第114話 作戦会議
見知らぬ3つ目のパーティを呼び寄せた私達は、代表者を6人、それぞれのパーティから2人を選んで作戦会議を行う流れとなった。マッチング後の準備時間は誰も準備完了をしていない状態だと永続するので、私と彼女らが完了状態を解除することで猶予を生み出している。
ちなみに逆に誰か1パーティでも完了している場合、一定時間完了をしないのは迷惑行為として認定され、そのマッチングから弾き出されるという仕様になっている。完了していたパーティは他のパーティと再びマッチングする事になる。
立候補してくれたレンカと共に代表者として推薦されてしまった私は、私達と同じ様にのこのこと話し合いの場にやって来た連中を見回す。
机も椅子もないが、一応円形に揃った私達。
レンカと私の右隣はキンだ。顔立ちには特徴がないが、動きやすそうな格好なのは確かで、右側だけ袖のない服を着ている。心臓と喉を守る様に金属装備も着けているが、これは見た目だけで特に防御力に影響が出たりはしない。靴は頑丈そうなブーツだが、なぜかややくたびれて見えた。
何と言うか全体的に、装備以外に金を注ぎ込んでいる駄目な傭兵と言った風体に見えるな。ただし顔付きは人が良さそうに映るので、どこかに寄付したり家族に送ったりしているのかもしれない。……いや勝手な想像だし、キンは話を聞いている限りそういうロールプレイはしていないとは思うが。
キンの隣に居るのは、少々変わった見た目の男。横にも縦にも大きい彼は、和風の鎧を身に着け、木板を鉄で補強した様な大きな盾を背負っている。キンのパーティメンバー、それもこうして代表者として出て来た辺り相応の実力者なのだろう。
筋肉質の男というのは学院長や狂戦士科の教員、いつかあったネオ異性愛者のセイカなど、今までにもたくさん見て来たが、彼はその中の誰とも違う風貌だ。何せ、腹が出ている。腹も顎も贅肉がこれでもかと付いており、胸囲も優に私の3、4倍はあるだろう。カップ数に至っては目算ではいくつ上になるのか分からない。
そんな彼を男だと断言した理由は、単純にひげ面だからだ。
彼は私やレンカ、そして後ろに居るパーティメンバーを見ては嬉しそうに顔をニヤつかせていた。……私の記憶の中で誰に一番似ているのかと言えば、ガラクに似ている。そういう嫌悪感を抱かせる男だ。別に臭くはないけど。
その更に隣だが、先程言い争っていた二人の内の一人が出て来ていた。制服の方で、バニー服は後ろの方で何かを仲間と話している。もちろんこちらはキンと違って初対面だし、偶々私達とマッチングしてしまっただけの不運な生徒。どの程度の実力なのかも分からない。
私はようやく見える位置に来た彼女の学科章を横目で見詰め、そして考え込む。
はて、あの学科章は何だったか。魔法学部ではないのは確かなのだが。
私も格闘学部の学科章はすべて把握しているわけではない。それも呪術科の様に抽象的なエンブレムであり、魔法戦士科の様な分かりやすい物ではなかった。
彼女ともう一人の代表は、キンを見て縮こまっている。発言には期待しない方が良いかもしれない。
キンは話し合いの場に面子が揃った事を確認すると、一歩だけ前に出る。そして軽くだが頭を下げた。
「えーまず最初に、話し合いに応じてくれて助かる。俺はキン・サワラ。今回は極めて個人的な理由で話し合いをしたいと考えた」
「む? 個人的な理由じゃと?」
「そうだぜ。理由は滅茶苦茶個人的。俺は今ランキングで28位だ。上位だが……もちろんトップじゃあない。何より、昨日の時点で出てた点数も抜けないっていう情けない有様だ。要するに俺、トップ争いから脱落気味なんだよ」
彼は腕を組み、大変心外だとばかりにそう語る。
しかし、そう言われてもというのが私の……いや、私達の感想だ。
「私達はそれ以下ですが、それで満足しないのですか?」
「バカ、こちとら元学院首席だぞ? 一時期は人間業じゃねぇだのなんだのとキャーキャー言われたからよ、この順位は正直若干不服だし、何より偉そーなコメントにガチャガチャ言われんのが我慢ならん」
「そうですか。まぁ、あなたの点数が低い理由は明白だと思いますが」
「……それなんだよな。まぁそれを何とかするためにこうして協力してくださいって頭下げに来たわけよ」
偉そうな事を言われたくないという理由で、頭を下げるというのが若干本末転倒気味なのは気になるが、話自体は把握できた。
要するに、点数を大きく稼ぐための常套手段である単独参加では上位陣に勝てないので、私達の協力を要請して複数参加で点数を出そうというのが計画なのだろう。
しかし、疑問もある。
「ふむ……そうは言うものの、単独であろうと複数であろうと取れる最高点はそう変わらぬのではないか? それとも私に補助に専念しろとでも言う積もりか?」
「まぁ、必要ならな。でも実はもっといい方法に当てがある」
「ぬふふ……何、拙者らも別に知恵を貸してもらうだけではないのでござるよ」
太った侍がキンの言葉に続いてそんなことを言い始める。どうやら彼らが何か情報を掴んでいるのは間違いないようだ。変な口調だが、男は自慢げに顎を揺らしていた。
それを見た私は隣にいるレンカを顔を見合わせる。
