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第14話 実験

 使い慣れた毒の魔法を発射して、命中した(ライバ)の様子を魔法視で確認する。

 暗い視界の中で、赤いオーラの周囲に紫の円と青白い円が一つずつ回っている。これらは毒と昏睡を示す表示だ。さっき使った魔法はどちらも影響力100なので、耐性はどちらも1倍以下という事になる。これは聞いた通りだな。


 今回こうして図書室を出てフィールドまで赴いた理由は、ようやくカスタムし終えた魔法の“試験”だ。

 毒の魔法も変更していない初期スキルと改造済みの両方を持って来てみたが、いつもの感覚で初期スキルの方を使ってしまった。まぁ別に焦る必要は特にないだろう。似た魔法の使い分けについても練習しなければ。


 改造の前段階で躓いていた私は、最近になってようやく詠唱魔法の魔法の改造(カスタム)に手を出したわけだが、どの方向性ならば強いのかなど、実戦経験のない私に正しい判断が可能かはかなり怪しい。

 そもそも毒以外の状態異常効果に関しては一度も試したことがない状態だ。一度くらいは試し撃ちをしておかねば、更なる改良などは行えないのである。


 その相手として強敵ライバを選んだ理由はただ一点。本当ならば白いオーラの相手を選びたかったのだが、えり好みしている内に赤い敵しか残らなかった。


 その選択した理由とは、この魔物が何一つ状態異常を減衰しないということの一点のみ。

 つまりこの馬もどきに対しては、私が扱う魔法が全て素通りする。この作品、たったこれだけの条件で相手がかなり限られてしまうのだ。


 例えばこの前のレッサーパンダもどきこと、ヒノワ狸。あの魔物は強さこそ最弱ランクだが、実は麻痺も昏睡も半減してしまう。はっきり言ってそれらを封じられると私が1対1で勝てるかは、かなり怪しいところだ。

 その点このライバは優秀で、私の使用可能なすべての状態異常効果を一切軽減しない。実験台にはもってこいの相手と言えよう。強すぎるのが欠点だが、そこは立ち回りで何とかするしかないだろう。一応、回復薬も持ってきたし持久戦も可能だ。……即死しなければだが。


 私はまだまだ起きる気配のない馬面を前にして、次の魔法を準備する。

 詠唱時間の比較的長い魔法はこうして敵の動きを封じてからでなければ使えない。もちろん頼れる前衛が居ればそんなのお構いなしなのだろうれけど、そんな仲間は当然私にはいないのだ。


 ……入学試験の時は出の速さばかりに気を取られていたわけだが、パーティプレイではそれ以上に足止めするための衝撃力や火力の方が重要だったわけだ。まったく、自分の見る目のなさには呆れ返る。


 私が魔法を唱え終えると、馬のすぐ前に赤い水晶が出現する。その内部では何かが淡く光っている。

 徐々に強くなっていく光を見つつ、時間を合わせて次の魔法を展開する。行動できない敵を一方的になぶっている……ような雰囲気はあるが、実際にはまだ毒のダメージ分しか入っていない。体力の量だけ見れば一方的なボロ負けの状態だ。


 そして、最初の魔法から口の裏で数えていたカウントが0になると同時に、ようやくライバが目を覚まし……と思ったのだが、昏睡したまま動く気配はない。どうやら少しカウントが早かったようだ。

 いずれにしても、今から目を覚ましてもらう事になるのだが。


 やや早めに準備していた魔法を発動すると、馬の足元から黒い泥が吹き上がる。

 改造していた毒の魔法の一つだ。それもただの毒ではない。攻撃判定を伴った魔法、つまりこれは攻撃魔法なのである。

 元々は毒の状態異常を与えつつ攻撃するという魔法だが、今回は魔法威力に偏った改造を施している。詠唱時間の増加と毒の影響力の減衰など様々な副作用があったが、ここまでしても尚攻撃系の初期魔法に及ばないという悲しい威力しかない。呪術の定めとして受け入れる他ないか。


