟いて質問を終えた。

 この憤りはぶつけてもいい事が一つもないだろう。私が飲み込んでしまうしかないものなのだ。


 その後も自己紹介は表面上恙なく進んで行き、ついに最後、私がこの場で唯一名前を聞いていない大男の番になった。

 彼は私の2倍を優に超える巨体をぬっと持ち上げると、自慢の筋肉を見せつけるようにポーズを決める。


「あたしの名前はセイカ。こう見えて身も心も乙女だったのよ。皆よりも少しお姉さんだから沢山頼ってね」

「……乙女」


 ぽつりと呟いたのはコーディリア。思わずといった調子だったが、すぐ隣にいた私以外には聞こえなかっただろう。そこが引っかかる気持ちは分かる。


 私達には彼がとても女には見えないのだ。そこにいた全員の視線が、一瞬セイカの股間へと集中した。

 薄いスパッツの中には筋肉とは思えない、大きく隆起した物が収まっているように見える。というか、衣装がぱっつぱつなのではっきりと形が見えている。その大きさは優に私の腕を超えているが、これで女と言い張るのか。


 まぁいいか。何でもいい。今日はもう疲れたのだ。後は普通に遊ばせてくれ。

 即座に突っ込むのを諦めた私と同じく、すぐに視線を外したのは、ティファニーとエリク。ティファニーは興味のなさから、エリクは優しさから即座に触れない選択を取った。

 しかし唯一コーディリアだけが視線を外すのが僅かに遅れて、その眼の動きをセイカに捉えられてしまった。


「あら、コーディリアちゃん。お姉さんの体に興味深々みたいねぇ……」

「うぇ゛っ……いえ、違いますわ。きっと様々なご苦労なされているのだろうと……」

「隠さなくてもいいのよ。いくらでも見て頂戴、この完璧な肉体を!」


 ……やっぱりお前も普通に変態なのかよ。自分の肉体を見せつけて興奮しているように見える彼女を見て、私は思わずため息が漏れる。何だこの色物集団は。なぜ私がこいつらの一員なのだ。


 コーディリアは見ろと言われて視線を彷徨わせ、セイカは見せびらかすように彼女に近寄っていく。

 椅子に座っているので丁度よく顔と同じ高さにあるのは股間だ。どうしても視界に入るらしく、ついにコーディリアは帽子で物理的に視界を閉ざした。

 恥ずかしいと言うよりは、これ以上見たくないという表現にしか見えないが、当の“本人”はそうは感じなかったようだ。


「あらあら、照れなくてもいいのよ。女同士仲良くしましょう」

「え……っと……結構、です」

「あたしってどこを見てもいい男よねぇ……もういい男過ぎていつでも興奮ビンッビンなんだから」

「いや、男なのかよ」


 ついさっきまで私の隣でご満悦だったティファニーがそんな言葉を口にし、セイカに侮蔑の視線を向ける。

 対して、矛盾を指摘されたセイカは余裕の笑みだ。


「あら、当然よ。体は男ですもの」

「……さっき身も心も乙女って言ってなかった?」

「身も心も乙女だったわよ。でも、今は違うわ」


 ……は?

 私は耳に入った彼女の思わぬ言葉に、ポージングを続けるセイカを見上げる。視線が集まったことに気を良くしたのか、彼は笑みを深めた。


「お姉さんはね、筋肉好きが高じて“理想の男”の体と一体化することに選んだ、ネオ異性愛者なのよ」

「「「……」」」

「ああっ、今もあたしとこの体がぴったりと重なっていると思うと、お姉さん興奮してきちゃうわ……」


 これは……思っていた以上の変態だった。


 つまりあれか。こいつは現実世界では身も心も女だが、アバターとして理想の男を作り上げ、仮想空間でそれに憑依することで快感を感じているという事だろうか?

 ロリコンの方がまだ分かりやすくていいかもしれん……。


 彼女? は、ここからまだまだ大きくなるのよ、と腰を振っている。悪いが、正面にいるコーディリアには犠牲になってもらおう。私は正直もう相手にもしたくない。片手が既に変態で埋まっているのだから。


 そんな風に、集まるまでに一騒動も二騒動もあったが一応自己紹介も終わり、ついにこのパーティも始動となる。目標とする課題はコーディリアが持ってきたものだ。さっさと終わらせてしまうか、それともじっくり彼女との連携について検証と考察を行うべきか……。


 ……とそんな事を考えていたその時、ここに来てからすっかり耳慣れてしまった笑い声が背後から響く。

 こいつ、いつも私の後ろから声をかけてくる気がするな。そういえば私が呼んでいたのだったのか。変態が二人も来てからすっかり忘れてしまっていた。


「盟友よ、この我を薄闇の底より呼び出すとは……ついにこの力を解放する時が来た、という事か」

「いえ、呼んだだけです。帰っていいですよ」

「ふふ、そう隠すな。我が力が……あれ? 5人揃ってるの?」


 頼むから、これ以上色物を増やさないでくれ。

 呼んだのは私だが、すぐに来なかったのはこいつが悪い。パーティの人数合わせという事は既に伝えているので、一応遅れてきたロザリーもこれは想定内だろう。


 私は“盟友”に別れを告げると、色物集団を引き連れて万象の記録庫へと向かう事になるのだった。

 できることなら、誰か一人ロザリーと交換……いや、私自身がロザリーを身代わりにして留守番をしたいくらいだが、我慢するしかないだろうな。



今夜は二話更新。これは前半です。

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