第23話 レイガス
俺達は一斉に後ろを振り向くと、そこには白いスーツを着た白髪の男が立っていた。白い手袋に眼鏡をかけている男からは、まるで執事の様な雰囲気が漂っていた。不満そうな表情を浮かべると、ため息をつきながら歩いてきた。
「はぁ〜、こんな時間にいったい何をしているんですか…」
男は面倒くさそうな顔をすると俺たちに事情を聞いてきた。これまでの経緯を話すと男はまた、ため息をついた。
「そうですか…分かりました。」
男は障壁に捕えた3人のメンバーの元に歩いた。理性を失ったメンバーは暴れているが、障壁はビクともしていなかった。言葉が通じないと分かっているのにも関わらず、男は3人のメンバーに向かって話し始めた。
「初めまして。私は魔王戦線アブルダイム北支部からやって参りましたレイガスと申します。ギルドブルームから報告を受け、調査に来たところ魔族の反応が見受けられたので拘束させて頂きました。異論はありますか?」
聞く耳を全く持たない3人は障壁の中でひたすら暴れていた。
「あの〜、魔族の反応とは…」
「あぁ、これは失礼。私の目はどうにも良いみたいでね。魔族の独特なオーラが見えるのですよ」
「それってこの3人が魔族に操られているのって事なんですか?」
もしかしたら仲間を正気に戻せるのでは無いのかと希望を持ったテンタが食い付いた。
「いえ、操られているのではなく魔族になったのです。恐らく魔族因子を埋め込まれたのでしょう」
そう言うとレイガスは女戦士の障壁を解いた。それと同時に襲いかかってきた女戦士の首を瞬時にはねた。
「あー…見てください。」
レイガスは女戦士の胸元を破ると、そこには奇妙な焼印な刻まれていた。
「これが魔族因子です。これを刻まれると自我を失い、人々を襲う魔物と化すのですよ」
「これじゃあんまりだ!消す方法とか無いんですか?」
「今はまだ方法が見つかってない。それに放置すると魔獣化するからな、現時点では確認されたらすぐに殺処分が最善手とされている」
レイガスは疲れた様子で腰をあげると、残り2人のメンバーの障壁を解き武器を構えた。いくら魔族因子を取り込まれたとはいえ、元々仲間だった3人が目の前で死んでいくのには抵抗があった。テンタは助ける希望が無くなったと分かると膝から崩れ落ち、塞ぎ込んだ。アイサは恨みのこもった目つきでレイガスを睨んでいた。俺とフーシャも初対面とはいえ、今までテンタ達と共にギルドを支えてきたメンバーが簡単に殺されるのは見るに堪えなかった。
「そんな顔をしないでください。これも大陸の意向なんですから」
レイガスは顔色一つ変えることなく自分に返り血がかからないように華麗に首をはねる。
「死体は検査の為に持って帰ります。それとスケルトンの件ですが、大陸から援軍を送る事が決まりました。この街を拠点にして殲滅する予定ですのでそれまではゆっくりとお休み下さい」
そう言い残すとレイガスは死体を再び障壁で囲み連れ帰った。
少人数とはいえ18人いたギルドメンバーはたった1日で2人になってしまった。街の住民は全員殺された。留守番していた魔法使いの姿もなかった。自分の無力さを思うと無性に腹ただしくなった。
「これは…街の人達?」
アイサがギルドの奥に積もっていた山の布を取ると、そこには息をしてない住民が無造作に積み重なっていた。
「俺達の戦いはここからだ!」
大量のスケルトンや魔王幹部からフーシャ達を守ると決心した俺は立ち上がった。
「テンタ!泣くのはまだ早いぞ!」
俺はテンタに手を差し伸べた。テンタは涙が止まらない顔を上にあげると弱音を吐く。
「もう無理よ。結局私なんて…」
「まだアイサがいるじゃないか!それに俺とフーシャも協力する」
「ギルドメンバーも守れない私なんかじゃ無理よ」
