表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
死の境界  作者: 野寺 いぶき
8/27

第8話 旅立ち

何時間寝たのだろうか。カーテンから漏れる太陽の光に起こされた俺の体は鉛のように重かった。眩しい日差しを我慢して目を擦りながら開くと、美久が俺の上で十字の形になるように寝転がっていた。


「そりゃ体が重いわっ!」


1人でツッコミを入れながら起き上がると美久も目を覚ました。服装は昨日の戦闘の時と同じ格好だった。お風呂に入っていないのだろうか、それでも美久の髪からはシャンプーのいい匂いがした。


「ふぅ〜ん」


美久は両腕を上に突き上げ、固まった体をほぐすかのように伸びた。その後大きなあくびをすると急に目をぱっちりと開いた。一連の流れを黙って見ていた俺は、目が合ってしまった。美久は伸ばしていた腕を下ろし胸元を隠した。


「あ、あんたなんで私の部屋にいるのよ?」


ここは俺の部屋だぞ!と言おうと思ったが、それよりも気になる事があった。美久の呂律が上手く回っていない…そして酒臭い。


「お前、酒飲んだのか?」

「この世界は15歳になったら飲んでいいらしいわ。って、ここ私の部屋じゃない!?」


話を聞くと、美久は昨日の打ち上げで17歳にもなるのに酒を飲んだことがないことを笑われたらしい。意地になった美久は飲んだこともない酒を凄い勢いでベロベロになるまで飲んだそうだ。

ヘトヘトで帰ってきた俺は部屋の鍵をかけ忘れたせいで美久が間違えて入ってきてしまったらしい。


「飲みすぎたせいで身体中汗だらけだわ。ちょっとシャワー借りてくわね」

「それじゃ俺も入ろっかな!」

「シャワー室に近づいてきたら容赦なく斬るわよ!」

「全く、シャイなやつだな…」


美久がシャワー室に行くと、俺は出てくる間ガイドツールを見ることにした。


「ギルド〝 ブルーロッド〟ガイドツールNo.1ギルドシステムを選んでくださりありがとうございます。ここではギルドフロアについて説明させていただきます。当ギルド〝 ブルーロッド〟は一辺約36mの正方形、高さ1階5m、2階3m、地下1階5m。約200坪になります。正面入口を入ると右手側に受付、その隣はクエストなどお知らせが貼られている掲示板になります。角を曲がると5m×10mのステージとなっています。中央はテーブルとイスが複数設置してあり、入口左手側に酒場があります。残りのスペース(入口左奥16m×16m)に書庫があります。受付の人数は計5名、日替わりです。書庫はリーズ・ベルネット様が担当されます。酒場は専属3名、アルバイト数名が日替わりになります。ステージは主に夜使われることが多いので仕事終わりに1杯、ギルドメンバーと親睦を深めながら飲むことをオススメします。2階はステージ脇の階段を上がります。主にギルドマスターの使われる部屋と会議室、応接間が設置してあります。地下も同じ階段を使います。地下は大型の転移石が設置してあります。緊急クエストが発生した時以外は特に行くことはありません。以上がギルドの現状になります。追加、変更がある場合はギルドの掲示板に貼られますのでそちらをご覧下さい。それではまたよろしくお願いします。」


(ガチャ)


