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第160話 古代のヒント

 亀が氷属性で鳥が風属性なのはなんとなく分かるのだが、小鹿のような四つ足の動物と猿は何属性なのだろうか。


 この世界で基本属性とされている属性は、炎、氷、風、地の4種。他にあるのは光と闇。あとは特殊な属性だけだ。


 植物系の魔法はすべて地属性になるため、鹿も猿も印象としては地属性。地属性の魔法は一応あるが……こう、鍵も属性も4種類あると、それぞれの鍵に別の属性で揃えた方がいい気がしてしまう。

 しかし、猿も鹿も流石に炎じゃないだろう。強いて言えば、猿の方が火を使うのに相応しい知能と名前の響きをしているだろうか。


 並んでいる人形をじっと眺め、ただただ時間が過ぎて行く。

 ……もうここでこうやって考えていても、仕方がない気がしてきた。そもそも最初の方針から勘で選んだのだから、根本的に考え方が違う可能性もある。それを考え始めると、もうどうしていいのか分からない。


 私は諦めと共にため息を吐くと、もう好きなのを直感で選んで終わりにしようとコーディリアを探す。

 しかし、コーディリアの姿が見えない。彼女はいつの間にか部屋から綺麗さっぱりと消えていた。どこへ行ったのだろうか。


 この部屋は確かに広いが、特に隠れられそうな場所はない。精々台座の裏に身を隠すくらいだろうか。体が小さいので隠れられるとは思うが、そんな場所に隠れる理由がない。

 この部屋に居ないという事は、小部屋か入り口か……。


 私がキョロキョロと視界を左右に振っていると、開け放たれていた小部屋の扉の一つから小さな少女が顔を覗かせる。

 彼女は私と目が合うと、何かのノートを手にこちらへと駆け寄ってきた。待ちぼうけで何か暇潰しに探検でもしていたのだろうか。それにしては少し表情が明るい気がするが。


 それに、あのノートは何度か見た事がある。

 コーディリアが使っている研究用のメモだ。ただし、あそこに記載されているのは蠱術の秘密ではなく動植物の情報。

 この場所に植物なんてあっただろうか。ここに来てから虫の一匹も見ていないのだが。


「……何をしていたんですか?」

「あ、すみません。面白い物があったので……」

「面白い物?」


 彼女はそう言うと、ノートの途中のページを開いて私に見せる。

 そこに描かれていたのは、この部屋の見取り図だ。私が立っている大きなロビーと、左右にある40の小部屋。ただの地図かと思いきや、小部屋の各箇所に何やら文字が書き込まれている。

 これは……何かの名前だろうか。正直何を意味している言葉なのかよく分からない。現代語なので読めはするが、どれもこれも固有名詞ばかりだ。


 見せて貰った所コーディリアには悪いが、私には正直何が面白かったのかすら理解できなかった。私は仕方なく問い返す。


「それで、何があったんですか?」

「はい。えっと、実は小部屋の壁に、化石が埋まっていたんです」


 彼女はそう言って、私にノートを見せつつごそごそと探していた写真を何枚か差し出した。


 そこに写っているのは、確かにこの建造物の壁だ。

 改めて見ると、単純に地面を掘ったと言うよりはどこからか石材を持って来た様な造りの壁だ。化石が入っていても確かにおかしくはないだろう。


 しかし、その数が異常だった。

 彼女が取り出した写真は合計40枚。つまり全部屋の分、一枚ずつ写真があるのである。

 素人の私には石の模様にしか見えない物まであるが、各部屋に一つずつ化石があるなんて、とても偶然として無視できる要素ではない。


 コーディリアは嬉しそうに、撮ったばかりの写真を鍵の隣に並べて行く。

 鍵は部屋の順番に並んでいるので、種類や特徴しか書かれていなかったノートの見取り図と違って、化石の形くらいは見て分かるようになった。


「これ、きっとヒントですよね」

「そうでしょうね。……ちなみに、そうやって並べたらコーディリアが正解を導いてくれたりしませんか?」

「それは……ちょっと難しいです。あ、もちろん考えてはいますよ? でもこういう謎解きはあまり得意ではなくて……」


 ふむ。単純に、鍵の種類と化石の種類が同じだったりはしないらしい。これで猿の化石とか鳥の化石が出てきてくれたら分かりやすかったのだが。

 私はそんなお気楽な事を考えていたのだが、コーディリアはそうではないと言葉を続ける。


「壁にあった化石は、すべて植物なのです。動物の種類とは直接関係なさそうですわ」

「……種類とか分かりますか? 私にはさっぱりなんですけど」

「えっと、半分くらいは同定に困りますね」


 流石に無理そうか。……と、半ば諦めつつ訊ねた言葉。

 その返事は、私にとって予想外のものであり、理解するまでにしばしの時間を必要とした。


 ……え、半分くらいは同定に困るって言いましたか?

