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死の境界  作者: 野寺 いぶき
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第21話 ベルドネット 後編

「魔王の幹部だからってこれは駄目だろぉー!!」


メンバーを囲いジワジワと詰め寄ってくる竜巻は、地に根を張る木すら簡単に引き抜くほどの威力だ。竜巻は遥か上方10m以上伸びており、通り過ぎたあとの草原は全て剥がされ荒地と化していた。規格外の技に対処する方法が思いつかずただただ立ち尽くしていると、隣にいたフーシャが興味深そうな表情をしていた。

フーシャの視線の先にいたのはテンタだ。特殊能力で大きめの剣を一本手に持つと、両手で軽々と持ち上げ構えた。


「奥義!竜巻斬り!!」


なんて安直な名前なんだ…

しかし、技名は裏切らなかった。テンタが奥義と言い放って振り切った剣は前方の竜巻を一つ斬り裂いた。下から上に向かって振り上げられた剣は残心という形で、剣が届かない遥か上空まで衝撃が入った。竜巻は縦に真っ二つに割れ、行き場の失った風は雲散霧消した。


「やった!これで逃げ道が」

「まだ気が早いわよ」

「さて、あれをどうしようか…」


風が収まり逃げ道ができたと思ったら、何故か全員武器を構えた。俺は周りに流されるがまま剣を構えると、それは上空からやってきた。

なんと収まった風の中から大量の木々が降り注いできた。それも無造作に広範囲だ。俺は自分を守る手段がなくじたばたしていると、フーシャが動いた。

杖を天に掲げると、赤い障壁が俺達を包む。障壁に落ちてきた木々は、吸収されるかのように綺麗に消えていった。全ての落下物をやり過ごすと、竜巻では俺達に決定打を与えれないと思ったのか、ベルドネットは他の竜巻を消去した。風が落ち着くと、ベルドネットの姿が見当たらなかった。


「警戒を最大に!」

「何処へ行きやがった?」

「まさか不可視化でも出来るのか?」

「それなら魔力を辿ればわかるはず…」

「もしかして、逃げた…とか?」


俺達は行方の分からないベルドネットを必死で探す。フーシャが魔力を辿っているが、どうやら魔力ごと綺麗に消えているようだ。足音どころか、物音すらしない時間が10秒過ぎた。


「きやぁ…」


女魔法使いの消えかけた声と、何かが刺さる鈍い音が、森閑な空間に響き渡った。

声の方に視線を向けると、女魔法使いの後ろにベルドネットが立っていた。長い槍は心臓を一突き、見事に体を貫通していた。槍を引き抜くことなく意識を失った女魔法使いは、その場に崩れ落ちる。倒れ際に槍を振り払い遠くまで飛ばした。


戦況が大きく変わった。数時間前までは13人のメンバーで挑んでいた戦いは、魔王幹部が1人入るだけで4人まで削られた。


「魔王の幹部を相手に4人はちょっときつくないか?」


俺は予想を優に超える魔王幹部の実力を目の当たりにして弱腰になっていた。しかし、女性陣はそんな素振りすら見せなかった。


「私一人いれば問題ないわ。あんなやつ斬ってやる」

「私の魔法にかかれば、あれ共々葬れるから心配ないわ」

「うちだって…仲間の仇だ!やってやる!」


全く引く様子のない3人。臨戦態勢を取ると、ベルドネットの妹、ゲルドネットの姿が見当たらない。気になるが、ベルドネットを無視することは出来ない。先程の竜巻と、初めに使ったかまいたちではっきりした。あの幹部は風系統の技を使うはずだ。しかしそれが分かったことろで、あの並外れた戦闘力がどうにかなる訳では無い。


「仕方ない!やるか!」


特に作戦はないが、女性陣だけに任せる訳にはいかないと、俺は意気込んだ。


「駆流もやる気を出してくれたようね」

「それじゃ、あの幹部は私とフーシャで相手をするから、駆琉とアイサは洞窟に入っていった妹を追ってくれる?」


テンタは竜巻を斬りながらゲルドネットの行き先を把握していたみたいだ。洞窟に入ったのが本当だとすると、行先は四角い窪みがあったあの部屋に間違いないと俺は確信した。

今の俺の力では魔王の幹部を相手にすることは出来ない。フーシャとテンタならもしかしたら…と淡い希望を抱きながら俺は、アイサの手を引っ張って洞窟に向かった。ベルドネットは俺の後を追うように飛んできたが、フーシャが障壁を作って防いだ。俺を追いかけるのを諦めたベルドネットは少し怒りを覚えた表情で2人を睨んだ。


「さぁ、フーシャ。まずはあの幹部を地上に叩き落としますか!」

「それが得策ね。連携は得意じゃないけど…」


フーシャは火の魔法を唱えた。火の塊がフーシャの周りをフワフワと浮かび始めた。


[鬼火]・・・フワフワと浮かぶ火の塊は、まるで意志を持っているかのように相手を追いかけ回す。


ベルドネットに向かって飛んでいく火の塊は、ベルドネットに命中こそしなかったが、その周りを一定の間隔で浮かびベルドネットの動きを制限した。

テンタは大剣を両手で持つと、頭の上まで振りかぶるり、刀身を後ろの方に向けた。遥か上空にいるベルドネットに届くわけがないと思われた大剣の刀身は、みるみると伸びていった。伸びる大剣を何事もなく普通に持つテンタは、ベルドネットに届く長さまで伸びたところで足を踏み込み、伸びた大剣を振りかざした。相当な重さの大剣は徐々にスピードを増しベルドネットに襲いかかる。フーシャの鬼火で自由に動けないベルドネットは槍を使い受け止める。衝撃を上手く流したベルドネットの下方に流れた衝撃が直撃した。深さ3mほど削れた大地は、周りの草木を全て巻き込みさら地と化した。テンタは畳み掛けるかのように、2撃目、刀身を振りかざす。しかし、最初の大きな衝撃を受け流したベルドネットはコツを得たのか、押し負けることなく軽々と大剣を弾いた。


