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第149話 真実の神話

 本話は本日二話更新の後半になります。

 ブックマークから最新話へ飛んだ方は、前話、第148話からお読みください。

 光の神と闇の神が、どこから来たのか。どうやって生まれたのか。そんな事は彼ら自身にも分からないそうだ。


 彼らが存在する前、世界には元々何もなかったらしい。いや、もっと正確に言えば“何でもあった”が、それは“何もない”と同じ事と言えた。

 そこに彼我を分かつ“境界”は存在せず、自己と他者は同一のものとして認識され、世界は一つの“個”であったのだと言う。


 しかし、そこに光の神と闇の神がやって来た。もしくは生まれた。

 そこでようやく世界は“境界線”を認識したのだ。


 光と闇、正と負、生と死……あらゆる概念が彼らによって分かたれ、そして誕生した。

 大きな混沌からはあらゆるものが生み出され、そして徐々に秩序が形成されていった。もちろん人間も魔物も、原型はこの時に生み出されたと言っていい。


 ……私の知る限り、そんな神話は記録されていない。そもそも現世に残っている神話のほとんどは“光の神の武勇伝”である。闇の神を倒す前に何々をして良い事をした、敬虔な信徒を導いた……そんな話ばかりだ。


 言われてみれば創世について書かれた資料を読んだ記憶がない。

 現在では悪者としてしか扱われていない、闇の神が光の神と共に世界を作り上げたと言うのだから、失われてもある程度当然の事なのかもしれないな。


「しかし、それでは駄目だったのだ。この世は二分してはいけなかった」

「……どうしてですか?」

「今の人間に分かりやすく言えば、人間には男しか居なかった、魔物には女しか居なかった。人間は良い事しかしなかった、魔物は悪い事しかしなかった。人間は永遠に生きた、魔物は永遠に死んだ。……正と負がそれぞれ逆の事が出来なくなってしまった。私達が生んだ秩序は、混沌から、あらゆるものから自由を奪った」


 彼女は私の髪を撫でながら、乾いた声で言葉を続ける。


 だから、殺し合う事にしたのだと。


 光の神と闇の神はそれぞれ、この状況を良く思ってはいなかった。こんな秩序ならば混沌の方がマシだったと、お互いに深く後悔していた。

 だからこそ、闇の神は混沌へと戻そうと“お互いに死ぬ”事を提案し、光の神は“お互いに進歩する”事を提案した。

 闇の神は『私達が居なければ以前に戻る』という確かな過去を求め、光の神は『私達は前に進めるはずだ』とより良い未来を望んだのだ。


 話し合いはどこまでも平行線だったが、そもそも長くは続かなかった。

 何せ闇の神の目標は光の神を殺してしまえば、後は自分が死ぬだけで達成される。対して、光の神の解決案はお互いに真剣に話し合う事が大前提である。その事に気付いてしまえば、後はもう実行に移すだけだ。


 そうしてこの世で初めての、神々の戦争が始まった。


 しかし彼女が言っていた通り、それはただでは終らなかった。

 詳しい理屈は人間である私には全く理解が及ばない。彼女の言葉を借りれば、お互いに死ぬには存在が“大き過ぎた”らしい。


 結局光の神はどれだけ小さな存在になっても、“生きる”という属性を手放せず、闇の神もまた“死んでいる”ので死ぬことができない。

 物理的に存在する事も出来なくなった彼女は、霊体よりも儚い存在である情報体にまで体を小さくされて、その時に気付いたらしい。


 同じく体が小さくなってしまった、光の神と自分の身体が混ざり合ってしまっている事に。


「あれは、混沌とはまた別だ。言ってみれば“裏と表”。切り離す事はできないが、確かに境目がある。そういう関係だ」

「……つまり、光の神も闇の神も現世に存在する……?」

「ある程度はな。ただし、そうだとも言い切れん。私がこんな所に居るのにも関係がある話だ」


 疑似的に“一つ”になってしまった二柱の神は、自分達と同じ様に中途半端に混ざり合ってしまった世界を見て喜び、そして失望したのだと言う。


「聞くが、殺人を厭わない悪人と話し合いを望む善人を同じ部屋に放り込んで、どちらか片方が出て来る時、どっちの確率が高いと思う?」

「悪人でしょう?」

「それだ。均一に混ざり合っているように見えるが、“生きて死ぬ”ようになった生き物が、善悪均等に存在するというのが良くなかった」


 次第に悪人が優勢になっていく世界を見て、光の神は生まれて初めて“怒った”のだと言う。

 怒りや悲しみとは無縁だったはずの彼は、闇の神と交じり合った事ですべての感情を得た。それは彼女も同じだったのだが……。


「怒る正義と、楽しむ悪ってのはこの世で一番(たち)が悪い。お互いにそう思いつつも、慣れない感情が制御できなくなっていた」


 だから、もう直接戦えもしない状態であるにも関わらず、神は再び殺し合った。

 お互いの信徒を殺し合わせると言う、あまりに見当違いな方法で。本来実力は全く同じはずだったのだが、なぜか信徒は光の神の側の方が圧倒的に強かったらしい。


 これこそが現世で伝わっている“神話”だ。多少ねじ曲がってしまってはいるし、前提となる条件がいくつも抜け落ちてはいるのだが、確かにある程度は私の知っている神話通りの話である。

