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第194話 魔物の集団

 リンの言葉の直後に、優雅な演奏が始まる。

 その音の出所はもちろんウタミヤであり、彼女は楽器を奏でながら多少の非難を含んだ目線をこちらに向けていた。


「わたくしの演奏が間に合うだなんて、少々気を抜き過ぎではありませんこと?」

「……どうやらそのようですね」


 彼女の指摘を受けて私達はざっと周囲を確認する。そこにいたのはさっきまではいなかったはずの魔物の群れ。それもこちらに向かって徐々に距離を詰めて来ているようだ。話し合いに夢中になってしまったな。

 リンはウタミヤの言葉に小さく返事をすると、最も近い位置に居る魔物に向かって鉄球をぶち当てた。


 ……それにしてもついさっきまで、具体的には地震の時にはいなかったと思うのだが、こいつらどこから湧いて出たのだろうか。

 私は僅かな疑問を抱きつつ、数の多い魔物の一角に向かって魔法を放つ。青白い雷光に貫かれた魔物達がバタバタと倒れて行くのを見てから、次の対策を考える。


「……うーん、これちょっと撤退したくない? 少なくともわたしはしたいんだけど」

「まぁそうですね。良い逃げ道と隠れ場所があればですけど」

「あはは、気付いてた? なーんか急に森全体に魔物が出始めた感じだよね。下手に移動すると逆に面倒な事になりそう……」


 ティファニーは手近な魔物を射貫きつつ、気楽そうにそんな事を口にする。何となく魔物の出現の間隔から予想しただけだが、やはりティファニーにはそう見えているのか。相変わらず目としては頼りになる女だ。


 私達はまともな作戦会議などする間もなく、いつの間にか囲まれてしまっていた。私達の周囲に次々と魔物が出現しているためだ。

 これは地震の影響か、神像が壊れたからか、それともただの偶然か……。神像の修復も不可能なので、これ以上それを考えても仕方ない。選択肢は応戦するか撤退するかの二つに一つ。

 尤も、これだけの数を相手に囲まれているのなら、逃げると言っても上を飛んで行くしか道がない。それを実行すると間違いなくティファニー以外が全滅だろう。


 どうにか持ち堪えて、敵の増加が一時的な物である事に賭けた方が良さそうだ。


 私は適当な位置に神経毒を撒き、魔物の足止めを行う。種類毎に徒党を組んではくれていないので、昏睡では一部を間引くだけになってしまう。だからと言って麻痺の魔法の連続使用は難しい。

 ……ならば範囲殲滅してしまうのが一番か。耐え抜くと言っても囲まれていては時間の問題だし、少しでも相手を減らすことを考えた方がいい。


 私は魔物を近付けない事を最優先で動いているリンに後ろから声をかける。


「リンさん、殴るのは南側の敵だけでいいですよ」

「……作戦ですか?」

「まとめて倒す算段があるので、こっちは敵を……」

「でしたら、もっと手っ取り早い方法がありますよ」


 リンは私の話を半分だけ聞くと、突然鉄球をその場でグルグルと回し始める。手っ取り早い方法とは何の事だと黙って見ていると、彼女は体に巻いていたらしい鎖を外していった。

 見ようによっては服を脱いでいる様にも見えるが、ジャラジャラと鎖が袖から落ちて行くその姿は色気以上に恐怖を感じなければならない光景だろう。


 そして彼女は、集団になっていた魔物に向かって右腕を勢いよく横薙ぎに振るった。

 そこに握られていた鉄球と鎖は魔物の骨に強烈な荷重を加え、自らの進行方向へと弾き飛ばす。


「私が、悪しき者共を一カ所に集めましょう。何か不都合はありますか?」

「……それで構いません。数が多ければ効率は上がるので」

「幸いにも相手は軽い小物ばかり。この程度はお気になさらず」


 事も無げに言ってのけた彼女に、私は小さく頷いた。


 それにしても、これが軽い、ね。どう見ても人間より大きい魔物が4、5体は同時に弾き飛ばされているが、彼女にとっては何でもないのだろう。

 それにしてもまったく考えになかったが、確かにこれだけの重量があれば好きな方向へ魔物を弾き飛ばすなど容易に可能だろうな。普通は……というか、これまた常人には持ち上げる事さえ難しい武器を軽々と扱うリサでも、ここまでの事は出来ないので、そもそも私の考えになかった。


 ……確かにこの学院、変な奴ほど強いかも知れない。ベルトラルドを疑った事は反省しておくとしよう。


 リンが一定の方向へと魔物を弾き飛ばし、ベルトラルドと私がまとまった魔物の足止めをする。ティファニーは大雑把に魔物を移動させるリンの後始末。ウタミヤは変わらず演奏しているだけである。


 しばらくはこのまま耐えるしかない。

 もう少し魔物が密集していた方が効率的だからな。未だに魔物が増え続けているので、私とベルトラルドが魔物の足止めをしっかりやれば、連中を“集める”だけならば容易なはずだ。こちらの作戦を見抜くどころか、まともに連携するような頭すら持っていないからな。


 今の所は作戦通りに事が運んでいる。ただ、順調かと言われると……半々と言った所か。これを一掃してもまだ続きがありそうなのは間違いない。


 二度目の麻痺を前方の集団に叩き込んだ私は、ふと、集められた魔物の中に見慣れぬ魔物が混じっているのを見付ける。手前側の魔物が麻痺によって倒れた事で姿が見えたのだ。

 水かきや、(えら)らしき部分はあるが、どうにも全体的な雰囲気が人間の様に見えるな。魚人は魚が人間の形になったような見た目だが、あれはまるで人間が……。


 私がそんな他愛もない事を一瞬考え込んだその直後、小物相手に大暴れしているリンの足元に魔法陣が展開される。私はほぼ反射的にそれの上にキャンセル用の陣を敷き、発動を防いだ。

