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死の境界  作者: 野寺 いぶき
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第4話 ブルーロッド

大きな城壁に囲まれた街〝デホラ〟門の両脇に立っている槍を持った鎧の騎士2人はヴァルハラの姿を見ると無言で門を開いた。これはいわゆる顔パスと言うものであろう。門をくぐり中に入ると街はとても賑やかだった。道のあらゆる所にお店が出ており、街ゆく人の顔は魔物に怯える様子もなく平穏な生活を送っているように見えた。


「俺らの街は賑やかだろ?中を案内をしてやりたいがまずはギルドに向かうぞ。マスターが待っているからな」


大通りから少し離れると、住宅街の様な家が並び立っている場所にでた。5分程歩くと、一際異彩を放った二階建ての大きな建物が立っていた。


「ここが、俺たちのギルドだ。さぁ、入るぞ」


3メートルほどの大扉をヴァルハラは軽々と開けて入った。


「お前ら!期待のルーキーを連れて帰ったぞ!」


「あら、ヴァルハラさんおかえりなさい」


ギルドに入ると、右側の受付に立っていた長い金髪のウェーブが目立つ綺麗な女性が迎えてくれた。戦闘とは無縁と思われるほど細身で、綺麗な肌をしていた。おっとりとした表情を浮かべる癒し系のお姉さんだ。


「お帰りになられたばかりで悪いのですが、ギルドマスターが2階で待っていますのでヴァルハラさんと御二方はあちらの階段から2階へお上がりください」


1時間ほど歩いて来た俺は、緊張と普段の運動不足がたたり疲れていたが、休む間もなくマスターのもとへ向かった。俺はヴァルハラについて行き2階へ上がろうと受付の前を通ったその時、入口から1人の男が勢いよく受付に駆け込んできた。体にフィットした鎧を着た茶髪のくせっ毛の男は、満面の笑みで受付のお姉さんに依頼書と思われる紙を見せた。


「カノンさん!俺ったら今日のクエストでジャイアントゴーレム2匹も討伐したからさ、報酬金で今夜俺と1杯行きませんか?」

「カノン…だと…」


その名前は俺がこっちの世界に来る前に愛と金を注ぎ込んだゲームの娘と同じ名前じゃないか!そういえば髪型や体格も少し似ているような…

俺は疲れも用事も忘れ、躊躇なく受付に走った。カノンさんに言い寄る男の横に割り込み、受付の机に肘をついた。


「いやいやカノンさん。こちらの男性よりも今夜は俺と1杯どうですか?その気になればこれからジャイアントゴーレム3匹殺っちゃうことも…」


俺は普段よりも低めの声で、渋い感じで口説いた。


「なんだお前新人か?悪いが今夜は俺が先約だからな、諦めて帰りな」

「すみません。御二方とも、そのようなお誘いはお伺い致しかねます。」


カノンさんはきっぱり2人の誘いを断った。いつもの事なのか、慣れた表情だった。

落ち込む2人の後ろからヴァルハラが歩いてきた。


(ボコッ!ボコッ!)


「なにやっとんじゃお前らは!レギアも帰ってきて早々、カノンをナンパするんじゃない。もう1回ジャイアントゴーレム狩りに行ってこい!カノン今夜はワシと1杯やるんだよ!」

「ヴァルハラさんまで…」


お決まりのパターンかのように受け流すカノンさん。ヴァルハラは冗談交じりに俺らの頭をグーで殴った。軽く殴られただけのはずだが、頭にはヒリヒリとした痛みが残った。レギアと言う男は何事も無かったかのように笑っていた。


「ヴァルハラさん、痛いっすよ。これもスキンシップってやつじゃないですか〜」

「お前はそう言って毎日のように受付の女を口説いとるやろ!新人が来たんだから少しは控えな!」


階段を少し登りかけていた美久は蔑むような冷たい視線を俺とレギアに向けていた。


「へぇ〜。あっちは中々かわいい新人だな」


レギアは物色するかのように手を顎に添えると、美久に軽く手を振って、報酬金を受け取りギルドを出ていった。


「駆琉も早く行くぞ」


俺はヴァルハラに連れられ2階へと上がって行った。

2階へ上り廊下を少し歩くと大きな扉が出てきた。ヴァルハラはノックをすると返事を待つことなく扉を開けた。

扉の奥に広がる部屋は想像より広かった。奥には資料が無造作に置かれた広めの机と座り心地の良さそうな大きな椅子が設置してある。両端には本の詰まった高い棚が置かれており、真ん中辺りに大きな円卓の机と幾つか椅子が置いてあった。そして、入口の両脇には鎧の騎士像が立っていた。