複数参加で点数を伸ばす方法など何かあっただろうか。私達に心当たりがない以上、未見の知識という事に間違いはない。
私達の反応を見たキンは神妙な顔で話を続けた。
「まぁ俺が上位に入れなくなった理由でもあるんだが……実は、今回のイベントにはボスが居る」
「……ボス?」
「ああ、ボスだ。群れのリーダーじゃない。まぁ俺達はたった10秒しか戦えなかったんだがな。知ってる限りを教えるから、何とかこいつを倒す方法を考えてくれ」
そうして彼が語って聞かせたのは、私達には到底知りようもなかった話だった。
何でもこの実技試験、10種類の魔物の群れがループして現れるだけの戦いではないらしい。
20回目の魔物の群れを退けた後、大きなボスがやって来るのだそうだ。今までの魔物から見ると格段に強い、大型の魔物。まるで削り切れない耐久力と得点を持ち、味方を吹き飛ばしながらゆっくりと門へと近付いて行くかなりの強敵だとか。
これを討伐する。
彼が考えていた、トップ層に行くための作戦とはこの事らしい。
ちなみに今までにこれを討伐したという情報は出回っていない。それもそのはず。今回の訓練に性能がマッチしていないとはいえ、文字通りのトッププレイヤーであるキンとそのパーティメンバーが、たった10秒しか戦えていないという事実……。
前哨戦である魔物の群れの排除に時間がかかりすぎ、まともにボスと戦えないのだ。その上ボス自体も削り切れない程の耐久値を持っている。
現在のランキング上位者は、このボス相手にどれだけのダメージが出せたかで競い合っているらしい。それだけダメージを与えた時の得点が大きいという事だ。
点数を見る限り、1位のプレイヤーでも長くて5分程度しか戦えていないのではないかというのがキンの見解だった。
しかしそれを討伐など、複数参加とは言え私達に出来るというのだろうか。
私の疑問はそこに尽きる。
「そもそも、複数参加で点数が伸びないのは、魔物の殲滅速度が単独参加の時と比べて大きく上がらないのが原因ですよね? あなた方が単独で倒せない以上、それ以下の私達が増えた所で足しにもならないと思うのですが」
「いいや、俺はそうは思わないぜ。少なくともトップの30人くらいは固定15人でやってて、事前に決めてた面子が揃うまでマッチング荒らしまくってるっぽいし、15人で上手く連携すれば効率が上がるのは確かだ」
……さらっと何だか不穏な言葉が聞こえたが、もしかして今回のイベントの上位層って、マッチング即抜けの常習犯しか入っていないのか? 流石にそれは駄目な気がするが……。
というか、そんな中で28位取ったのかこの人……上位30人じゃなかったのかよ。
複数参加の数値上のデメリットは、敵のHPの増加だ。他には特にない。そのため防衛成功率は大幅に上昇するし、何ならこちらの火力に対して増加するHPが足りていないので殲滅速度も自ずと上がる。
本来なら。
実際には前衛は狭くて火力を出し切れないし、連携もせずに範囲攻撃をバカスカ撃ちまくっても無駄弾が増える。当然人数分の火力など出せるはずもなく、複数参加は半ば防衛報酬のマラソン専用になっていた。
確かに、彼の言う通り連携を綿密に組み上げれば点数も伸びる“かもしれない”という可能性は残っている。
実際にそれでトップ争いが行われているという事は、複数参加で点数が伸ばしにくくなったとしても、ボスに与えたダメージの得点がそれほどに高いという事なのだろう。
しかし、どうだろうな。
私は集まった面子を見て、少し考え込む。
最大戦力は間違いなくキン達だ。
しかし、彼らには一つだけ重大な欠点が存在している。
それは、後衛が足りていないという事である。イベントに応じて面子を変えていないという事は、ほぼ固定で組んでいるのかもしれない。
装備を見る限り彼らの面子は前衛が3人に後衛が2人の前重視のパーティだ。特にリーダーのキンは、私が挫折した最初の学科、重戦士科に所属している。
何らかの方法で攻撃力を補っているのかもしれないが、その主な役割がタンクであるのは間違いない。それに対して今回必要とされている能力は範囲火力である。
つまり、最大戦力のパーティが今回のイベントにやや不安が残る構成なのだ。何度も言う様に、それなのにトップ争いに入っているというのは、それだけ彼らの実力が秀でているという話でしかない。
そこに実力不明の野良が1パーティと、私達……。
そんな私達がトッププレイヤー15人分の働きが出来るかと言えば、疑わしいというのが率直な感想だ。
しかし、一つだけ確かな事がある。
膨大な耐久力とやらは、私にとって最も相手にしやすい存在となり得るという事だ。
「それで、この話に乗ってくれるのか?」
「乗るか否かというより、単純に素早く敵を片付ければ自ずと敵の首領が出て来るのじゃろう? であれば問題あるまい。私はそもそもそういう方針じゃからな」
「……では、まずは魔物の群れの殲滅方法から話し合いましょうか」
また偶然マッチングでもしない限り、この面子が揃う事はない。これから決めるのはこの一戦だけの作戦になるだろう。
……チャンスは一度か。普段の試行錯誤とは少し異なるその状況に、少しだけ心躍るのも確かだ。
私達はそれから、じっくりと前人未到の作戦を煮詰めていくのだった。