「中々面白い技を使うじゃないの」

「そう思うなら早くくたばってくれない?」

「面白いこと言うわね…それなら先に貴方から相手をしてあげようかしら」


テンタに向かって突進しようとするベルドネット。すかさずフーシャの鬼火が止めにかかる。魔王幹部クラスの強者なら鬼火程度振り払うのは造作でもないが、火の塊が目の前で道を塞ぐとベルドネットは急停止をする。


「ちゃんと止まるなんてお利口さんね」

「この火は…黒炎なのか?」

「あら〜、よく見抜いたわね」

「こんなどす黒いオーラを見逃すわけがないわ」


[黒炎]・・・見た目はただの赤い炎だが、黒いオーラを放つことからこの名前が付けられた。通常の炎と違う点は1だけ、消えないことだ。黒炎は全てを燃やしきるまで消えない特性を持ち、逃れるには燃え移った部位を切り落とす以外に方法が無いという禁忌と言われる魔法の1つだ。


「人間よ。禁忌魔法を使う意味を理解しているのか?」

「残念ね、禁忌は人に向かって使うと罰せられるだけであって、魔物に使う場合は問題ないわ」

「使えるということに大きな問題があると思うのだがな」

「そんなこと。……それなら見たものを全部消せば問題ないわ」

「え…それって私も入ってるの?待って!私は何も見てないわ!」

「冗談よ。貴方が他言しないことは分かっているわ。だから使ったのよ」


黒炎はベルドネットを追いかける。ベルドネットは黒炎の追尾をやり過ごしながら一つづつ消していった。かまいたちのような物理攻撃に近い技は黒炎になんの変化も与えれない。ベルドネットは自分の飛び去った後に丸い風の空間を作った。黒炎は風の空間に触れると、吸い込まれるように消えていった。次々と黒炎を消していくベルドネットに攻撃の手は収まらない。


「次は私が行くわ!」


テンタは短剣よりも一回り大きい双剣を両手に持つと、深呼吸をしてジャンプをする。1歩、また1歩、まるで空気を踏みしてるかのように空を駆けた。瞬く間にベルドネットと同じ高さまで飛び上がると、左手の剣で斬り掛かる。


「驚きだわ。この高さまで来れる人間がいるとはね」

「私はジャンプしているだけよ。正直、不安定だから空中戦はなるべく避けたいのよ!」


左右交互に剣を繰り出しながらベルドネットを追いかけると、徐々にベルドネットの高度が落ちていく。


「早く落ちなさいっ!」


ちまちました攻撃に痺れを切らしたテンタは、双剣をベルドネットに向かって投げると、特大の大剣を手に持ち、剣身の面積が広い部分でハンマーのように押し付けた。両腕で受け止めるベルドネットにフーシャが援護魔法を使った。


「後ろががら空きよ?……グラビティポイント」

「くそっ!この女また禁忌魔法を」


フーシャは大剣を受け止めているベルドネットの空間をピンポイントで10倍の重力にした。流石に抑えきれないベルドネットは物凄いスピードで一直線に地面へ叩きつけられた。


「くそっ!くそっどもが!!」


地面に落ちた瞬間立ち上がるベルドネット。どうやらダメージはほとんどないようだ。体には多少傷が見えるが、一向に隙が出来ない。


「まぁ、なんて頑丈なこと」

「あれだけやってもピンピンしてやがるな。伊達に魔王幹部やってるわけじゃないって事だな」

「お前ら………私が少し手を抜いてやったからって調子に乗りやがって…」


ベルドネットの様子がおかしい。常に不敵な笑みを浮かべていた顔は、怒り一色になっていた。

これがベルドネットの真の姿なのだろうか…体の色が徐々に青色に変化していった。気のせいか、辺りの体感温度が下がっていくように感じた。不気味だ。まだ秋だというのに呼吸をすると白い吐息が目視できた。


「これは…確実に気温が下がっているわね」

「このまま寒くなっていくと、凍死するかも知れないわ。さっさと決めるよ!」


体が青色に変化したベルドネットは動く様子がなかった。体が冷えきってはまともに戦うことが出来ない。テンタはすかさず剣を取り斬り掛かる。あさっての方向を向いていたベルドネットはテンタの剣を素手で止めにいった。


「な、なんだこれは!」


テンタは異変に気付くと、すぐに剣から手を離した。なんと剣先がベルドネットの手に触れた瞬間凍り付いた。氷は数秒で剣全体を覆い割れた。


「こいつ、明らかにやばくなったぞ…」

「はっはっは、やっぱりこの姿は気分がいいな!冒険者よ!もっと楽しませてみろよ!」


ベルドネットは大きな瞳でテンタを見つめた。これが俗に言う冷たい視線か。何も無い大気が凍り始め、テンタを襲った。

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