ガイドツールを読み終わると同時に美久がシャワーから出てきた。


「悪いわねシャワー借りて。汗だくな状態で外歩きたくなかったからさ」

「美久…さん…その服装は…」


シャワーから出てきた美久は見覚えのある服を着ていた。手にはシャワーに入る前に着ていた服の入ったカバンを持っていた。


「あぁ、私の服汚れとったからさ、タンスに入っとったやつ借りたわよ。今度洗って返すわ」

「いえ!洗わずに返してくれて大丈夫です!」

「はいはい、新品にして返してあげるわ」


そう言うと美久は家を出ていった。美久の通った後はお湯の香りとシャンプーの入り交じったいい匂いが残っていた。


「全く自由奔放なやつだな…ん?まてよ……あいつ着替えてったということは下着付けてなかったのか?」


数秒思考が停止したあと俺は我に返った。


「うわっー!しっかり目に焼き付けておくんだった!!俺のバカ!」


せっかくのチャンスを生かせなかったと俺は頭を抱え膝から崩れ落ちた。

小さく蹲っているとドアの開く音がした。目線を上げると、そこにはヴァルハラとマスターが立っていた。


「おはよう駆琉。それよりも朝っぱらから何やっとるだ?」

「いえ、ただ絶望が体を蝕んできただけです」


俺は適当な言い訳をして立った。


「そういえばなにか御用でしたか?」

「マスターが駆琉に話があるっていうからな、ここまで来てもらったんだ。それじゃ俺の用事は済んだから。」


ヴァルハラは俺とマスターを2人残し慌てた様子で駆けていった。


「駆琉よ、朝早くからすまんな」

「いえいえ、どうぞ中に入ってください」


俺はマスターに家の中へ入ってもらった。昨晩家に着いたと同時に寝てしまった俺は、体が汚れていたのでマスターにすぐにシャワーを浴びると伝え待ってもらった。

5分ほどでシャワーを浴び終えると、飲み物を持ってマスターの待つ部屋に戻った。


「それでこんな朝早くからご要件とは?」

「昨日のキメラ討伐についてなんだがヴァルハラから気になる話を聞いたのだがな。お主、キメラに殺されかけたらしいな。毒霧で全員身動きが取れなくなったがヴァルハラは魔法を使うお主の方を見ていたらしいのじゃ。ヴァルハラが見た光景は、お主の魔法が間に合わずキメラの爪が喉元に差し掛かる所だったらしいが、次の瞬間にはキメラの体はバラバラに切り刻まれたと言っていた。あれはお主の特殊能力で間違えないか?」

「はい、そうだと思います。まだ確証は無いのですが死に直面すると発動するみたいです。発動すると周りが灰色になり、どこからともなく声が聞こえてくるんです。声の主が話終わると、死ぬ運命が生き伸びる方向へ向かうみたいです」

「そうなのか…」


俺は自分の体験を説明できる限りマスターに伝えた。

マスターは下を向き考え事をすると、1人で納得したのか、頷き顔を上げた。


「駆琉、旅に出てみる気はないか?」

「はい?」


当然の提案に返す言葉が見つからなかった。


「現時点でのお主の特殊能力は分からないことが多すぎる。それにまだパーティーメンバーがいない状態だからな…旅をしながら探すのも悪くはないと思うのだが、どうだろうか?」


俺は考えた。

現時点では俺はギルドの役には立たない。能力が発動すれば良いが、この先能力が効かない相手も出てくるかもしれない。旅に出ることによってパーティーメンバーを探しつつ自分の特殊能力について深く知ることも出来れば一石二鳥だ。1人じゃ不便なことも多いことだし、いつまでもレギアに頼るわけにもいかない。メンバーが増えれば多彩な魔法を教えてもらうことも出来るはずだ。自分に合う魔法を探して旅に出るのも良いかもしれない。それにリーズさんの勧めでゆくあてもある事だし丁度いいかもしれない。ただ、この世界に来てまだ数週間しか経っていないから分からないことも多く不安もあるが、俺は選ばれた転移者だ。なんとかなる!


「分かりました。俺、旅に出てみます」

「来てもらったばかりですまんな。パーティーメンバーを探すための費用としてお主の銀行に金貨500枚を入れておいた。これで最高のメンバーを集めてきてくれ。帰還次第お主のギルド階級も上げるつもりでおるのでそこら辺は問題ないぞ」

「いろいろありがとうございます。それと、ひとつ聞きたいことがあるのですが、マスターとして、ここには立ち寄った方がいい場所とかありますか?」

「そうじゃな…北の大国と、その近くに最近出来た街を見に行くと良いかもしれんな。北の大国はここより大きいからな、情報もたくさんはいるはずだ。その近くの街は出来たばかりだからな、ギルドに入っていない冒険者が多く居ると思われるからメンバーを集めるならそこが穴場だ」


マスターは袋から大陸の大まかな地図と回復ポーションなど便利道具をいくつか出した。


「いいか駆琉。お主はギルドの希望だ。決してお荷物などではないからな!この旅の成果しだいでは誰よりも強い男になって帰ってくる可能性を秘めておる。初めは1人で大変かもしれないがお主ならやれる。わしは期待しとるでな!」


マスターは俺に声援を送ると、席を立ち扉を開けた。


「それとお主、隣の美久には一言言っておいた方が良いと思うぞ。手違いもあるがお主と一緒に異世界に転移した仲間だからな。ヴァルハラや他のメンバーにはわしから伝えておくから安心しな。それと、旅の途中で魔王関連の情報があったらできる限り伝えてもらいたい。それじゃお主の帰りを楽しみにしとるぞ」