「甘ったれるのじゃないわよ!生き残ったあんたには戦うしかないのよ!」
テンタを勇気づける俺の横から、フーシャが厳しい言葉を突きつけた。
「あなたに何がわかるのよっ!私がどれだけ苦労してギルドを作ったのか…それにギルド創設時から支えてくれたあの子が今、目の前で殺されたのよ!!」
涙を流しながら悲嘆にくれるテンタ。見かねたフーシャが勢いよくビンタをした。そこには今まで見た事ないほど怒りに満ち溢れたフーシャの姿があった。
「仲間が何人殺されようとあんたのやる事は変わらないわ!あいつらが憎いのでしょ!それだったら答えは簡単よ。あなたが魔王を倒すのよ。そうすればこんな事はもう起きないわ」
「そんな簡単に言わないでよ!魔王を倒せれば誰も苦労はしないわ!!」
「私たちが付いているじゃないの」
「フーシャだって見たでしょ?魔王幹部の強さを。魔王はきっとあれの数倍は手強いはず…いくら、フーシャと駆琉が味方になってくれたとしても…」
「心配ないわ。駆琉は私より強いわ。いや、強くなるわ!今はまだ役に立たないけど、本来の力を発揮したら私とテンタでも手が付けれなくなるわ」
「フーシャさん、まだ役に立たないとは…」
「あんたは黙ってな!」
アイサは会話に入ろうとする俺を引き止めると、2人の行く末を黙って見届けると、真剣な表情をしていた。
「本当に…出来るの?」
「保証するわ。なんせ駆琉は私が惚れた男なのよ!」
「こんな男が…」
「こんな男がよ!戦闘経験も少ないし、空気読めないし、未だに自分の特殊能力も使いこなせなくて、ちょっとスケベなとこがあるけど…あれ、良いところがない…」
「いやいやフーシャさん!そこはもっと…ほら、いろいろあるじゃないですか!」
やべっ、俺まだフーシャに良いとこなにも見せれてないじゃないか…
「ふっふっふ、2人とも面白いわね…」
俺たちのやり取りを聞くと、テンタは久しぶりに笑顔を見せた。テンタの笑顔を見るとアイサも緊張が解けたのか、柔らかい表情になった。
全員で魔王軍に立ち向かうと決心した所で、明日の作戦会議が行われた。
「現状、街には誰も居ないからここを拠点にするのはベストだけど、街が壊れるのは出来るだけ防がないとな」
「いや、逆の発想で行きましょ。街には誰もいないから、わざとスケルトンを街中におびき寄せて一気に駆逐するのよ」
「それじゃ、街がボロボロになってしまうけど大丈夫なのか?」
「もう大丈夫よ。この街の住民は誰一人残っていないからね。皆の無念を晴らすためにも街ごと敵を滅ぼすのよ」
「そうなると、店に置いてある武器とか回収しておいた方が良いのじゃないか?」
「そうわね、あれだけ沢山の剣があればお金にも困らなくなるわね」
「私もさっきの戦闘で何本か剣が使えなくなったから補充したいわ」
「それなら私も武具の新調を…」
「それいい案だな!これから皆で武具を新調して明日に備えるとするか!」
目的が決まった俺たちは夜の街にでた。人が居ない為、夜の静けさがより一層の増している。俺たちは片っ端から店の武具を見て周り、剣などは全部テンタのスキルで異空間に貯蔵した。
「それにしてもそのスキルは何本でも入るのか?」
「どうなんだろうね、私も限界までやった事ないから分からないや」
「取り出す時は大丈夫なのか?」
「五感と脳が感じ取った最善手の剣が出てくるよ。今まで取り出した剣に不満を感じたこともないからね」
最後の店を見終わると、俺とアイサの武具はピカピカの綺麗なものになった。フーシャは特に欲しいものが無かったようで、魔法石をいくつかバックにしまった。テンタは全ての店の剣を余すことなく収納出来たようで、とても満足した様子だった。
明日の準備が出来た俺達は、睡眠を取るために順番に見張りをしながら朝を迎えた。