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第245話 蛮族の強さ

 リサが蛮族に向かって大きな斧を振り下ろし、彼が手にしていた長巻を叩き落す。そして彼女はそれだけでは飽き足らず、左で持っていた槍を蛮族の首へ突き出した。

 人体の明確な弱点への一撃は確かな重さを伴って直撃し、蛮族の男の体勢を大きく崩す。


 しかし、それを見たリサの表情は優れなかった。


「手応えが薄い……」

「ぐっ、ぅうぉおおお! 我らに大精霊の加護ぞあらん!!」

「……もう、面倒ね」


 蛮族は弾かれ大きく軌道を逸らされていた長巻を即座に構え直し、槍の一撃を物ともせずにリサに向かって突き進む。

 リサは手応えがどうとかこうとか言っていたが、魔法視で見てもそれは不自然な光景だった。


 万全の状態のリサの攻撃を防御せずに首に受けて、あの体力の減りは不自然と言える。その隣でレンカが燃やした蛮族と比べてもその差は歴然だ。

 そしてその上、徐々にではあるが黄色のオーラの大きさが元に戻ってきている様にも見えた。


 確かに、魔法視で見た限り彼ら全員が最初から、何らかの良性状態異常になっているのは間違いないが……奴の言葉を信じるならば、これは加護か。また面倒な物を持っているものだ。


 私は覇気の魔法の詠唱を続けつつ、隣に居るレンカに声をかける。


「レンカさん、攻撃重視でお願いします。おそらく連中、物理耐性と自動回復です」

「あん? それは……なるほどな。兵士や村の連中が苦戦するわけじゃ」


 レンカは私の言葉に大きく頷き、そして大変楽し気な笑みを見せた。


「つまり、(わらわ)の大活躍の場という訳じゃな!」


 熱線の魔法で隊長と副隊長に襲い掛かろうとしていた蛮族を焼いた彼女は、その笑顔のまま上機嫌で火炎術の詠唱を続ける。

 ……魔法の装備上限の関係であまり火炎術は持ってきていないと思っていたが、どうやらこれも私の杞憂であるらしい。むしろこの人、支援系ちゃんと持って来ているんだろうな。


「おい、シラキよ! お主には荷が重かろう、(わらわ)の前に賊共を引きずり出すのじゃ!」


 私は自分の背後に覇気用の石板を配置し、とある人物にまとめて売ったせいで品薄になっている一つの薬品を腰から抜き出す。

 そしてたった今レンカに呼び出された、シラキアが相手をしている蛮族に、それを投げつけた。


 薬が当たると魔法視で見えていた白い光の玉が消え、それと同時に彼女の攻撃のダメージが跳ね上がる。

 やはり物理耐性か。これが本当に大精霊のものかどうかは知らないが、加護というのは複数の効果を持っている事がある。もう少し詳しく効果を調べたいが……さて、どうやって調べようか。


 私は近くの兵士が相手をしている蛮族に向かって毒の魔法を放ちつつ、戦況を確認する。数が上回っている上に、私達が蛮族を倒せているので十分に優勢だが……圧勝というには程遠いな。


 まず、物理耐性の影響が大きい。

 これによってここまでやって来た兵士達が、盾にしかなっていない。彼らの授かった加護による自然回復量を上回る損害を、兵士達は与えられていないのだ。つまり、これだけ揃えた兵士が、現状私達が連中を端から倒すための時間稼ぎにしかなっていない。

 唯一隊長と副隊長は攻撃力で回復量を上回っているが……正直このまま戦いが続けば兵士の犠牲者が出るのは時間の問題だろう。


 その上、物理耐性だとするとリサもシラキアも、そしてガードナーも苦手とする相手だ。彼女らの魔法はどれも物理判定であり、魔法判定の攻撃を持っているのは半分神聖術師であるレンカのみ。

 今の戦い振りを見るに少し怪しいが、レンカは自ら支援役を買って出た事からも分かるように、魔法の枠をそれなりに支援系神聖術で埋めているはずだ。複数の種類の魔法が使える彼女は、他の生徒に比べても魔法の設定上限には悩まされている事だろう。


 ここで私が魔法学部の端くれとして、颯爽と戦えれば良かったのだが……もちろん呪術科にはそんな事は出来ない。

 出来ても呪いと毒でじわじわと殺すことだけだ。それも、兵士を巻き込むため広範囲化する事も出来ない。

 加護、つまり良性状態異常の解除はできない事もないが、薬の在庫の関係上どうしても人数制限できてしまう。それがなくとも、そもそも費用対効果を考えれば連発したい手段ではない。薬を使うには蛮族の数が多すぎるのだ。