 それ逆に、この何が何だか分からない化石の種類が半分も分かるの?


 私は目を(しばたた)かせ、思わず彼女の顔を見詰め返す。


「その、種類まで分かるんですか?」

「あ、えっと、似た植物を魔法世界でスケッチしていたので、完全に同じ物ではないかもしれませんけど……」

「いえ、十分です。分かる範囲で教えてくれませんか?」


 ……私はもしかすると今まで、彼女の事をどこか甘く見ていたのかもしれない。


 元々、私達が出会った時から、彼女は“変な奴”なのだ。

 私とは研究者としての在り方が根本的に違うと言っていい。


 私はずっと、呪術師が如何に強くなれるかという内容を、自分の力を付けるために研究していた。

 その考え方は、色々と他の事に手を出している今でもあまり変わらない。思い返せば私が何かに熱中する時はいつも、誰かを見返してやりたいとか、立場を高くしておきたいとか、そういう利己的な考えをきっかけにしていたように思う。


 しかし、彼女は違うのだ。

 私と出会った時からコーディリアは、蠱術の中でも状態異常特化という極めて弱い戦法を“趣味で”選択していた。毒性学を学んだのは、単純に自分の虫を更に活躍させたいと望んだからである。

 強くなるだけならば、召喚体を真っ当な方向に育成し直すだけでよかったはずなのに。


 それをしなかったのは、彼女が自分の好きな事を理由もなく、一切の損得を無視して取り組むという、極めて稀有な性質を持っていたからだ。


 そうして積み上げて来たものがこの知識。一体他に誰が魔法世界の植物を見て、図鑑を引いて種類を調べるんだ?

 こんな知識が役に立つなんて、それこそ彼女自身も期待していなかった事だろう。


 私は、感心とも呆れともつかない感情で苦笑をし、コーディリアの話を聞く。専門外というか、想像もついていなかった領域の知識だ。半分も分からない。


「なので、この植物は火属性に偏りますね」

「……なるほど。その属性が回答の魔法陣と対応している可能性はありますね。これは逆に、はっきりと分かっている魔法陣の解説を、私があなたにした方が良さそうです」


 二、三種類化石の解説を聞いた時点で、私は彼女の話を止める。

 多分逆に私が魔法陣の解説をして、それと似た性質を持っている植物をコーディリアに選んでもらった方が早いだろう。真剣に聞いても全然分からん。


 私は勘で除外していた魔法を含め、効果の概要や違和感を覚える単語の使い方などを説明していく。魔法陣の知識ではなく、起きるであろう事象を説明するだけなので授業内容を考えるよりは遥かに簡単だ。

 それに、召喚系とは言え一応筆記でも合格して上級になった彼女の事だ。流石にこの程度は理解できるだろう。


 ちなみに植物の属性についてだが、コーディリアから面白い話が聞けた。どうも植物、そして植物から得られる魔石は、そのすべてが地属性という訳ではないらしいのだ。

 コーディリアの話では、どうやら“土地の属性”という物があるらしく、それは自然にあるエーテルの形である程度判断できるらしい。


 土地が氷属性ならエーテル液が豊富で、風属性なら気化エーテルが多い。勝手にエーテルが属性と反応してしまうためだ。エーテル液が湧いている場所なんかも、こういう土地の属性の関係もあるらしい。


 そういった特殊な環境では、もちろん植物もエーテルを空気や水と一緒に吸収してしまう。

 その過程で植物は軽微な属性を得て、特定の方向へ進化していく。逆にエーテルの持つ属性に適性がない種は、あっさり死滅してしまうらしい。運よく生き残っても、種が残せないのだとか。


 更に余談だが、基本属性である残りの二つ、火属性と地属性の判断は土地だけでは難しい。これはエーテルがこれらの状態に特化した形態にならないためだ。

 しかしそれでも植物や小さな生き物は反応して進化する。逆にこれらの属性の場合、生き物の種類から土地の属性を知るという事が出来るそうだ。

 まぁ、火属性なら火山とかそういう地形での分かりやすさもあるらしいが、それはまた別の話である。


 私の話を聞いて真剣な表情でメモを取っていたコーディリアは、すべての魔法陣の解説が終わると、その身を屈める。

 そして、4つの鍵をその小さな手で掴み取った。


「これだと思います」

「そう。じゃあ、それにしましょう。この扉を開いたら終わりってわけではなさそうだし」



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― 新着の感想 ―
[一言] いいコンビですね! コーディリアは初めて会った時からこの世界の文字を使ってる強者ですからね。強さよりも求めるものがあったんだね。 部屋に入ってすぐに見つけていたけど、普段から知らないものを探…
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