俺は視線を奥に向けると、そこには50代ぐらいのガタイのいい小柄の男が座っていた。幾多の戦場を生き抜いてきた証が左目の2本の爪痕から感じ取れる。ヴァルハラ同様、筋肉質な体には多くの傷が付いており大きな岩のような存在感のある人物だった。


「待たせたなマスター、こっちの嬢ちゃんが俺らの召喚した横屋美久だ。そんで、その横におるのがついでに拾ってきた松永駆琉だ」

「え?ヴァルハラさん?俺はついでなんですか??」

「あったりまえだろ!俺らが転移させたのは美久であってお前はたまたま装備無しの状態でいたで連れてきただけだわ。ただの金無し冒険者の可能性もあるからな。それもこの後の診断で分かる事だからいいんだがな」


俺とヴァルハラが無駄話をしているとマスターは重い腰を上げて歩いてきた。


「よくやったヴァルハラよ。後はわしが話すからお前はもう下がってもいいぞ」

「わかりましたマスター。下で待機してますので何かあったら呼んでください」


ギルドマスターは手に持っていた本を閉じると棚にしまう。その横の棚から水晶を取り俺たちの方に歩いてきた。


「さて、お主が我々の転移に応じてくれた者か。…うん、悪くない。それでは美久この水晶を見てくれ」


そう言うとマスターは手に持っていた四角い青色の水晶を美久の前に差し出した。

ぼんやりと光を放つ水晶は数秒経つと数字が浮かび上がってきた。どうやら基本の能力値が記されているようだ。しかし、数値だけが見えるだけで、これがなんの能力なのかはわからなかった。


「うむ、これは中々いい数値だ。さすが我々の召喚といったとこだな」


マスターは上機嫌になると、次は三角の水晶を手に取った。美久の前に水晶を出すと、青色だったのが赤に変わり光った。


「…吸収?」


美久は首を傾げて言った。


「よし、これで美久の検査は終了じゃ!」


美久の結果を見てマスターの機嫌は明らかに良くなっていた。


「すまんな美久。説明もしないで進めて、この三角の水晶はその人の持つ特殊能力を確認することが出来るんじゃ。通常は青色なんだが強い能力には水晶が赤色に反応するんだ」


転移してきた美久が強力な能力の持ち主だったからマスターは嬉しかったわけか。それにしてもマスターの喜びようは…まるで孫が出来たかのようだった。


「それだけではなくてな、吸収は…って、そういえば主の能力をまだ見ていなかったな。どうじゃ、水晶を見てみな」


俺は能力値の出る四角い方の水晶を見た。


「ふむふむ、これはまた、なかなか面白な」


マスターは軽く笑った。


「お主の数値は非常に特殊じゃ。体力は極めて少ないが、魔力量がとてつもなく多い。通常の魔法使いの100倍は優に超えとるな。これを見る限り魔法職が適任なのだがな、魔法の威力の要となるお主の知力が低い…そして何故か筋力が高数値とでたわ」

「ま、マスター、それってつまり…」

「取れる戦術は多いが、前衛向けではないな。簡潔に言うと勇者には向いていないって事だ」


ストレートに言われた俺は膝から崩れ落ち頭を抱えた。隣にいた美久も笑いを堪える表情でこちらを見ていた。


「くっそぉー!!俺の夢見てきた異世界で勇者になって、かわいいヒロイン達と送るハーレム生活がー!」


笑いを堪えていた美久は、耐えきれず声を漏らした。


「あははっ、あなたは一体何を言っているの?」

「諦めるのは早いぞ。お主にも特殊能力があるのだからな。落ち込む時ではないぞ」


そう言うとマスターは三角の水晶を俺の前に持ってきた。すると、青い三角の水晶は黒味を帯びた丸い形に変形した。


《 リテヘキシ 》


美久の時とはまるで違う雰囲気の文字が水晶の中に刻まれた。

数秒で水晶は元通りになったが、マスターは驚いた表情を隠せていなかった。


「これは…そうか、わかったわ」


なにか1人で納得したようなマスターは俺たちのとこに歩いてきた。


「2人とも、今日のとこはここで終了だ。階段を降りたらカノンに寝床の場所を聞いてゆっくり休むとよい。今後の方針が決まったら呼ぶからそれまでは自由で構わない」


そう言うとマスターは部屋の外まで見送ってくれた。


「あ〜あ、美久さんはいいなぁ〜、出世コース確定のような能力をお持ちのようで。なんなら少し俺に分けてくれてもいいんですよ?」


冗談半分で話しかけると美久は深刻な表情をしていた。


「あなたの能力…あれは一体何だったのよ?私の時とはまるで違う反応を…それもと単に能力が本人同様ひん曲がっていただけなのか…」


心に刺さる言葉を容赦なく俺に突き刺す美久と一緒に俺は下の階へ降りていった。

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