マスターは背を向けて片手を軽く挙げるとそのまま立ち去った。

突然の事で困惑したが、時間が経つと徐々に冷静になり状況を掴めてきた。俺は美久がメンバーとギルドに行く前に話をつけようと思い、急いで着替えると美久の家に向かった。

コンコンと扉をノックすると美久がゆっくりと扉を開いて顔を出した。


「なんか用事?私今日は休みだからのんびり寝ようかと思ってたのだけど」


俺の服を着たままの美久は疲れきった目をしていた。普段はコンタクトをしているのか、赤色の眼鏡を掛けていた。


「その眼鏡とても似合ってますよ」

「閉めるわよ?」

「あー!ちょっと待って!今のは冗談。要件は別にあるんだよ」

「は?今のは冗談?」

「間違えました。とてもお似合いです、一目惚れしそうなぐらいです…」

「あっそ。どうぞ入って」


美久の部屋は生活感のあるオシャレな部屋になっていた。ピンクを中心に、絨毯(じゅうたん)や布団など手を加えてあった。女の子らしい部屋だ。


「あんまりジロジロ見ないでよ。それで要件ってなに?」

「実は旅に出ることになったんだ」

「は?ちょっと待って」


俺はざっくり要件を伝えると美久は慌ただしそうに奥に入っていった。

数分すると暖かいコーヒーを持って出てきた。


「これ飲んでいいわよ」


話が長くなると思ったのだろうか、美久は俺の前にコップを置くとベットに座り話の続きを聞いた。

俺はマスターと話したことを美久に話すと、納得できなと声を荒らげた。


「だいたい駆琉はそれでいいの?折角ギルドに入ったのにすぐに旅に出るなんて。人手が足りないのならうちのパーティーに入ればいいのに」


美久は予想以上に親身になって話を聞いてくれた。自分の意見をこれでもかと俺に言うと、勢いよく立った。


「街に出ましょ」

「ギルドに抗議するの?」

「違うわ。行くと決めた駆琉を止める気はないわ。ただのショッピングよ」


そう言うと美久は身支度を始めた。奥の部屋に行くと数分で着替えを済ませて出てきた。


「さぁ、いくわよ」

「もう準備したのか?」

「当たり前でしょ、時間は有限なのよ」


美久は俺の手を引っ張って外に連れ出した。

俺達の世界だと今は8月の真夏だったが、この世界では少し季節が進んでいるようで肌寒くなってきた10月ぐらいと思われる。実際カレンダーなど無い為正確な日にちは分からないが、過ごしやすい気候ではあった。

美久はロングスカートにジャケットを羽織り大人びたコーデをしていた。

一緒に街中を歩くとまるでデートしている気分だった。もちろん彼女など居なかった俺にとってはこんな美女が一緒に歩いてくれるだけで気分はウハウハだった。


「出ていく時間とかあるの?」

「1日ぐらい遅くなっても問題はないよ。自分のタイミングでって言われてるから」


俺がそう答えると美久は遠慮なくあちこちの店に俺を連れ回した。服やアクセサリーなど私服が売っている所もあれば武器や防具が売られている店もあった。

美久はいくつか商品を買うと時間はあっという間に過ぎた。お昼は屋台で軽く済ませたので夕方になると美久はお腹がすいたと言って近くの酒場に入った。

流石に明日から旅に出るのでお酒は飲まなかったが、ここでしか食べれなさそうな料理を選んで注文した。商品が出るのを待っていると美久が口を開いた。


「正直ね、私はこの世界に転移して心配や不安に押しつぶされそうだったのよ。向こうの世界とは違って平和じゃないからね、だから駆琉が居てくれると1人じゃないって安心できたんだ。もちろんギルドメンバーは皆優しいけど、やっぱり生きてきた世界が違うのには変わりがないからね。そんな駆琉が旅に出ると聞いた時はショックだったわ。変態でエッチな最低野郎だけど、唯一同じ世界で生きてきた仲間だからね。だけど、私のわがままで駆琉を引き止める訳にもいかないから…………これ、持って行って」


美久はアクセサリー屋で買ったペアのペンダントを片方俺に渡した。ペンダントを受け取ると体が温かくなったように感じた。


「このペンダントはダイタムイって言うのだけど、この世界では再開や約束って意味があるらしいのよ。だから駆琉、約束してね必ず再開すると。強くなんてならなくてもいいから、優秀なメンバーを集めれなくたって大丈夫、駆琉さえ無事なら。私こう見えても結構精神弱いからさ、絶対だよ?」

「わかった。必ず俺は帰ってくる。その時は一緒に飲もうな」

「いいわよ。特別に2人っきりで飲んであげるわ!それとそのペンダントちょっとだけど魔力上昇の補助も付いているから肌身離さず付けておいてね」


美久は泣きそうな表情になっていたが、なんとか持ち堪え笑顔を見せた。


「そんな笑顔見せられると行きにくくなるだろ」

「えへへ、それなら行かなくてもいいのよ?」

「それは……もう決めたからな…」

「まぁ、仕方ないわね。しっかり頑張ってくるのよ!」


美久は俺の背中を勢いよく叩き気合いを入れてくれた。俺達は運ばれた食事を済ませると別れて部屋に戻った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