 ただ、光の神の武勇伝はどうやら後世の創作らしい。他の精霊なんかと話が混じっているのだとか。


 その結果闇の神は敗れ、現在の学院がある島に追い込まれてしまった。

 そしてその後“世界”からも追い出された。結果としてあの島に次元の扉が作られ、その先に“魔法世界”なんていうトンデモ世界が生み出されたのだと言う。


 これが後の万象の記録庫となったわけだ。


「……なら、あの剣王の手記に書かれた闇の神の崇拝というのは、完全に魔法世界での話なんですか?」

「いいや、現世でもそんな話はあった。物質としての私の体は、自我はなくともあちらの世界にも多少は残っていたからな。こうして話している私は情報体の一部が、自分の記録に吸い寄せられて集まっただけ。つまり、こうして話している方が歴史から見れば異常なのだ」

「……」


 ……うーん。話が難しくて理解できているか怪しいな。話が正しく神話の様で、“因果関係”が飛躍している事が多々ある。神の領域というやつか。

 ただ、これがまたとない機会である事は確かだ。


 服を徐々に脱がされている事には目を瞑り、私はメモを取りながら聞きたい事を次々に質問していく。こうして無駄に大きな胸に抱かれているのにも慣れて来た。

 下手に抵抗して機嫌を損ねられても困るからな。


「……そう言えば、闇の神と呼ばれていますが、名前はないんですか?」

「無いな。何せ名付け親が居ない。好きに呼ぶと言い。許す」

「そもそも闇だけを司る神ではないですよね? 死の神と呼ばれないのはなぜですか?」

「知らん。人間の都合ではないか? 今となっては死は誰にでも訪れるからな。避けられぬ所に私が居るのが都合が悪い……そういう人間が決めたのであろう」


 闇の神と光の神は、対であることから分かる様に二つの内のどちらか一つの属性を司っている。

 例えば、光と闇。生と死。正と負。他にも、男と女とか。後は例えば白と黒……いや、白蛇の神様だから、白と黒ではないな。


 ぼんやりそんな事を考えていると、彼女の親指が私の口の中に入れられる。突然入り込んできた異物に、私は思わず動きを止めた。……危うく噛んてしまう所だった。


「白と黒ではないぞ。有と無だ」

「……有彩色と無彩色? 肌も完全な白ではありませんが」

「まぁ、混ざった折にどちらもお互いの特徴を得てしまったからな。今はそこまで正確に分かれているわけではない。性別もな」


 ……。

 そう言えば、美醜の二つも闇の神の側が醜ではないのだろうか。見た限りかなり美しいが……あ、ああ、そうか。真偽の偽を司っているのだから、見た目など何とでもなるのか。醜い事を嘘で隠せばいいわけだから。

 となると、実は女性に見えるというのも嘘なのか? 光の神の像はあくまでも後世の創作物だから、実際にどのような姿なのかは分からないし。


 ……まぁ性別の話はとりあえず置いておくとして、そう考えるといくつか不思議に思える事もある。


「人工と自然みたいな、どちらにも属しそうにない物はどうなっているんですか?」

「人間は光の神の属性だ。……が、そもそもその二つは対ではない」

「というと?」

「人間は自然ではない、そう思うのは人間だけだ。人間が山から石を運んで家を建てるのと、鳥が小枝を集めて巣作りするのを分けて考える必要はなかろう」


 ……確かに。そうすると、すべてどちらかに決められているのだろうか。

 私は何か反例はないかと頭を悩ませるが、そんな姿を見て彼女はふっと笑う。


「ただな、どちらでもない物はある。私達は混沌がすべて秩序に落ち込む前に話し合いを始めたのだ。つまり、当時混沌だった物は区分されずに、もしくは混ざり合った時期に不安定な状態で区分されている可能性がある」


 彼女は猫の様に私を撫でる手を止めると、どこか遠い目をしながら言葉を続けた。


「……もしかすると、混沌の奥底、最後の最後に私達と同じ立場の“三人目”が居たのかもな」



 ブックマーク、評価、感想、誤字報告、そしてご愛読ありがとうございます。


***ここから本編に関係ない話***


 他の作者様のVRモノの作品を読んでいる時に驚くのは、“ネカマ禁止”や“現実とほとんど変わらない容姿”のアバターの設定です。半ばVRモノのネット小説の金字塔になっているあの作品の手鏡をリスペクトした設定だと思うのですが、自分がVRに最も望む物が“自分ではない物と重なる”事なので、身長変えられないとか容姿はそのままとか読んでるとビックリしてしまうんですよね。


 もちろん内容とは全く関係ない部分の設定なのではっきり言って何でもいい(何なら自分自身読み進めている内に忘れる)のですが、もしかして多くの人はそっちの方が現実味を感じるのか……? なんて考えたりもしてしまいます。

 実際こういったVRが実用化されたとして、身長制限とか性別制限とか付くんですかね。……もしかしてこれ単純に、ヒロインがネカマだった詐欺予防措置だったりしますか?

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― 新着の感想 ―
[一言] VRの設定としては、 作ったアバターを変えるのに課金が必要だったりそもそも不可能だったりするのに、現実に即したものでないといけないというのは違和感ありますよね。現実でダイエット禁止太るの禁止…
[一言] いつも楽しく読ませていただいています。 VRモノの体格については、高度な再現性、没入感がある世界であまり体格差があると支障があるという説明が多くて分かる気はしますね。自分の手足が10cm長く…
[良い点] 前々から思ってましたが主人公メンタル強すぎてw ゲーマーとして完璧ですね [一言] 思考コントロールの実現できたとして、見た目や性別のズレが問題になるとしたらプレイ中の排泄問題とかですかね…
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