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死の境界  作者: 野寺 いぶき
22/27

第22話 ラッキー○○○

ーーーー洞窟の中ーーーー

フーシャとテンタにベルドネットを任せた俺はアイサと一緒に洞窟の中を進んだ。一体ここを通るのは何回目だろうか、今回は魔法使いが居ない為明かりを灯す魔法が無いのだが、感と経験で何とか進むことが出来ていた。俺の前を歩いていたアイサは、一定の距離を進むと足を止めて敵感知と気配遮断の魔法を使ってくれていた。


「もう少しで扉に着くか?」

「そうね、後4分の1ってとこかな」


真っ暗で周りが全く見えない俺は、岩壁を頼りに歩いていく。この状態だと道の真ん中を歩いていても、左右の岩壁の位置が左右対称で無いことから道が真っ直ぐではない事に気付いた。明るい中歩いていると気付かないものだが、こんな感覚も大事にしたいと思った。俺は左右の岩壁を交互に掴みながら進む。


ムニュ…ムニュ…


「ん?ここの岩なんか柔らかいぞ…」

「…あんたどこ触ってるのよ」

「この感触は…」


暗闇で集中していた俺の感覚は研ぎ澄まされていた。もちろんアイサや周りの音は聞こえることなく、自分の世界に入っていた。


「ちょっ、あんたいい加減に…」

「この岩、柔らかい上に動くぞ。少し弾力があって…ん?これって…」


パチンッ!


静かな洞窟内に音が響いた。それと同時に俺の頬に衝撃と痛みが走った。


「これは…叩かれたのか?」

「もう、最低…こんな時に何やってるのよ!」

「す、すまん!まさかあれがアイサのだったとは…」

「弾力が少しで悪かったわね!もう…先いくわよ!」

「ごめんって!集中していて、つい解析してしまったんだ…待ってくれよ」


暗闇の中、無作為に走った俺は出張っている石に躓いた。勢いを抑えきれず豪快に転んだ俺は幸いにも無傷だったが、顔にはなにやら柔らかい感触が…


「胸の次は尻ですか…はぁ、もういいです。貴方がこんな人だったとは…」

「違うんだ!これは不可抗力で…」

「不可抗力で胸を揉んで尻に顔をうずめたんですか?信じれないですね…!?まさか、この状況も貴方の狙い通り…」

「やめてくれー!!俺にロリ属性はないのだー!!」

「ろ、ロリですって!?何ですか、その独特な言葉は?でも、ちょっとかっこいいですね…」

「え…?」

「決めました!私はこれから[ロリ忍者]アイサという二つ名で行くわ!」

「それはちょっと…」

「異論は認めないわ!さぁ、はやく奥に進むわよ」


なにやら話が変な方向に進んでしまったが、アイサの機嫌は明らかに良くなっていた。罪悪感を覚えつつも、早く先に進まないといけないと思った俺は立ち上がった。

俺は安易に考え過ぎていた。俺は普段の生活の中でも立ち上がる時は何かを支えにして腰をあげる。例えば椅子から立つ時は、背もたれに手をつけて楽に立ち上がろうとする。要はどこかに体重を逃がして簡単に立とうとするのだ。

そして俺は、今回立ち上がる時に体重を逃がす対象にアイサを選んでしまった。素直に地面に手をついて立てばいいのに、汚れるからなどと俺の悪魔の部分が囁いた。その結果、俺はアイサのズボンを下ろすことになった。何故そうなったかって?答えは簡単だ。何も見えていなかった。

俺はアイサの肩に手をかけて立つつもりだったが、触れた部分は腰だった。既に体重を掛けてしまっていた俺は回避することが出来ず、「立てるならどこでもいいや」と骨盤に体重掛けてしまった。勿論、黙っているわけのないアイサは驚いて体を捻るがそれが決め手になった。ずるずると滑っていく俺の手はアイサのスボンに差し掛かり、ポケットに手が引っかかるとそのままズボンを下ろしてしまったのだ。


「……ちょっとお前、自分が何してるのか分かってるのか!?」


折角機嫌が良くなったアイサの表情は、見えないがだいたい想像出来る。声のトーンから察しても怒りが頂点に近い事が分かる。


「ち、違うんだ!これも不可抗力で…」

「300回ぐらい死ね!」


俺はアイサにコテンパンに殴られそうになった瞬間、


ゴゴゴーン


洞窟内が大きく揺れた。崩れはしないが、石や埃が洞窟内に舞った。


「外は激しそうだな…」


俺は冷静に話題を切り替えた。


「中ではエロガキが本性を顕にしとるけどね!」


ムスッとした声でアイサは答えた。しかし、外の状況からすると、この洞窟がいつ潰れてもおかしくない。俺はアイサに土下座をしてこの場を収めようとすると、アイサはすでに奥へ進んでいた。アイサも状況の激化が不味いと思ったのだろう。急いで追いかけると光が溢れ出ている扉に着いた。