 尤も、それでも攻撃は攻撃だ。

 昏睡状態は効果時間が切れるか、直接攻撃を受けると解除される。毒の泥を体に浴びて馬が嘶き、その直後に赤い結晶が一際大きく輝く。


 そして、大きな爆音と共に砕け散る。

 破片と爆風を巻き散らし、そして跡形もなく消え去ってしまった結晶。爆心地の真正面ですやすやと眠っていた馬は、果たして。


 ……当然だがピンピンしている。それはもうこれでもかと暴れ回っているのだ。

 魔法視で様子を確認すれば、オーラのサイズはほぼ変化なし。つまりダメージは軽微。あっても数%といった所だろう。


 毒を示す紫の輪が薄くなり始めているが、他にももう一つ。緑色の輪がぐるぐると赤いオーラを取り囲んでいた。

 これは混乱を現すエフェクトだ。混乱は敵味方無差別に襲い掛かる効果で……と呑気に観察してる間に、馬は猛然と私に向かって突進する。


 私は慌ててそれを横に避ける。単調な突進な上に毒の沼によって加速が軽減されていたので、私でも問題はない。その拍子に足がもつれてしまったが、それでも何とかその場に踏みとどまった。

 反撃として、私は現状最も使い勝手がいいと予想している魔法の詠唱を開始した。


 私の隣を風の如く駆け抜けていった馬は、変わらず落ち着かない様子を見せている。

 攻撃対象が敵味方無差別になる混乱状態は、1対1ではあまり効果のない状態異常だと思っていたが、どうも動き自体はかなり鈍くなってくれるらしい。

 もしかすると攻撃対象の選択候補に自分自身でも含まれているのだろうか。そうなると混乱させるだけで攻撃頻度は半減か。……まぁ余程の事がない限りは素直に行動不能系を使った方が確実か。


 見えない敵を蹴り飛ばすような動作を繰り返す馬に向かって、私は“自習”で発見した魔法を発動する。


 一瞬ライバの足元の魔法陣が輝くと、何もない草むらから勢いよく鋼色の何かが飛び出す。それは竜の咢の如く馬を丸飲みにすると、聞くに堪えない金属音を響かせてその口を閉じた。

 凄まじい勢いで対象を捕食して見せたそれは、鋼の檻だ。動物的な意匠になっているが、顎のように2つではなく4つに分かれている。そのためかなり不気味な雰囲気のある生き物のように見えた。


 これは封印の呪術。改造元は単純に封印という状態異常を与える魔法だったが、自習でとある本の中に出てきた魔法を元に改造して見ればこの通り。敵を一定時間檻の中に拘束する魔法になっている。

 元々は魔法使いを捕らえておく牢屋として物語に出てきた魔法だ。


 封印状態は魔法系統の攻撃を封じる状態異常で、無効か有効か以前に物理型にはほとんど意味のない状態異常。使い所が限られる状態異常系の宿命を背負っている筆頭と言えるかもしれない。

 そこを拘束効果を付与することで無理矢理すべての敵に有用にしてしまうという、私の自習の成果の中では最も有用と思しき改造魔法だ。まぁ改造という名のコピペだが。


 拘束する以外の効果は、檻の中に入っている敵に毎秒30の影響力を与えるというもの。封印状態にするには合計4秒必要だが、拘束時間は敵の強さに依存する。強い敵程拘束時間が短いと言う訳だ。

 ちなみに今回の敵は赤いオーラ。私から見て強敵判定である。


 あまり余裕はないだろうなと急いで次の魔法を準備している間に、甲高い、悲鳴のような金属音が草原に響く。

 そして、私のすぐ横を折れた鉄柵が掠めていいった。どうやら檻を後ろ脚の蹴りで弾き飛ばしたらしい。二秒と保たなかったな。

 しかしまだまだ混乱効果の最中であるため、時間的には余裕がある。いや、正確には時間がある可能性があるという話だが、別にここで負けても失うものはない。もう一度挑めばいいだけである。


 ようやく次の魔法が組み上がり、黒い霧が魔法陣からもこもこと湧き出す。明らかに体に悪そうな見た目だが、混乱しているライバは特に気にすることもなくその霧の中で暴れ続けた。


