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第246話 増援と鼓舞

 無属性攻撃ばかりのシラキアはともかく、レンカとガードナー、リサの活躍によって蛮族は次々に地に伏していく。ある者は頭蓋を雷撃に焼き切られ、またある者は(のこぎり)によって首を抉られ、そして、大多数の蛮族は業火によってまとめて焼き払われていた。


 無論蛮族側も、ただただやられているわけではない。

 依然として兵士達相手には加護によって十分過ぎる程に戦えているし、何よりやはり最初から挟撃を狙っていたようだった。


 しばらく戦っていると、私達が背にしている車の反対側から矢が放たれる。

 難民の話では山をも越えると言われていたが、見る限り特別な勢いというわけでもなく普通の矢だ。これならティファニーの曲芸の方が凄いが……もしかするとこれでも村に配備されていた見張り番と比べて圧倒的に飛距離があるのかもな。


 しかし、私達にとってはあまり興味深い物ではないとはいえ、意識の外側からの遠距離攻撃というのはやはり有効な物である。

 その上突然の奇襲によって大きく態勢を崩された所へ、更なる奇襲と挟撃だ。蛮族の二度目の攻撃が若干遅かったのは、こちら側に回り込んでいたからだろうか。


 蛮族の弓矢の命中率はそれなりの物であり、一度に十数本射られた矢が三人の兵士に突き刺さる。他の矢は木に遮られたり地面に落ちたりしていたが、その内の一本はガードナーの顔面を目指して一直線に飛翔していた。


 ……矢に対して身構える事すら出来ずに射られた兵士達が、即死していない所を見るに、おそらくあれを受け止めても彼女ならばなんて事はないだろう。蛮族相手に大きく消耗しているならばまだしも、多くの敵を相手取りながら未だ致命傷を受ける気配すらないのだから。

 腕や脚などに意識的に軽い攻撃を受けてから反撃する戦法を好んでいるようで、無傷というわけではないが、彼女はこの戦いが始まってからここまで終始蛮族共を圧倒していると言っても過言ではない。


 例え頭に刺さっても心配は無用。その上今回に限って言えば、半分神聖術師であるレンカが居るので薬すら必要としないだろう。


 そう予想した私は、大した心配もせずにそれをぼんやりと眺めていたが、そこで私は信じられない物を見た。


 矢を放たれる前、蛮族を雷の属性剣で斬り伏せたガードナーは、剣を片手に残心を取っていた。

 そんな彼女は背後から迫る矢に素早く反応すると、居合抜きのような形で手にした直剣を頭上へと振り上げ、体勢を低くする。


 まるで背後の見えない敵を斬り裂いた様な彼女の行動の意味に、私が気付いたのは地面へと落ちた矢が“二本”あるのを見た時だった。


 木と鉄で出来た質素な矢はその中程から斜めに断たれ、狙っていたはずのガードナーの背後へと力なく落下する。

 ……何と彼女、飛翔している矢を振り返って斬って見せたのだ。大道芸かな?


 ちなみに、ああして矢を斬る事に意味など全くない。避けれないという体勢でもなかったのだから、どう考えてもそちらの方が有利だ。

 何せ剣も私達の体の一部、つまり魔法体に含まれているのだから。

 矢が頭に直撃するよりは軽減されるとは言え、損傷は損傷だ。やや特殊な構造をしている私達にとって、敵の攻撃を無効化したい場合、受け止めるよりも回避する方が余程確実な方法なのである。


 その点で彼女の行為は、攻撃を避けてから無駄に傷を負いに行った事に近い。強いて意味はと言えば、威圧くらいにしかならないだろう。


 もちろん、その剣の技術は凄いと思う。

 矢を斬るというのがいつ必要になる技なのかはともかく、練習無しであれを行う事はとても出来ないだろう。それを、戦いの中で事も無げにやってのけてしまうのだから、こちらとしてはティファニー並みの感心とも呆れとも近い感情を持つしかない。

 ただ、この場においてほとんど無意味というだけで。


「私にはその程度の矢など通用しませんよ!」

「ほほぉ! やるのぅ! (わらわ)も負けておれぬな……!」

「戦ってる格好だけは一丁前なのよね」


 しかし、私の予想に反して彼女の周囲が歓声に湧く。

 その様子を見るに今の行為に意味なんてないなと考えていたのは、この場では私だけの様であった。


 ガードナーが奇襲を仕掛けた蛮族に向かって剣を構えると、兵士達はガードナーの業前(わざまえ)に湧き、レンカとリサは対抗心を見せる。車の脇から背後を窺えば、蛮族側も今の行為を見ていたようで大きな動揺が見て取れた。