 ただ、向こうの攻撃力は合計しても大したことがない。リサの攻撃に対応する耐久性はかなりのものだが、兵士達を即座に叩き伏せる程の火力は持っていないのだ。

 戦場の後方に居る私達まで攻撃が届くこともないようだし、時間を掛ければ十分に討伐可能だろう。……兵士の犠牲は仕方ないか。


 私は現状からざっと今回の方針を立てる。しかし最後に一つ、私には誤算があった。


「とやぁ! そこを、退きなさい!」

「硬くても、叩き斬る!」


 リサとガードナーが、ほぼ同時に蛮族を斬り伏せる。それは、私の想定よりも圧倒的に早い展開であった。

 見れば、ガードナーは風の属性剣を、リサは(のこぎり)を使っている様子。


 ガードナーの属性剣は魔法剣士の本領の様な物で、属性を付与した強烈な物理攻撃を使えるようになる魔法だ。一応分類上は属性魔法だが、結局は物理攻撃なので物理耐性の影響を強く受けるはずだ。

 それなのにも関わらず、彼女はあっという間に蛮族を斬り伏せて見せた。


 そしてもう一人、リサの方はロザリーが制作した例のチェーンソーを使って撃破したようである。彼女にしては珍しく両手でその大きな鋸を持ち、力強く振り回している。

 こちらは元々防御力の強い敵を相手にすることを想定して作られた武器だ。使う度に武装自体がかなり損耗する上、刃を回転させるのにも別口で魔力が必要になる金食い虫だが、その性能は折り紙付きだ。


 二人は競い合うように次の獲物を見付けると、林の中を軽やかに駆け抜けていく。


 ……ふむ。リサはともかくガードナーがあの速度で敵を倒せているという事は、この加護は物理耐性ではないな。もしかすると、無属性耐性だろうか。今こちらに無属性の魔法判定攻撃を使える人物が居ない。検証のし様はないか。

 まぁそうだとしても、こちらに若干有利になっただけであまり大きな差ではないな。


 シラキアは防御力ならばともかく、属性耐性や物理耐性をすり抜ける手段を持っていないようで、レンカの指示通りに蛮族を一カ所に集め始めている。兵士達から引き離すように蛮族へ攻撃を繰り返し、複数の蛮族に囲まれながらも次の標的に向かって引き金を引く。

 乾いた発砲音の数と比べると着弾したのは半分程度だが、あれだけ激しく動き回っていて半分当たるなら上々だろう。……あの距離ならアクロバットな映画の様に格好良く当てて欲しいと少し思ってしまうのも事実だが、この世界でも射撃武器の命中率というのは甘くない。ティファニーの弓の腕がおかしいだけだ。


 そうして彼女が十分な数の蛮族を兵士達から引き離すと、ついにレンカの魔法が発動する。

 紅の竜が木々の間に舞い上がり、口から放った業火が蛮族の集団を焼き尽くす。もちろんその場にいたシラキア諸共。

 どこかで幾度となく見たような光景だが、もしやレンカは前衛を自分の攻撃に巻き込んで当然だと考えているのだろうか。……彼女もオウカも大変だな。


 しかしその効果は予想通り覿面(てきめん)で、シラキアと兵士達のちくちくとした攻撃しか受けていなかったはずの蛮族が、焔に飲まれた瞬間に次々と地に伏していく。

 やはり、加護の主な効果は無属性耐性だろう。自然回復量は大した事がないし、火炎術に対する耐久性も十分に低い。少なくとも、一撃で死なない上に即時に全回復したり、状態異常を勝手に回復したりする様な“精霊の加護”ではないようだ。


 それに、私にとっても戦い易い相手だ。ここまで戦ってみて分かったが、彼らは状態異常の通りがとても良い。耐性はほとんどないと言っても過言ではないほどにガバガバだ。無属性耐性自体がかなり強いから、それを込みでの黄色判定という事か。

 私は車の裏から襲い掛かって来た蛮族の一人が、恐怖と混乱、そして暗闇の効果によって自害を始めたのを見下して小さく笑う。


 ……時間はあるし、反撃をされる事もほとんどない。

 久し振りに、じっくり楽しむとしようか。


「……悪い顔、しておるのぅ」



 最近の話で、百カ所以上の表現を変更しました。少しは読める文章になっていると思うので、お時間がありましたら後ろの方を読み返してみてください。

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