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第166話 真相へ

 私は僅かな緊張を飲み込み、いくつもの水槽の間を抜けて行く。水槽に浮かべられた動物たちは、どれもこれも安らかな表情をしていた。

 ……私の視界の外でぎょろりと目が動いていやしないだろうか。そんな不安が頭をよぎる。


 この動物達、森の中でふと出会ったらきっと神々しい姿だったのだろうが、こうして並べられていると正直かなり不気味だ。

 数も居るので希少性という観点からも微妙……。まぁこんな動物がいるなんて知りもしなかったので実際にはとても希少なのかもしれないが、こうして見せられている以上それを感じるのは難しい。


 これらの動物の詳しい種類は、もちろん私には分からない。現代も生きているのか、それとも昔の動物なのか。コーディリアに聞けば詳しく分かるだろうか。

 今回ばかりはあまり当てにならない。気がする

 彼女の知識は自身の興味に大きく傾いている。植物や昆虫にはかなり詳しいが、こういった獣の話を彼女から聞いた覚えがなかった。彼女でなくとも、誰か一人くらいは知っていると良いが。


 並べられている水槽には、特に制御用と思しき装置は付いていない。

 では稼働しっぱなしなのかと思いきや、上部から太い管が伸びている。ただの水の入れ替え用……とは思えないな。この管の先に制御盤か何かが置かれているのではないだろうか。


 私はそれを辿って部屋の奥まで進んでいく。

 入口の方からでは水槽に阻まれて見えていなかったが、部屋の奥には何かのシリンダーの様な物が何本も設置されていた。どうやら水槽の管はここに繋がり、そこから更に上に向かっているらしい。

 シリンダーの中身はよく分からない。輝いている……気体だろうか。シリンダーの全体がぼんやりと光っているのは分かるが、光源と思しきものは見当たらなかった。


 管の端は部屋の中には見当たらない。もしやこの管、ここから地上階に繋がっているのか? この場所の真上は……。


 私が地図を確認しようと魔法の書を開くのと、通知によって勝手にページが開かれるのはほぼ同時だった。


 突然の音に心臓が飛び跳ねる。

 この地下室、明るくはあるが不気味だし、何より音がない。私以外に誰も居ない事もあり、急な物音は心臓に悪いのだ。


 すぐに音の正体を把握すると、特に異常ではなかったかと胸を撫で下ろす。どうやら音声通話が着信しただけのようだ。

 発信主はディーン。それも私への個人的な通話ではなく、パーティ全体に向けての物の様だ。


 私は驚かされたことに顔を顰め、渋々応答する。

 こちらの調べ物はまだまだこれからなのだが、もしや上では何か分かったのだろうか。そうなのだとしてももう少し待って欲しいのだが、こちらの事情など知るはずもないので仕方ないか。


 魔法の書で許可を出した途端に聞こえる複数人の話し声。音が無く寂しい地下は、それだけで一気に賑やかになった。どうやら私の参加が最後だったらしい。

 ディーンはメンバーが揃った事にすぐに気が付き、話を本題へと戻した。


『これで全員揃ったな。各々何か収穫はあるか?』

「ありますが……このまま通話で報告会ですか?」

『いや、一度集まろう。ロビーでいいか?』


 ディーンが発信主だからか、話し合いは彼を中心に進んでいる。まぁこうして遠隔でやるよりは集まった方がいいだろうな。それは同意見だ。


 私は壁に掛けられた品を観察しつつ、ふと考え込む。そして水槽の並ぶ背後を振り返った。

 “これ”をすべて口頭で説明するのは面倒だな。かと言ってここから持ち出せる物だとも思わない。


 ロビーに集合という事で話がまとまりそうになっているが、私はその中でそっと反対意見を述べた。他の連中がロビーに集まると言うことは、私以外に移動したくない人間は居ないということだ。問題ないだろう。


「こっちはまだ少し調査にかかりそうなので、私の所に集合にしましょう。一番奥の部屋の地下に居ます。入口は開いているはずなのですぐに見つかるはずです」

『……地下?』


 地下へ詳しい道順を告げ、適当な所で話を切り上げる。思惑通り一人だけこの場で待機となった私は、今度こそ目の前の物に集中した。

 さて、人が来る前にある程度の調査を終わらせておかなければな。とりあえずはこのシリンダーの役割くらいは調べておきたい。


 それからしばらくして、この不気味な地下室に5人全員が集まっていた。

 通路はともかく梯子が結構な長さなので、全員が揃うにはすこしばかり時間がかかったが、そのおかげでこちらも一区切りついたところだ。


 地下へとやって来た全員が、物珍しそうに視線を動かしている。不気味ではあるが、それ以上に未知への関心が強いのだろう。

 一人先に調べ始めていた私は、上の階で見た物と地下室についての情報を話していく。


「……上で見た物はそのくらいで、地下は……見ての通りですね」

「ふむ。何が何だかさっぱりじゃな。得体の知れない実験を繰り返していたのは間違いなさそうじゃが」

「それとこのシリンダーですが、どうやら光属性の魔力を調整する物のようです」

「光属性?」


 私は輝きを失ったシリンダーを壁から抜き出すと、その取り付け部分に刻まれた陣を読む。

 これは魔力を調整する陣だ。具体的には質を落として量を増やす様な設定にされている。恐らく魔力源から抜き出した生の魔力が強過ぎるので、扱いやすい性質に変換しているのだ。


