第214話 作戦とルール
乗り気ではなかったとはいえ、やると決まれば相応に準備が必要だ。
そもそもティファニーの作戦は、他の呪術科の生徒以上に私の実力がある事が前提となっている。そうでなければレートに追いつく事はできないし、直接対決でも勝ったり負けたりを繰り返してしまうかも知れない。
完膚なきまで叩きのめさなければ気が済まないとばかりに意気込んでいるティファニーからすれば、それはおそらく気に入らない事なのだろう。最初から考慮に入れていないくらいには。
しかし、その前提が正しいのかは少々怪しい。他の呪術科の実力をしっかりと知っているわけではないが、少なくとも使っている元の魔法は同じだ。
そして、私の技量も特別に高いとは思えない。索敵能力も高くはないし、一対一で完封できるほどに強い訳でもない。
他の人にはない奥の手があるのは確かだが、それ一つにどんな状況でも覆してしまうほどの効果はないのである。
だからこそ私は準備をしなければならない。少なくとも事前準備で後れを取るなんて事はあってはならない。
私はとりあえず最初にできる事として、ロザリーに連絡して装備の調整を依頼しておく。彼女は、呪術科の装備品を作るという極めて狭い範囲に関してはトップクラスの実力者だろう。他にそんなことをしている生徒、居ないからな。
最近は忙しそうにしているので、報酬は弾むと付け加えた。後は防具だが、こちらは買うしかない。仕上がった武器の能力を見てから考えることにしよう。
ロザリーは二つ返事で了承してくれたので、私は彼女からもらった傘を一時的に預けておく。最初はどうかと思ったこの武器も、結局長い間使っているな。
装備品の数字が強さに直結しない私だからこそなのだが、ここまで物持ちの良い生徒も珍しいと思う。外見だけそのままで性能だけ上げるなんてことも、ほとんどしていないのだから。
この世界では基本的に武器や防具は壊れない。
これは魔法体である私達が不死身であるのと同じような理屈であり、魔石によって作られた魔法武器は、使い手である魔法体と接続する事で一種の不死性を保持する事になる。欠ける、折れるなんて事は基本的にないのだ。
逆に言えば、盾や剣に攻撃を受けても体に受けたのとほぼ同じ扱いでダメージが入る。もちろんダメージ倍率(通称、受け値)の関係で直撃するよりは大幅に数字は小さくなるのだが、余程防御力が高くない限り、盾や武器による防御ではダメージを完全に無効化することはできない。自然回復量の関係で結果的に無効化されるだけである。
また、魔法武器はそんな便利な物である反面、使っている内に徐々に劣化していく性質も持っている。これは組み込んである魔石の劣化が原因であるとされている。防御や攻撃の数字が使い込む内に減っていくのだ。
そのため魔石を新たに組み込んで劣化を修復、もしくは強化する必要がある。これにも結構な金額を取られてしまうので、中には最初から使い捨てる前提で武器を買い替え続けているなんて生徒もいるだろう。
修復する上で気を付けなければならないのは、一つの武器に一度に組み込める魔石の数は決まっているという事だ。
摩耗した魔石を取り除くこともできるのだが、新たに組み込む交換用の魔石が何でもいいわけではない。元の魔石に比べて魔力が足りないと劣化分が補修し切れないので、必然的に強い魔石の方が修復に向いている。
武器が強ければ強い程に修復に必要な魔力が高くなるので、維持費が凄いことになっていったり……。
具体例で言えば、リサのチェーンソーは金銭的な意味で整備が大変だ。
小さな刃が連続で当たる関係で武器自体の劣化も早いし、内部的にも強い効果が盛ってあるので交換用の魔石の種類が限定される。そもそも回転させるのに内蔵魔力が必要なので、そちらもそちらで無条件でお金を吸い取っていく事になる。
実弾兵器ほどではないが、あれもあれで相手を選ばなければ赤字となる装備なのである。
ロザリーに頼んだ装備はとりあえず待つしかないとして、事前に考えておく必要があるのは、作戦と魔法。この二つは最低でも方針を立てておかなければならない。
実際にやってからでも遅くはないし、結果を見てから更なる改善も必要となるだろうけれど、だからと言って最初から無策で良い訳ではない。
私の強みは、作戦に合わせて魔法を自由に改良できることだ。少なくともこの点に関しては平均値を大きく上回っている自覚がある。
魔法に合わせて作戦を整えるよりも、作戦に合わせて魔法を組み替えた方が圧倒的に自由度は高い。魔法という可能性を十全に生かす方法と言っても過言ではないだろう。
