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第168話 謎らしい謎

 徐々に近付く陽の光。それは人の形に大きく遮られている。

 上にぽっかりと開いた四角形の光は、確かに上を登っているはずのコーディリアのスカートの中身を完全に隠し切っていた。暗すぎて何も見えん。これは私の下で梯子を上っているはずのアリスも同じ光景が見えているだろうな。


 結局女同士では特に何かが起こるという事もなく、私達は地下から地上へと戻って来た。梯子も何とか5人分の体重を耐えきってくれた。

 崩れた壁から爽やかな風が抜け、私達を出迎える。地下も別に不快な場所ではなかったが、確かに空気は停滞していたのだと今更になって気が付いた。


 部屋を見回すと、確か閉まったままにしておいたはずの、廊下への扉が開かれていた。どうやら誰かが除草してくれたおかげで開くようになったらしい。先に出て行ったレンカ達だろうか。

 私が無遠慮に引っ張り出した資料入れや、ミイラが安置されている棚はそのままになっているので、まさか他の誰かが来たわけではあるまい。


 ……これ以上この部屋に用事はないな。

 部屋を後にした私は、一応まだ誰も調べていないであろう他のいくつかの部屋を覗き込んだりしつつも、今一番気になっている玄関ホールへと足を向ける。

 調べていない部屋とはつまり、扉が開かない部屋だ。扉が開かない程に植物の浸食が激しいため、遠目で見ただけでは特に何も見つからなかった。その半面、日当たりが良い……つまり、壁は盛大に崩れているので無理をすれば入れそうだが……とりあえず今はいいか。


 いくつかの廊下を抜けて、私達が辿り着いたのは広い空間。一際大きな扉が設置されているここは、私達が最初に訪れた場所、玄関ホールだ。

 私はそこで一度立ち止まると、特に解散もせず、一緒に行動している二人を振り返る。


「一番怪しいのはここですよね」

「ええ。何かあると思います」


 私とコーディリアはお互いの考えを確認し合う。そのものずばりでここが怪しいと言うよりも、他に怪しい場所が思い付かなかっただけだが、ここに何もなかった場合崩れている二階に上らなければならなくなってしまう。

 階段が崩れている以上壁からよじ登る必要があるが、私にその運動能力が足りているようには思えない。確実に誰かの手を借りる必要があるだろう。……それはできれば避けたかった。


 返事をしてくれたコーディリアとは違い、相変わらずアリスは何も語らないが、今回は一人で小さく頷いてはいた。

 ただ、意志表示というよりは思わず出てしまった反応の様にも見える。まぁどちらでも構わない。一緒に行動するならそれはそれでいい。


 とにかく何かがあるなら探すだけ。

 私達は早速床の草を取り除き始める。まぁ草むしりといっても蹴散らすだけなので簡単な作業……というのは私とコーディリアだけの話。

 特殊な装備品の効果で浮いているアリスは、根元まで足が届かないので態々(わざわざ)“空中で屈んで”手を伸ばし、草を引っ張っている。どういう感覚で浮遊しているのかは分からないが、傍から見ているとその内ころんと転がったりしそうだな。


 三人で手分けして作業を開始してからしばらく。

 各々の息遣いと靴の擦れる音以外が聞こえない空間に、ぶちりと嫌な音が響いた。それは今までの音と比べると明らかに異質であり、何より聞き覚えのある音だ。

 恐らく、ひも状の物が千切れた音。


 その音の方向を振り返ると、そこに居たのはプラプラと千切れた草を手で揺らしているアリスだった。

 ただ、足元には手が届かないのか、それ以上の除草に難儀している様子である。一度降りればいいのに……。


 それを見兼ねたコーディリアが、彼女があわあわとしている周辺の草を手際よく取り除いていった。

 そうして現れたのは、見覚えのある四角い蓋だった。地下への扉と同じくこれも床との区別が付かないが、草が生え揃っているおかげで逆に分かりやすくなっている。


 私はシリンダーナイフ(本名、死毒のナイフ君)でガリガリと草を取り除き、そして奥に入り込んでいたワイヤーを引っ張り出す。刃先と床に挟まれて浮き上がって来たワイヤーを指先に引っ掛け、残っていた根っこ諸共抜き出した。

 ただ、今回のワイヤーはなぜか片方しか蓋に固定されていない。劣化して外れてしまったのか元々こうだったのかは不明だが、私は仕方なく手にワイヤーをグルグル巻きにすると、力を込めて蓋を持ち上げる。


 その下に更に扉があるのも地下室と同じ造りだ。

 私はもう慣れたと取っ手を掴み、2枚目の蓋を開ける。


 しかし、その先にあったのは錆び切った梯子ではなかった。

 床下の底は浅く、何かの装置が設置されている。地下室で見た物よりも小さなシリンダーや、そこに繋がっている管とハンドルがいくつも並ぶ。特に管は複雑に分岐と合流を繰り返し、迷路のように入り組んでいる。この装置、この形でなければダメだったのだろうか。

