表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
105/277

第102話 お試しの防衛

 ティファニーが待ってて! とその場を飛び出してしばらく。

 私達は4人でイベントへの一度目の挑戦を行っている所だった。パーティ人数による火力の補正があるので、実は4人も5人も戦力にあまり変わりはない。使うことができる魔法の数と手数が減るので、一般的にはフルパーティが望まれるというだけだ。


 私はいつもの傘を手に、ぼんやりと戦場を見回す。

 今回の実技訓練の戦場はただの平地ではない。疎らに草の茂っているその場所には、空堀や馬防柵の様な障害物が置かれ、まるで人間同士の戦場染みた様相になっている。

 私達の背後には木製の大きな門。ここからでは見えないが、向こう側には合宿場の建物が並んでいるだろう。


 魔物はこの場所を真正面から物量で押してくるので、それをなんとかして守り切るのが今回の実技訓練だ。こういうのもタワーディフェンスと言ったりするのだろうか。

 途中、堀を越える飛行系や柵を壊す魔物も出てきそうだが、ある程度魔物の進路は限定されていると言っていいだろう。見ている限り、遠距離からの範囲系が圧倒的に有利なイベントに見える。


 ……それにしても不思議だな。

 私は今までこんな戦場で戦った例がない。他の人がどうなのかは分からないが、魔法世界では珍しいパターンである事は確かだろう。何せ現地に人が居て、彼らと接触する事すら稀なのだ。

 こんな“防衛戦”なんて、一体何を想定した訓練なのだろうか。


 私がそんなことをぼんやりと考えていると、背後から警鐘の音が響く。

 どうやらこれが開始の合図らしい。一瞬前方の茂みで何かが光ったのが見え、そこから勢いよく魔物が飛び出した。一体や二体ではない。数えている間に接敵しそうな数が居る。


「来たか。とりあえず最初は好き勝手に戦うという事で良いのじゃな?」

「まだどういう展開になるのかもわかりませんから、とにかく“何でも”やりましょう」

「何度でも挑戦できますから、今回は作戦は後で決めても問題ありませんね」


 ざっくりとした自己紹介だけで話が終わった私達は、お互いの事をまだまだよく知らない。この戦いを通して理解を深め、効率的な連携やこのイベントに対する攻略法を見付ける。それがとりあえずの基本方針だ。

 私達はそう確認し合うと、魔法の詠唱を始める。ただ一人を除いて。


「何で前衛がウチだけなのよーっ!!」


 残されたオウカは一人、わんさかと出現する魔物に向かって突撃する。

 それもそのはず。この4人の中で前衛が務まるのは彼女だけなのだ。常に一対多で頑張ってもらおう。

 どんな作戦を立てたとしても、この面子である限りこの基本方針はどうしようもない。出来てもコーディリアの召喚体が盾になる程度だが、それもいつでも際限なく出来るわけではない。


 不満を叫びつつも彼女は戦場のど真ん中に躍り出ると、戦場の道が細くなっている部分で小刀を抜く。

 歩幅の狭さを感じさせない、跳ぶような独特の走法で魔物に詰め寄ると、そのまま牛の様な魔物の首を斬り裂いた。そして背後に回り込むように移動し……周囲の魔物からの反撃を避けるために、もう一度距離取る。

 やはりやや苦戦気味の様だ。


 三人の中で私の魔法が最初に組み上がる。とりあえずは昏睡からやってみようか。数の利を逆転させる常(とう)手段。足止め系は呪術師が唯一誇れるかもしれない部分だからな。

 私はすっかり周りを魔物に囲まれながらも、ちょこまかと逃げ回るオウカに向かって魔法を展開する。

 即座に発動した昏睡の風は、魔物の内の約半数を眠らせた。


 その直後に発動したコーディリアの魔法陣から白い蛾、紗雪が飛び出し、広範囲に鱗粉を含んだ風をばら撒く。巻き込まれたオウカは嫌そうだが、遠目から見るとキラキラしていて意外に綺麗だ。

 しかし、その鱗粉に触れた魔物が次々と倒れて行く。魔法視で確認すると、どうやら今の技は麻痺の効果だったようだ。……見たことなかったな。召喚体について私は詳しくはないが、育成をしたのだろうか?

