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第155話 魔法の仕組み

 賢人の問いの参加申請をさっさと終えた私は、ティファニーと別れて自室へと戻って来ていた。ここは相変わらず散らかり放題ではあるが、今の所誰かを招くこともないので大きな問題はないだろう。


 私は積み上げられた資料の山から目的の紙束を見付けると、上に乗っている別の資料を崩さない様に慎重にそれを抜き出す。部屋は紙と本の山ばかりだが、一応どこに何を置いているのかは把握しているのでこれで間違いないだろう。多分。

 どこかに座ろうかと視線を彷徨わせたが、椅子も資料置き場になっている。私は仕方なくベッドに腰を下ろし、改めて紙束の内容を確認した。


 これは邪法についてのメモだ。研究を始めたばかりの頃に疑問に思った事や、性質についての仮説などが書かれている。現在の認識とはかなり違っている所もあるが、改めて最初の頃の疑問について考えるのも理解を深めると言う点で必要な事だ。

 そもそも邪法については“正しい知識”を持っている人間がまだいない分野の話なので、現在の自分の認識に何か矛盾がないのか不安で仕方がない。そのためこうした見直しはある程度必要になって来る。


 まず最初に大前提として、邪法とは闇の神の魔法の事だ。

 対して、普通にこの学院で研究、指導されている魔法のすべては光の神の魔法だ。なぜ対となる闇の神の魔法が残らなかったのかと言えば、神話通りではないにしろ、神話にある戦いに負けた闇の神の影響がこの世界そのものから大きく削られてしまったからだ。


 今見ているこの資料には普通の魔法……“光の神の魔法”についてもメモされている。

 邪法との差異を見付けるために、こちらも正確に認識しておく必要があると考えたのだ。まぁ、この時に調べたのは中級試験の時の共通部分程度の知識でしかないのだが……。


 魔法は、光の神が人間に与えた力だ。

 これは闇の神から教えられた話とも関係するのだが、戦いの最終局面、信徒や眷属同士の戦いになった際に、光の神が自分の信徒である人間(悪しき心根の者を除く)に与えた力の一端が魔法なのだと言う。


 逆に魔物が使う魔法の様な力は、闇の神の力。そのため性質的には邪法と親戚らしい。

 ただし、近しいという話は聞いていたが、実際に実験や考察を深めて見るとかなり異なった性質を持っている様に思えるので、若干疑わしい話ではある。この辺りは更なる仮説と検証が必要だろう。


 神話の中で人間に与えられた最初の魔法は神聖術だ。味方を癒し、敵を(ほふ)り、勇なき者を鼓舞したという。

 光の神から直々に与えられた力という事で、現代の神聖術とは比べ物にならない程に強かった。今でも結構強いけれど、神話の中ではそれ以上の物が飛び交っていたらしい。


 人々はその力で闇の神の信徒、つまりは魔物達を殲滅(せんめつ)。最終的には闇の神さえも次元の扉の向こう側へと押しやった。

 しかし同時に、光の神もその時に力を使い果たして眠りについたのだと言う。


 他の種類の魔法は、後に人間が発見し、発展させた物だ。分かりやすい例だと、奇術の発見には一人の詐欺師が関わっているなんて逸話もある。

 光の神という管理者が居なくなったため、力は一定の多様性を持ち始めた。それが魔法の多様化の始まりだ。それが最初から神によって想定されていた形なのかは分からないが、神聖術こそが唯一の魔法だった世界で、魔術や召喚術といった形に変化した力を振るう者が現れ始めた。その反面、神聖術は大幅に弱体化したらしい。


 ただ、その時の魔法は今以上に限られた者だけが使える特別な力だった。それも光の神が居た時とは比べ物にならない程に弱体化した物。魔術や召喚術も、今の魔法に比べればあまりに弱々しい物だった。

 人々は『魔物の居なくなった世界にはこの力は不要なのだ』と考えていたのだが、ある天才が一つの発明をした結果、世界は大きく変わる事となる。その結果を見るともしかすると“してしまった”と表現する方が良いのかもしれないが、彼は確かに天才ではあったのだろう。


 彼の偉大なる発明。それは魔法陣だ。

 魔法陣は人間が僅かに扱える魔法の力を大きく増幅し、現実を大幅に改変する数少ない方法だ。現代でも形を変えながらも受け継がれてきたこの図形は、偉大なる力と知恵として瞬く間に世界中に広まっていったという。

 そして、それと同時に魔法は人間同士の争いの道具となるのだが……それは今は関係ない。歴史ではなく、魔法の性質についての話だ。


 ここで重要なのは、魔法は才能がある人間がその気になれば、魔法陣が無くても発動するという事。

 ただし、私達学院生……というか現代人はそこまでの才能を持っている人間がいない。そのため理論上はそうなるという話でしかないのだが、私が求めているのはその部分なのでとても重要な事だと言える。


 光の神の魔法は、体内にある魔力を使って現実を改変する現象の事だ。

 物質的な魔法陣を使ったり儀式をしたりするものもあるが、それらの方法でも人間の体内の魔力しか使う事が出来ない。自然界に存在している魔力を体内に入れる方法はあるが、自然の魔力を使って魔法を人間が行使する事は不可能だ。