 結果として、彼女の行為は二度目の奇襲や味方の損耗による“精神面”への影響を大きく軽減した様にも見えた。

 確かに考えてみれば自分達だけでは勝てない相手に、二度も奇襲を仕掛けられ、その上逃げ道まで塞がれれば士気に影響するのは当然だ。狙っていたのかは分からないが、そういう意味では利点の大きな行為だったのかもしれない。


 ……ただ、それを認めつつも、それがどうしたと考えてしまうのは……私の悪い癖だろうか。


 勢い付いた兵士達と、出鼻をくじかれた蛮族達の戦いは、二度の奇襲を受けても結局こちら側の優勢で進んでいく。


 こちらには負傷者を下げる場所と人手があるので、意外にも戦死者は未だ出ていない様子だ。まぁ、放置しておくと死ぬような怪我人も多少居るが、そんな負傷兵が死んでも私達に直接的な責任はない。

 今の所、激しい戦場となった林に転がっているのは、すべて蛮族の死体である。魔物や魔法体ではない彼らは、死んでもそのまま死体として残ってしまう。外傷が見えないので一見すると私の魔法で寝ている様にも見えるが、魔法視を使えば彼らが事切れているのは明白だった。


 死体製造機と化したレンカとガードナー、リサは次々と蛮族を殺し、直接的な戦力になりづらいシラキアも、兵士達の負担を減らすために動いている。兵士達と比べると、彼女らの活躍は圧倒的な程に目覚ましい。このまま戦いが進めば、こちらには大した被害もなく終了しそうな勢いだ。

 ……“何事もなければ”なんて言ってしまったが、まぁ、既に少数派の更にはぐれ者としてはかなり多い死体が積み重なっているため、流石にこれ以上の増援はないとは思う。


 弓矢を使っていた蛮族も既に兵士達に囲まれ、刀を手に取って応戦している。ここまでの戦闘で詠唱魔法らしき攻撃をしてくる蛮族は一人もない。おそらくだが、今から唯一の武器である剣を投げたりもしないだろう。

 ……もういいか。これ以上待っていても、今以上に状況が整う事などない。


 私はずっと自分の背中を守ってくれていた車の傍を離れ、安全となった戦場をのんびりと歩く。

 それからうちの主力部隊である四人組から少し離れた兵士の一団を見繕うと、彼らが相手をしている蛮族に一つの魔法と薬を使った。


 魔法の発動と同時に、派手に響く金属音。地から伸び出た鋼鉄の顎が一人の男を飲み込んだ。

 突然現れた魔法の檻を見て、その場にいた全員が困惑の表情を見せている。


「ここは良いから、他の所に行きなさい」

「は、はい、ご協力感謝します!」


 私の言葉を聞いた兵士の一人が、私に畏まった言葉を残して慌ててその場を離れる。突然の魔法に放心している様子であったが、おそらく他の集団の援護に回ったのだろう。

 手助けなど私達魔法使い相手には不要な物とこれまでの戦闘で認識しているからなのか、そこに大した葛藤も見られなかった。


 私は、薬によって加護も失い自分を囲む檻をガシャガシャと鳴らすしかできない蛮族の一人を見て、小さく微笑みかける。

 思った通り、腕力も加護によって増強されていたのだろう。手にした武器はそのままだが、目の前の哀れな男がすぐに檻を壊して、私に襲い掛かるという事はないはずだ。


「こんにちは。言葉は通じるかしら? いくつか質問に答えて欲しいんですが」


 この笑顔が友好的な物だと思われているとは、自分でも考えていない。どうにも抑えきれずに出てきてしまった物だから。

 私の言葉を耳にした彼は悔し気に表情を歪めるばかりだが、こちらの言葉が一切分からないという風にも見えない。そもそも物々交換に村を訪れる事もあるという話だったし、ここまで、叫びに近い彼らの言葉が理解できなかったこともない。おそらく使用している言語は同じ。その点は心配ないだろう。


 ここからどうやってお話ししようかは一応考えている。私は一先ず作っては見たものの、結局普通に投げた方がいいという理由で今まで一度も実戦で使っていなかった器具を、魔法の書の奥底から取り出した。