 いや、今は別の事を考えるとしよう。


 私とコーディリアは戦場を眺めて、少し意外そうな顔で見詰め合う。


「……状態異常がほぼ素通りの敵がいますね」

「そのようですね。あの集団は、麻痺か昏睡のどちらかが2倍以下の耐性に設定されているようです。足止めがこれほど上手くハマる魔物、久しぶりに見た気が……」


 意外な光景を目にして驚きつつも、次は何を試そうかと思案する私達。その前であっと言う間に鎮静化してしまった戦場に、突如大きな炎の翼が煌めいた。

 それは大きく旋回するようにして戦場へと飛び込むと、オウカ諸共魔物を焼き尽くす。……まぁ彼女へのダメージ判定はないので大丈夫だと思う。

 もちろんこれは魔法だ。しかもこの挙動には覚えがある。


「はっはっは! 見たか! (わらわ)の超必殺、煉獄火炎・不死鳥は!」

「ああ、これがサクラさんが修正したと噂の……」

(わらわ)の!!」


 コーディリアの呟きを聞き逃さなかったレンカは自分の所有権を叫ぶ。元々私の物になった事実はないので、そこまで気にしなくともいい気がするが……。


 それにしても、大規模化に振っているのは知っていたが、実際にこうして見ると派手だな。詠唱も長いし消費も重いだろうけれど、この攻撃範囲は今回は頼もしそうだ。

 ただし、巻き込まれたオウカは何か恨み言を叫んでいるし、昏睡していた魔物をすべて起こしてしまった。近くにいた紗雪も、巻き込まれない様にするためかどこか慎重に行動している様に見える。


 今回は色々と試す機会だからいいとして、次以降の使いどころは要相談だな。所謂切り札となるだろう。

 それに、火炎術師は追加効果で自分に魔法攻撃力のバフを入れられるはずなので、初手よりも後出しの方が高火力になるはずだ。


 ……それでも初手に使った理由は、多分ただ単に目立ちたかったなのかもしれない。所謂目立ちたがり。見ているのは私達だけしかいないが、その中でも活躍しようと躍起になる。

 そういう思考でもなければ、そもそもあの場で乱入などしないだろうし、何より私は彼女と“似たやつ”を良く知っている。


 炎に巻き込まれつつも無事だったオウカは、起き上がった魔物相手に奮戦している。よく見れば、手にした小刀だけではなく魔法も使っているのが見えた。

 使っているのは遠目から見る限り、火の玉や氷の刃だ。何とも()()()感じの一撃離脱と牽制を繰り返していた。敏捷性が高いとは言え囲まれると不味いのは間違いないので、慎重に戦っているのだろう。


 方向性がやや異なるので一概には言えないが、リサに比べても遜色(そんしょく)のない動きに見える。まず間違いなくロザリーよりは強いだろう。あの中を回復もなしに動き回っているのだから驚きだ。

 戦い方はティファニーに近い物があるが、彼女に比べると近距離に特化した立ち回りが多い。牽制には魔法を使っているので、中距離はやや苦手の様だ。

 今一撃離脱しているのは回復支援もない中で囲まれないためであり、普段はインファイトを継続して嫌な位置に張り付く様な戦い方をするのかも。


 そんな観察をしている間に、次の魔法の詠唱が終わる。

 昏睡や麻痺は通ったが、混乱や恐怖、そして暗闇のコンボや、毒と呪いも試したい。石化は範囲化が出来ないのでこういった戦いには向かないか。こうなると封印も広範囲化して持って来るべきだったな……。


 一先ずオウカの支援に現在適切そうなのは恐怖だ。混乱は乱戦で強いとは言え、逆に動きが読みにくくなってしまう可能性があるので後回し。これだけ数が居れば、戦闘に消極的になるという少し地味な効果でも十分に通用する。

 私は詠唱の終了と同時に、恐怖の魔法を発動する。しかし、恐怖状態の効果は目に見えるわけではない。

 効果の程を魔法視で確認すると、約7割が素通り、残りも半分程度は影響力を蓄積しており、無効化した魔物は一種類も確認できなかった。


 ……もしかするとこのイベント、状態異常素通りする魔物ばかり出てきてくれるのでは?

 私は混成の魔物集団を前にして、少し口角が吊り上がる。いや、まだ安心するには早い。こういうサービスは序盤だけという可能性は十分に考えられる。


 私達はその後もしばらくこの実技訓練を続け、ついにオウカのHPが無くなるとようやくその場を離れるのだった。



 ご感想ありがとうございました。

 例のゲームをクリアしました。感想が書きたいので初めて活動日誌書こうと思います。これから。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] そういえば裏話的なのがないから知らないけど運営からしたら呪術師は強いって判定なのかな?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