「この奥にあいつがいるんだよな…」

「しっ!なにか来るわよ」


体勢を低くしたアイサは扉の隅に隠れた。俺も一緒に隠れると、呻き声のようなものが聞こえてきた。耳を澄ますと、のそのそとした大量の足音も聞こえる。


「な、なによこれ」

「なにか見えたのか?」

「さっきまで敵の反応がない部屋だったのに、次々と反応が出始めた…」


俺は扉からひょっこりと中の様子を伺うと、広場の隅の扉から大量のスケルトンが出てきた。次々と出てくるスケルトンはあっという間に広場を埋めつくした。


「100…200は居るのじゃないか?」

「それだけじゃないわ、まだまだあの部屋から反応が増えている…一先ず逃げるわよ!」

「交戦しないのか?」

「10体程度ならなんてことないけど、規模が大きすぎるわ。それにロードやキャスターが出てきたら手に負えなくなる。今は報告が優先よ」


俺とアイサは来た道を走って引き戻した。帰りはアイサが光る玉を手に持っていた為、辺りが少し視認できスムーズに進めた。


「なんで最初から使わなかったんだ?」

「敵に見つかったらどうするのよ?」

「アイサには敵感知が使えるだろ」

「えぇ、使えるわよ。自分で言うのもあれだけど結構高位のレベルでね」

「じゃあなんで…」

「見つけ出せなかったのよ!あの魔王幹部もその妹も!」

「そんな…アイサでも見つけれないなんて…」

「きっと風の結界でも使っていたのよ。それも高位のやつね…」


「…………ってか、なんか徐々に寒くなってきてないか?」

「あんたも感じる?どうやら外から冷気が入ってきてるみたいね」


「………これは、雪か?」

「今は秋よ。さすがに早すぎるわ」


洞窟の外に出ると、俺達は目を疑った。30分程度洞窟に入っていただけで外には雪が積もっていた。


「この世界には季節を変える魔法でもあるのか?」

「そんなのあるわけないでしょ!!」

「もしかして天体魔法?」

「そんな最高位の魔法がこんな所で使われるとは思えないわ。ってか禁忌魔法だから使える者も限られているし」


いくら否定してもこの状況は変わらない。外は雪がちらついている。しかし、外で戦っている3人の姿は見当たらなかった。2人を探そうと俺は足を踏み出した瞬間、凍てつくような冷たい風が襲ってきた。


「寒いーー!!」


洞窟に入る前は暑さの残る秋だったはず。昼間は少し暑いので軽装だった俺にこの冷たさは拷問といっても過言ではなかった。

俺は思わず声を荒らげると、視線の先に巨大な氷のゴーレムがそびえ立っていた。10mはあるだろうか、巨大なゴーレムの肩に微かに見えるのは、体が青色に変色したベルドネットの姿だった。ゴーレムは重そうな拳を振り下ろすと先程の風がまた襲ってきた。


「これは不味いわね、すぐに二人のもとに行きましょ」

「無事に辿りつければ良いのだけど…」

「このままここに居ても氷漬けになるだけよ!」


俺とアイサはゴーレムが拳を振り下ろした場所に向かって走った。ゴーレムが拳を振り下ろす度に襲ってくる風を木に隠れながらやり過ごすと、荒れた大地が出てきた。


「こんな場所あったっけ?」

「それよりも、進むにつれて寒さが増してないか?」


森の中に突如とした出てきた荒地。真冬と変わらない寒さ。明らかに異常事態だ。俺は両手を擦りながら震えていると、ゴーレムが光った目をこちらに向けた。


「やばっ、見つかったか?」


大地……否、大気が凍っている。酸素などの気体を凍らせて居るのだろうか、何も無い空間にウニのような周りがトゲトゲの氷の塊が次々と発生した。

氷の塊は徐々に俺の方に向かってくる。身構えた瞬間、フーシャとテンタが合流した。


「駆琉!洞窟の中はどうだった?」

「それよりも、あの氷の塊はなんなんだ?」

「あれぐらい大した事ないわ」


フーシャは適当に杖を振ると、氷の塊は次々と溶けていった。2人と合流した事により、ゴーレムがこちらに近付いてきた。1歩進む事に気温が1度下がるような感覚がする。


「2人共…そんな格好で寒くないのか?」


急な気温の変化で震えながら、立つのがやっとの俺とアイサとは裏腹に、へそ出し短パンの防具で戦うテンタと、寒さをしのげるとは思えない薄いローブを着ていたフーシャは寒さを感じていないのか、震えることなく立っていた。


「大丈夫よ。今私が温めてあげるわ」


フーシャは俺とアイサに向かって補助の魔法を使った。体の周りに赤いオーラが発生すると、寒さを一切感じなくなった。


…え、何この魔法便利すぎじゃん!すぐに覚えたい!