 特殊な魔力タンクから物質的な魔法陣に魔力を流す方式もあるにはあるが、生贄(いけにえ)を使わない方法は見付かっていない。私達には理解することもできない技術の精霊核も、大精霊を突っ込んでようやく形になったらしいし。


 では魔力とは……と深く考えると実は切りがないが、魔力はざっくり言えば現実を改変するために必要なエネルギーの事。そういう認識で少なくとも“経験則の上では”概ね辻褄(つじつま)が合う。

 魔力は精神や情報体の内部に含まれており、これが体から一気に抜けると精神的に大変疲れる。私みたいな学院生は“魔法体”という特殊な肉体で暮らしているので、体も一緒に疲れる。


 魔力は魔法陣を通さない場合、精神から強く干渉を受けてその形を変える。その際に、脆弱(ぜいじゃく)な物質世界を書き換えてしまう……らしい。ここの理屈はよく分からないが、この世のありとあらゆる物質は根本的に魔力の支配下にあり、魔力の干渉を受けて現実が変質してしまうのだという。

 とは言え、人間が扱える魔法など一時的な物だ。氷や水を出して乾きを(しの)ぐなんて事は普通はできないし、普通なら大やけどをする程の炎を魔法として受けても、物理的な炎と同等の酷いやけどにはならない。


 つまり、魔力は現実を書き換え得るが、その干渉力が大変弱い。

 それを強くするために現代の魔法使いが使うのが、魔法陣と“魔法の種類”だ。


 とある天才の発明である、魔法陣の理屈は簡単だ。

 魔力が形を作る事で現実に干渉するなら、魔力が現実に()()()()()()形に整えてしまえばいい。

 これなら上手くいけば精神力が魔法の発動に至らない人間でも魔法を扱えるようになるし、何より完全に魔力を制御できれば精神がない物でも魔法を扱える。コロコロ君の魔法陣はその最たる物だろう。あれは精霊核の方が自身の体を制御していたので、無機物が魔法を使っているという事になる。一応生贄として大精霊が入っていたが、あくまでも魔力源の確保のためである。


 そして神話の信徒よりも大幅に未熟な魔法使いに必要な要素はもう一つ。それが魔法の細分化である。

 現代の魔法は魔術や神聖術、召喚術などかなりの種類に細分化されている。これは何も、魔法使いのそれぞれに専門性を持たせて、研究をしやすくするなんて人間の都合寄りのシステムではない。

 もっと純粋に人間にとって性質上必要だったからこそ作られた区分なのだ。


 人の持つ魔力は無数の種類がある。

 人によって炎や氷の属性と反応しやすいとか、他者や自分に向けやすいとかそういう話だ。これは、完全に同一の性質を持っている人間は存在しないと言われる程に種類が多い。


 つまり人間一人一人の魔力には異なった適性があり、それによって発動する魔法に大きな差が出来てしまうのだ。

 それをなんとかしようと先人が考えたのが、魔法の細分化。もっとそのものズバリに言い換えれば“魔法陣の外円”だ。


 魔法の種類で大きく異なる部分は、魔法陣の外側の円に書き込まれた文章の内容だ。これを魔法陣の外円と言う。

 魔法陣を形作った魔力は外円からの影響を最も強く受け、その際に自分の性質を変化させてしまう。これを使ってある程度、どんな魔法にも人間の魔力を適応させているのだ。

 その仕組みを卑近な例えで言えば、発電所(人間)から送られてくる生の電気(魔力)を直接テレビや空調(魔法陣)に注げないので、変圧器を噛ませることに近い。


 つまり魔法の種類とは、元々は様々な人があらゆる魔法を使うために作られた仕組みなのである。

 そのため実は、魔術師が神聖術を使う……なんて事も理論上は可能だ。人間ならば。


 ただし、私達学院生は違う。

 この体は肉体ではなく魔法体。つまり魔力の塊なのである。外円を使わずとも魔力の性質はある程度コントロールできる。というより、されている。

 現代人は魔法を満足に扱えないため、こうして少しでもブーストを掛けて魔法の種類を制限し、逆に精度や威力を増幅しているのだ。


 ……そう言えば、器械でも魔法が扱えるのになぜ現代人はこれほどまでに魔法が苦手なのだろうか。魔法体という特殊な状況の学院生や教員しか魔法使いを見た事がないので、研究に関係ないと言えば関係ない話だが。


 まぁ、とにかくそういった理由で私達学院生は、自分の専攻学科以外の魔法を扱えない。体に入れられている魔力が、その魔法の種類専門にされているからだ。

 転科する際には魔力の総入れ替えを行う必要があるので、今まで積んできた経験が真っ白になる。分かりやすく言えばレベルのリセットが必要なのだ。


 で、ここからが本題。

 私とロザリーは、闇の神本人に会って直接この体に“闇の神の魔力”を注がれた。つまり現在、私の体の中には二種類の魔力が混ざっている事になる。


 しかし、あれから呪術の発動がおぼつかなくなったという事も無ければ、他の種類の魔法が使えるようになったわけでもないのだ。


 これは一体どういうことなのだろうか。



 ちょっと今後の展開に悩んでいます。下書きを書いては消しを繰り返しているので、もしかすると更新しない日もあるかもしれません。ご理解いただけますと幸いです。

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