簡単で強力で、最低限の勝率を維持できる作戦を立てて、それ用に魔法を組んでいく。それが出来ればとりあえずは安心だ。基本方針が通用しない例外に対して対策を立てるのと、敵の種類に応じて一つ一つ対策を立てるのでは大違いだ。
……最近、スキルスロットがずっと足りないので、実験用の魔法を持っていく余裕はないかもしれない。
ティファニーには呪術科の連中を見つける仕事があるので、今回は時間的な問題で私とは組めない。そうなると私は自動的にコーディリアと行動を共にすることになる。
自動マッチングで他人と組まされるのと比べれば、圧倒的に強いのは間違いない。そこは気にしても仕方がないだろう。
それに、ティファニーと組むとどうしても狙撃主体の作戦になるからな。私がほとんど必要ないお荷物なのでは、本来の目的も十分に果たせないはずだ。
試合には特殊なルールが色々とあるが、私にとっては道具使用禁止が最も痛い。
このせいで腐食毒や爆薬が使えず、私からダメージを与える方法が限られてくる。毒や呪いでじわじわと殺してもいいが、横から攻撃されるだけで獲物を横取りされる状況ではあまり使いたくない方法だ。
試合中の装備品の付け替えは不可能で、矢や弾薬は学院……というよりも、試合の運営をしているどこかの組織が指定した物が試合中限定で与えられる。これらには数に限りがあるようだが、敵を倒すと増えるらしい。この具体的な数字は不明。
逆に言えば、これがあるおかげで、実弾で狙撃されて即終了とはならないと考えていい。私にとってはかなり助かる。ティファニーは爆弾矢が使えないので問題だろうけれど、無制限に銃を乱射する人間なんて近付きたくはないからな。
逆にルールがないのは魔法の方だ。
こちらは特殊な仕様にはなるらしいが、制限自体は存在しない。おそらく、強くて出が速い魔法が対人用に弱体化されていたりするのだろうと予想される。その代わりというか、普段から使っている魔法を試合中でも何でも使えるようになっているらしい。古代魔法やオリジナル魔法なども使いたい放題と言う訳だ。
で、最も重要なルールとして、勝敗の付け方なのだが、バトルロワイヤルなのでもちろん最後まで生き残った人物が勝ちである。少なくともその一試合の中では。
その上で得点制度があり、与えたダメージ量や敵を戦闘不能にした回数、戦闘での貢献度によって追加で得点が入る。生き残った順位+得点によってイベント全体としてのランキングが変動していくことになる。
報酬は一試合の勝敗ではなく、イベント全体を通してのランキングによって出る形式。減点もあるので一つ一つの試合で一喜一憂するよりは、安定した勝率と得点の方が求められる。
そのルールの性質上、最後の最後まで戦いを避けて最低限の順位を確保する事が求められそうな気がしてしまうが、戦闘に対して消極的な行動をするとペナルティとして得点の減少や体力の損耗もある。試合時間中ずっと逃げ続けると言うのは意外にリスクが高い。
何とも好戦的なイベントとなりそうだ。
ちなみに、ある程度の公平性のために生徒のレベルは試合用の固定値となる。
ロザリーの話では、これも装備品が売れる原因となっているらしい。レベル制限で能力値が下がり、普段使っている武器が扱いづらくなってしまう生徒も多いためだ。
他にも色々とルールはあるのだが、対人戦闘用の細かい決まり事ばかりで重要そうではない。
この前提の上で、とりあえず私の目下の悩みは一つ。
私とコーディリアの二人組で、どのようにして順位を上げればいいのかである。
ランキングのトップは最初から無理だとしても、そこそこの順位、つまりはレートを稼がなければ他の呪術師に追い付くこともできない。
例えばこれがリサとの組み合わせだった場合、囲まれないように最低限立ち位置に気を付けながら、私が相手を無力化し、リサがその首を落とすだけで済む。他にも様々な戦法はあれど、基本方針はこれで決まりである。
しかし、コーディリアと私はその両方が妨害役。人間が相手では召喚体による盾も機能しづらく、更に手札が嫌がらせばかりで決定力も足りない。
二人でならば逃げる隠れる見つけるに関してはそこそこの性能のはずだが、肝心の攻撃力が足りないのではポイントは稼ぎづらいだろう。では試合の順位によるランキングの加算ではどうかと考えても、ここも火力不足で直接対決は苦手な方。逃げ続けても居られないので順位の方も上げづらい。
もう一人パーティに参加させられたら……もしくはコーディリアと別れて他の人物との連携を考えるべきか。それこそリサにでも頼んだ方がいいのだろうか。
そんな事を考えてコーディリアと話し合うことしばらく。
私達はお互いのできる事を話し合い、一つの作戦を立案するのだった。
本日二話更新の前半です。