 これがもしも一本だけだったならば、水道管の元栓みたいだと思っただろう。


 一緒になってその中身を覗き込んでいたコーディリアが、恐る恐るハンドルの一つへと手を伸ばし一方向へと回転させる。その効果はすぐに現れた。


「……このハンドルを回すと、シリンダーの中の光が弱くなるようですね」

「これ、光の魔力を土地に散布するための物なのでしょうか。配管に何か書かれていますが……」


 床下の謎の装置を横から見ていたコーディリアにそう言われ、私も管の横を覗き込む。正面からでは見えなかったが、確かに管の横に何かが描かれているな。

 古代文字……ではなさそうだ。文字ではなくただの模様の様に見えるが……ああそうかこれ、神獣の種類か。丁度4種類あるし、見ようによっては動物の形に見えなくもない。


 そうなると、あの4種類を選んで捕獲していた意味も何となく想像が付く。

 光の魔力と言えど細かな細分化があり、特定の種類の魔力を大量に得る方法があれしかなかったのだろう。この管はその魔力の種類毎に分かれているわけだ。


 何かヒントでもないかなとアリスのいる反対側からも覗き込んでみると、そこには古代文字で数字が刻まれている。

 このくらいならば私でも読めるな。まぁ左から順番に1から振ってあるだけなので、読めなくとも問題ないが。


 私の方から見て手前側の管には魔力の種類、奥側に数字が振ってある。どうやら模様と数字で役割が異なるらしい。

 手前側の方が種類は少ないが数が多く、奥側の方が各種類一つずつしかない代わりに種類が多い。


 これが魔力を通している配管だとすれば、コーディリアが言っている事は多分その通りだ。


 まず、地下から来た魔力がこの手前側に集められる。そして、この床下のハンドルと迷路で行き先を決定し、奥側の数字の振ってある管を通ってこの施設の各所に魔力を供給しているのだろう。

 小さなシリンダーは地下の物同様に光っていたり消えていたりするので、これで魔力がどの程度通っているのかを確認できる様だ。


 なるほどな。……で、これをどうすればいいんだ?

 私は何も分からぬまま適当にハンドルをクルクルと回していく。とりあえず全部全開にしてみようか。


 そう思って回せるハンドルをすべて同じ方向に回してみたのだが、シリンダーの中に点灯しない物がある。それも分岐や合流をする前の段階で既に3つもあるので、そもそも魔力が来ていない管が混じっている様子だ。

 心当たりは一つ。どうやら地下の空の水槽、あれの分が消えているらしい。


 その上、正常に動いている魔力管同士が合流した先のシリンダーも、点灯していない場合がある。中には途中まで光っていたのに、ハンドルを回している最中に消えてしまう物まであった。

 つまり、特定の種類の魔力、もしくは特定の混交比率、または一定の量でしか動かない魔力管が置かれているのだ。セーフティか何かだろうか。


 あちこちハンドルを回してみると、各所のシリンダーが光ったり消えたりを繰り返す。まるでパズルだ。……何か、謎解きらしい謎解きが来てしまったな。

 ある程度基本のルールは理解できたが、私には正直解ける気がしない。管の迷路の時点で解く気が失せるのに、その上合流地点にルールがあるとか意味が分からん。


 私は内心ため息を吐き、立ち上がる。

 これを解くにしてもどこの施設と連動しているのかを確かめない限りは無理だな。どこかが動いたような音もしないし。魔法視で見ても魔力が微弱過ぎて床下の配管が映らない。

 恐らく地下で変質用のシリンダーを通している影響だろう。神獣の死体なら普通に魔法視で見えたはずなので。


 そうして私がとりあえずその装置を放置しようとしたのと、この場に居る全員の魔法の書が着信を通知したのはほぼ同時だった。

 静かなこの場所で聞くこの音は、3人分が同時なのもあって大変耳障りだ。もう大声で連絡を取り合った方が良くないか? もちろん私は大きな声を出すのは嫌なので、他の人に任せる事になるが。


 私は耳障りな通知音から逃れる様に、その通話を許可する。コーディリアはともかく、アリスが同じ通知を受けている時点で相手はもう決まっている様な物だ。発信主の確認も碌にしない。


 そして、急いでいるのは相手もまた同じだったようだ。

 私達が着信に応答した瞬間に、口早に言葉を捲し立てる。


『どこに居る? こっちは二階で見取り図を見付けた。意味は分からないが何かが書き……』

『しかも見取り図を取った瞬間に装置が動き出したのじゃ! (わらわ)大発見かも知れん!』


 ……見取り図ね。それ、数字が書いてあったりはしないだろうか。

 私は薄々装置が動き出した理由を察しつつ、こちらも発見した物を報告するのだった。



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