 シリンダーはその調整のための物だ。光の魔力の源となっている水槽から数本のシリンダーを通して調整した後に、魔力は更に上へと上っている。

 ただし、地上のどこに繋がっているのかは不明。この真上は玄関ホールだ。あそこに特別な何かがあったようには思えないが……。


 ちなみに私が手に取った、輝きを失ったシリンダー。これは空の水槽から接続されていた物である。恐らくは“魔力源”が尽きたか、どこかが壊れてしまった物なのだろう。


 私がそんな予測を語って聞かせると、この場にいる内の二人ほどが明確に表情を変える。

 その内の一人であるコーディリアは、私の話に得心が行ったとばかりに頷いていた。


「なるほど。そうなるとこの装置、光属性の土地を人工的に作り出すための物なのかもしれません」

「光の地じゃと……? なぜそんな物を」

「それは分かりませんが、ここの植物の種類はかなり特殊です。もしかするとそれらの栽培をしていた……という理由もあるかもしれません」


 彼女曰く、光属性の土地とは大変に珍しい物なのだとか。

 光の魔力自体はありふれた物なのだが、光の属性はエーテルと大変反応しにくい。そのためエーテルは他の属性、例えば風や氷などと優先的に反応してしまい、土地の属性は光以外の基本属性へと偏ってしまう。

 炎や地属性でも似たような事が起きるようで、光の属性を土地に与える場合、純粋な光属性の魔力を土地に根気よく根付かせる事でしか成功しないのだとか。


 現代ではかなり限定的な、それも人工的に調整した場合にのみ確認されている。

 他の魔力を排除しなければならないので永続的な保持はほぼ不可能。普通は10年程度しか安定しないのだとか。それもその倍以上の準備期間を設けて。


 ……コーディリアの話はつまり、明らかに異常なここは光属性を安定させるための特殊な土地であり、そしてその根幹の装置がこれという事か。光属性の植物が繁殖している以上、この土地がそれ以外の属性に偏っているという事はまずありえないのだとか。


 それに、もしもそれが本当だとすれば、上にあったいくつかの物は説明が付く。


「植物もそうですが、上のミイラや資料も似たような事が言えそうです。光属性には再生や繁栄と言った効果がありますから、もしかすると生き返るかもしれない、劣化しないかもしれない……そういった実験の痕跡と考えられそうです」

「神獣を糧にして、まさかこんなことをしていたとは……」


 神獣?

 ディーンの言葉に私は小さく首をかしげる。あまり聞かない言葉だな。何度か図書室や禁書庫では見たが、深くは知らない。ざっくりと用語の解説だけを見て、鎮守神の類だと考えていたのだが……これらがそうなのか? 流石に実物は見た事がないので判断が付かない。


 私の困惑が伝わったのか何なのかは分からないが、彼は何も言わずとも詳しい解説をしてくれた。


 彼曰く、これらの猿や鹿は“神獣”でまず間違いないとの事。

 現世で言う所の神獣とはつまり、光の神に近い性質を持っている存在である。そして、水槽に入っている輝く動物達が“光の魔力の源”となっている以上、彼らがそれであるのは間違いないらしい。


 言われてみれば、そもそも“死”と“光”の魔力は相性が悪い。死は闇の神が司る概念だからだ。

 そのため、死体の状態で光の魔力を保持している者は限られる。それが動物となれば特別な物なのは間違いなく、それを神獣と呼んでもおかしくはない。


 ただし、他にも神獣は数あるが、なぜ魔力源をこの4種類に限っているのかは彼にも分からないとの事。

 一応、猿は知恵、鹿は繁栄、亀は永遠、鳥は自由の象徴らしいが、それらが特別扱いされているという知識は彼も持っていないらしい。私もそんな文献を読んだ記憶はないな。


 ……それにしても、神獣ねぇ。

 闇の神が死体を残したように、光の神もまたその体を物理的に残しているはずだ。もちろん疫病の蛇がそうだった様に既に死んでいるとは思うのだが、もしやこれらがそうだったりするのだろうか。


 私は翼を閉じている鳥を見上げる。光の神本人には会ったことがないが、実はこれが初対面かもしれないという事か……。

 ディーンは神獣の解説を一段落させるが、この不気味な地下室に沈黙が訪れるよりも早く言葉を続ける。


「そう言えば、この施設の創始者が分かったぞ。図書室に読める本が残っていた」

「……ああ、あなた古代言語学取ってるんですね。これも渡しておきます」


 ディーンの言葉をぼんやりと聞き、一拍置いてからその意味を理解した。この施設がいつからあるのかは分からないが、使われている文字が古代言語なのは間違いない。

 ロザリーが居ないのでどうしようかと思っていたが、ここに適任者がいたのか。


 私は自分には読み解けなかった資料を彼に手渡す。ここの上に置かれていた例の金属板だ。

 まぁ今までの予想が当たっているのなら、大したことは書かれていないだろうけれど、一応ね。


 この資料、おそらくは光属性下での劣化の実験だったのだろう。若さや永遠、繁栄等の力を持つので、食べ物が腐らないとかはありそうだ。まぁミイラを入れたのか入れている内にミイラになったのかは分からないが……。

 尤も、何らかの理由で植物が脱走した上に、それに伴って施設が崩壊してしまったので完全に失敗になっているが。


 ディーンは私から数枚の板を受け取りつつ、自分は紙の資料を取り出す。

 そしてそこに書かれている名を読み上げた。


「この施設の創始者は、ウィズダム。魔法陣の発明をした、太古の賢者の名の内の一つだ」



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