「……これで少しは安心できるかな」


 この黒い霧は、対象に暗闇状態を付与する魔法だ。霧の中に居る対象に毎秒20の影響力を与える。ちなみに味方には暗闇状態を付与する効果が影響しないので、霧の中でも結構見えるはずだ。今回はそもそも霧の中に入っていないので本当なのかは分からないが。

 しかし敵にとっては少し視界が塞がった上に、更に視界を塞ぐ暗闇状態を付与されるわけだ。改造した時から相性はいいだろうと思っていた。


 どの程度効果があるのかはやってみるまで分からなかったが、ライバは既に壊れてしまっている檻の残骸に向かって蹴りをかましていた。

 混乱状態でも檻を破って以降は興味を示さなかったので、おそらくは閉じた視界の中で檻を敵と誤認したのだろう。この組み合わせは思っていた以上に優秀かもしれない。


 霧は十秒ほどで晴れてしまったが、暗闇効果自体はこの先も続く。最初は毒ではなくて、こっちを試すべきだったかな。


 周囲を窺うようにゆっくり移動するライバを横目で見ながら、次の魔法を準備したその時。

 馬と視線が交差する。顔の横に備え付けられた大きな目玉が、私をしかと捉えたような気がしたのだ。


 ぞわりと悪寒が走り、私は魔法を中断してその場を離れようと駆け出す。

 ……確かに駆け出した、と思ったのだが、気付いた時には思い切り足をもつれさせて私は倒れ込んでいた。地面に急速に近付いていく視界の中で、私は思う。またか。

 痛みはほとんどないはずだが、衝撃に身構えようと目をつぶる。


 次の瞬間、風を切り、後頭部のすぐ後ろを抜ける二つの蹄。


 強烈な後ろ蹴りが髪の毛を掠めて行ったのだ。その事実を確認して、全身から汗が噴き出す。

 むしろ、転ばなかったら即死だったな、これ。走っていたらとても間に合わなかっただろう。


 私は倒れたまま杖を構えて、一つの魔法を発動した。

 それは目に見えない衝撃となって頭上の魔物に殺到する。

 私が扱える中で初期スキルと同等の速度で展開できる、最速の魔法だ。弾速の関係でおそらく今はこれが一番早いだろう。

 咄嗟に使う練習は特にしていなかったが、直前の感情が魔法を強烈にアシストして、魔法は今までにないスムーズさで発動する。


 直後、ライバは慌てて私から離れて行った。ただ地面に倒れていただけの私から。

 そして何かを睨むようにしながら、こちらの様子をじっと窺っている。まるで私の事を警戒しているような動きだ。まだ私は、ほとんど攻撃もしていないというのに。


 この魔法は恐怖の魔法。恐ろしい物という意味ではなく、敵を恐怖状態にするという効果の魔法だ。

 ほとんど目には見えないが、毒の魔法と同じく弾丸を飛ばす性質を持たせてある。見えないというのは相手にとっても脅威だが、こちらにもやや不便。山なりの弾道なので近付いて当てる必要がある。


 恐怖状態の効果は弱点部位の拡大と、弱点への攻撃倍率の増加だ。そして魔物に使った場合は行動指針の変更がある。具体的には戦闘に対して消極的になる。


 いや、そんなことよりだ。

 暗闇といいつつ、十分に見えているではないか。しっかりと暗闇状態が継続していることを魔法視で確認してから、私はそう口の裏で悪態をつく。

 あの時確かにライバは私の位置を確認してから攻撃をしていた。視界が塞がっているのではないのか? 本当に効いているのかと疑問が湧く。


 しかし距離を取った今は、まるで私を見失ったようにきょろきょろと辺りを見回していた。

 ……もしや近くにいる敵は見えるのだろうか?

 距離を取って戦う時に有用な状態異常なのだとすると、物理型の近接タイプには使い道が薄いな。そういう敵程使いたいと思っていたのだが、完全に当てが外れた。


 ヘルプで読んだ時と少し違う使用感をしっかりと記憶しながら、私は試そうと思って持ってきた最後の魔法を発動する。



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