と心の底から思った俺は、寒さで冷えきった体をストレッチして解した。


「よーしっ!これで戦えるぞ!」


意気込んだ俺の前にゴーレムが立ちはだかった。


「あなた達が出てきたってことは、妹を倒したってことかしら?」

「否!逃げてきました!!」


俺は恥じることも無く堂々と逃げた宣言を言い放った。


「そうなのね…」


ゲルドネットが倒されてないと知ると、ベルドネットの体は元の肌色に戻り、ゴーレムは溶けるように崩れていった。


「それじゃ、貴方達との戯れはここで終了よ。楽しませてもらったお礼にいい事を教えてあげるわ」

「私達が無抵抗に逃がすとでも?」

「そうね…スケルトンの侵略を見事阻止出来たらまた遊んであげるわ。妹はこれからスケルトンの軍勢を指揮して大陸を蹂躙するわ。せいぜい頑張るといいわ」

「待て!」


テンタがベルドネットに斬り掛かるが、本体は既にここにいなかったようだ。真っ二つに切れたベルドネットの体は氷になっていた。


「2人のことは黙っておいてあげるわ」


風のように消えたベルドネットは最後に一言言い残して消えていった。


「逃げられたか!…そういえばスケルトンの軍勢ってなんの事だ?」

「そうよ!スケルトン!!さっき洞窟の中から大量のスケルトンが現れたのよ」

「何匹ぐらい居たの?」

「300弱…いや、あのまま増え続けたら今は2000程になっているかもしれない」

「そうか…一先ず洞窟の様子を見に行こう」


降っていた雪はいつの間にか止んでいた。フーシャの魔法で寒さを感じ無くなっていたが、次第に温かさが感じるようになった。4人は洞窟の様子を見に行くと、入口に変化は見られなかった。


「この奥にスケルトンが居るのか?」


俺達は耳を澄ますと微かに呻き声が聞こえる。洞窟の広さを考えると4000体程になると溢れ出てくるのか、どの道4人では手に余ると結論づけたテンタは洞窟の入口を崩した。中に影響を及ばさないように慎重に崩すと、その外側を木で囲みスケルトンが出てこれないようにした。大陸にこの事を連絡すると4人はギルドに戻った。


「とりあえず大陸から指示が来るまでは休憩しましょ。みんな疲れていると思うし、仲間がほとんど…」


テンタは怒りを隠しきれていなかった。先の戦闘で仲間の死体もちりじりになってしまい供養する事も出来ない。


「マスターはなにも悪くないですよ。魔王幹部も撤退まで追いやったじゃないですか!」

「撤退ね…見逃してくれたの方が正しいかもね…」

「それでも魔王幹部を相手に生きて帰れたのですから!」


アイサはマスターを励ますと、俺達は重い雰囲気のまま街に到着した。


………異変はすぐに感じ取れた。

街の人気が感じられない。日が暮れて夜の帳が下りているとはいえ、明かりなども一切ない。不穏な空気と共にギルドに戻ると、そこには連絡の途切れていた3人のメンバーが待っていた。


「テンタ!やっと帰ってきたのね!」

「マスターお帰りなさいませ」

「今日は遅かったじゃないですか、さぁ休みましょ!」


「あなた達…誰?私の知っている3人じゃないわね」


初対面の俺とフーシャには元の3人がどんな人だったのか分からないが、様子が明らかにおかしい事だけは分かった。本物じゃないと確信したのかアイサは武器を構えている。


「いきなりどうしたんですマスター!」

「そうよテンタ!私が依頼から帰ってきたらいつも祝杯を上げてたでしょ!」


何事もないかのように事を進めようとする3人の目は赤く光っているように見えた。それに3人の後ろには大きな布を被った何かの山が見えていた。


「…街の人達は知らない?」


テンタは1回武器を下ろして話しかけた。すると、真面目そうな女戦士が急に笑いだした。


「あぁ、街の人達ね………。全員…殺しちゃった!」


次の瞬間、俺達は全員武器を構えた。薄ら赤く光る目が明らかに濃くなっていた。


「こいつら、尋常じゃないぞ。なにかに操られているのか…」

「そんなの問題じゃないわ。街人に手をかけたこいつらを生かしておく訳にはいかないわ!」

「ますたぁ…俺たちと1戦交えるですかぁ?」


3人のメンバーも武器を構えた。今にでも飛びかかりそうなその瞬間


「待った!」


俺たちの後ろから戦いを止める声と共に、3人のメンバーを四角い障壁の中に閉じ込めた。



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