 引き金の付いたその器具を、一本の毒液に突き刺して動作を確かめる。


 私の指の動きに合わせてシュッと予想通りの音が鳴り、動作確認は終了だ。

 これは毒液を噴射する水鉄砲ではない。それに近い物ではあるが。

 強いてこれに名前を付けるとすれば、“霧吹き”だ。私が普段使っている毒液や薬のビンに取り付けて使う事が出来る、蓋状の霧吹き。


 元々は腐食毒や強化解除薬などの稀少な薬の節約のために作った物だが、私が敵に近付くという戦法を好まないせいで今まで全く使用機会がなかった。

 ただ、普通にビンを投げてぶつけるのは量と効果が非効率、スプレー缶は広範囲に散布するが結局量は必要になってしまう。その点、霧吹きなら範囲が極めて限定的な上に少量で済むという大きな利点は、確かにあったのだ。


 作った当時は画期的な発想だと思ったのだが、使う機会に巡り合わずにいる内に道具類持ち込み不可の試合なんて物まで開催され、今日まで日の目を浴びる事がなかった物でもある。

 そんなある意味で失敗作であるこの器具だが、こんな時には一応使い道があるな。


 見るからにケミカルな色合いの薬品を噴霧する私を見て、檻の中の非力な男が口を袖で覆ったが、私はそんな無駄な抵抗に思わず笑みを見せてしまう。


「これから私はあなたにいくつか質問をします。それに私が満足する答えをくれたら、“解毒剤”を一つ差し上げますよ」


 これから始まる、極めて一方的な行為を想像すると、どうにも笑みが隠せないのだ。



*** 作品にまったく関係のない長話です 読み飛ばし可 ***



 ポ〇モンレジ〇ンズのエンディングまで見ました。図鑑埋めとか伝説巡りとかやる事はまだまだ残っているとは思いますが、結構楽しめた作品でした。親分個体はボールから出して眺めているだけで予想以上に可愛いですし。


 問題点と言えば、鈍足低耐久の種族値を持っている時点でほぼ役割が持てないという仕様はどうかと思います。上から不一致弱点技で攻撃されて一撃死する頻度は全シリーズで最大ではないでしょうか。その上敵トレーナーのダメージ計算がかなり的確で、先制技+強攻撃で倒せる計算の場合、確実にその手を使って二連続攻撃をしてきます。

 とにかく鈍足であるというだけで存在価値を疑うレベルでキツく、耐久自慢の子達も弱点を二発余裕で耐えられる飛び抜けた種族値でも持っていない限り活躍の機会がないでしょう。


 実物大のモンスターの捕獲アクションなどの難度はしっかりと低めで(ボス戦は無限コンテ可能)、これはこれで楽しいですし、何より世界観に入り込んでモンスターと接する楽しみはファンであれば楽しめる事間違いなしです。新しいモンスターもしっかりとシナリオでの登場機会があり、事前情報がない状態であれば更に楽しめる事でしょう。

 ただ、バトルシステムにシリーズ最大級の難があり、余程の例外を除いてどんな子でもシナリオ攻略くらいなら普通に使えるというシリーズ通しての魅力が薄いです。“レベルを上げて殴るのに抵抗を感じる+好きな子とシナリオを攻略したい”と考えると、二重の意味で回避できないコマンドバトルの難易度が跳ね上がります。逆に素早さで上を取れていて、相手の弱点を突けるなら圧勝できます。これもこれでここに面白味はないです。


 推しや嫁と旅に出るために買うという人には強くお勧めすると同時に、注意もしなければならない作品です。

 あの世界ではとにかく素早さ種族値が正義で、鈍足であるというだけで野生のモンスターやトレーナーに次々に虐殺されます。本当に出しただけで何もできずに死にます。特性や持ち物も先制技もないので戦略も何も介入できず、彼らの存在意義は経験値と図鑑埋めだけと言っても過言ではありません。


 結論としては、とにかく見た目や世界観が特に楽しいゲームで、逆にシステムには大きな欠点があります。そのため素早い子が好みでそれを中心にパーティに入れたいと考えている場合、難易度はかなり低いけどファンとして十分に楽しめる作品になるでしょう。

 逆に、鈍足低耐久な種族値が原因でマイナーな子を好きな場合、活躍の機会がほとんどなく、バトルに出せば何も出来ずに死んでいく推しを我慢しつつ、様々な大きさの個体を捕獲して触れ合う事で傷を慰める作品になります。

 ただ、あの世界観はやはりファンなら魅了されると思いますし、何より親分個体がでっけぇ! ってなって、やっぱり可愛いです。ヌシ個体以上にサイズ感がはっきりと認識できてでっけぇかわいい……ってなるあの感覚を味わうだけでも、ファンなら買う価値はあると思います。


 そういった目的での難点と言えば、好きな子が出るか出ないかを調べると、自然に新しい子が目に入っちゃう事くらいですかね。ふれあい機能よりも、ああしてどこでもボールから出せる方が一緒に居る感覚が強いので、あれはあれでいいと思います。


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