 ……今の、魔法陣だったな。実の所魔法陣を使う魔物というのはそこまで珍しいものではない。遠距離攻撃と言えば火を噴いたり物を投げたりする魔物が大半だが、人間と同様の方法で魔法を扱う魔物も結構見かけるのだ。こいつらの面白い所は、現世に居る人間の魔法技術の進歩に合わせて使う魔法を変える事例が多く見られる事で……いや、今はその話ではない。


 今の、どうにも“人間っぽい”魔法陣だった。

 魔物が使う魔法は分類上闇の神の魔法な上、最適化も改造もあるかとばかりに基礎的な陣を使う。魔物の魔法というのは、陣の改造よりは能力値の変動によって強さが変わる傾向が強い。何を使っているかよりも誰が使っているかの方が重要なのだ。

 しかし、今の魔法陣は拙いながらも改造が施してあったように見えた。一瞬だったし、何より展開中に打ち消したので最後まで見る事は出来なかったので、気のせいかもしれないが。


 ベルトラルドはほぼ私と同時に魔法を使う魔物を確認すると、人形の頭に備え付けてある火砲で正確に頭を撃ち抜いた。……今の実弾か? 珍しい物を使うんだな。あれ私の爆弾矢なんて比較にならない程高価なのに。


 自動で排莢した人形は、重々しい音を立てて次の弾薬を装填している。

 一撃で(もしかするとそれより前にリンの攻撃を受けていたのかもしれないが)魔物を粉砕した彼女の人形の装備は、実弾兵器と呼ばれる物だ。


 学院で広く使われている銃や火砲は基本的に魔力弾。つまり魔力タンクを繋いで攻撃性の強い状態に変換し、銃口から射出する、言ってみれば火炎放射器の様な仕組みになっている。

 魔力タンクに入れる魔力は液状になっている事が多いので、水鉄砲なんて揶揄されたりされなかったり。属性の変化も比較的容易で扱いやすく、弾代もかなり安い。その上威力も十分なので、銃で戦う生徒のおそらく全員が使っている代物だ。


 それに対して物理的な質量兵器である実弾は、魔法によって大きな推進力を金属製の弾丸に加え、敵に直接ぶつけてダメージを与える仕組みである。電磁力や火薬、魔法かの違いはあれど、私達に馴染みのある銃とほぼ同じ造りになっていると言っていいだろう。

 ただし、すべてが同じというわけではない。例えば、銃身の中だけでなく空中を飛んでいる間も弾丸が加速し続ける仕組みにも出来るので、ちょっと細工をすれば重力に抗って直進させる事が出来る。(込めた魔力が尽きるまでの間なので、射程が無限大になったりはしないが)


 ちなみに、金属薬莢を専門に作る機械があるわけではないので、現在の技術では一発一発すべて生徒の手作りの物である。今の所、銃を扱う生徒の間での統一された規格もないため、銃を作ったガンスミスが弾も作る事が多い。

 それ故に使い手が製作者でない場合、非常に高価。最後の切り札とされる事が多いので、一発でも十分なダメージを与える事が望まれる。そのためにまた求められる銃弾が高価になり……という循環が起きている。かなり景気の良い兵器であると言っていいだろう。

 ボス戦で1ダース使ったなんて言ったら、現状挑める最高難易度であろうとまず間違いなく赤字だ。パーティ全員の稼ぎを合わせても足りないだろう。


 そんな代物を反射的に使ったベルトラルド。今の一発で彼女の今回の稼ぎは全部吹っ飛んだのではなかろうか。

 いや、彼女も私と同じく金には困っていないはずなので余計なお世話でしかないのだが。


 魔法を扱う危険な魔物を即座に殺したは良いが、それより前に魔法の発動の兆候も消えていた事に彼女は首を傾げる。

 おそらく私が手を出すなど考えもしていなかったのだろう。そう言えば彼女と組んだ時には私もこんな技術は持っていなかったし、もしかすると何をしたのかも理解できていないかも知れない。


 私達のサポートで危機を逃れ、軽々と魔物を撥ね上げ続けるリン。彼女によって、魔物の山が次々と積み上がっていく。

 私は最終手段の効果範囲と魔物の密度を確認し、これ以上は望めないかと見切りをつける。


「そろそろいいですよ。これが限界でしょう」

「……そう。では私は魔物を押し込みますので、後はお願いしますね」


 リンはまたもや私の言葉を半分も聞かず、盾を構えて突進する。

 ……まぁいいか。彼女が“これ”で吹き飛ぶという未来は見えない。盾を構えているのだし、巻き込んでも大丈夫だろう。現状で運用可能な限界の量かつ最高密度なのだが、大丈夫。多分……。


 私は特大の薬ビンを魔法の書から取り出すと、傘の内側に引っ掛ける。

 ズシリと感じるその質量は、今まで私が片手で投げていた薬とは一線を画す物だ。流石にこの大きさの物は私の腕力では投げられない。こうして遠心力を使うしかないのだ。


 私は傘をぐるんと振り回すと、ビンを魔物の群れのど真ん中に向けて放り投げたのだった。



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― 新着の感想 ―
[良い点] たーーーーまやーーーー
[気になる点] ウタミヤ地味だけど、パープルなってないし普通に活躍してるんだろうな 周り濃すぎるから地味になるのも仕方ないな
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