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死の境界  作者: 野寺 いぶき
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第2話 俺の異世界生活

「あぁ、空が青い…」


先程まで暗闇の中にいた俺は明るい景色に目が耐えきれず、薄目を開き少しづつ目を慣らしていった。


「ここは…ほんとに異世界なのか…」


明るさに慣れて開いた俺の目に映った景色は、今まで生きてきた世界と同じような空が青く澄み渡っていた。呑気に空を仰いでいる俺は、体が地面に着いていないという事に気づいた。


「慌てない、慌てない、ここは異世界だ。そうか!俺は浮遊スキルを身につけてのか!」


異世界に転移してきたんだから。という謎の自信に満ち溢れた俺は、空を泳いでみようと平泳ぎの構えをした。その瞬間、俺は真っ逆さまになり地面へと一直線に急落下していった。


「うわぁー!嘘だろ!これじゃ死んじまうぞぉ!」


澄み渡った青い空の景色は一変、標高が高いのか落ちる地面も見えない。落下速度は徐々に上がり目を開くのもやっとの状態になってきた。この世界に来たばかりの俺は魔法の使い方などもちろん知る訳もない。何もする事ができない俺は目に当たる風を腕で凌ぎ、ただ落下していった。次第に落下地点に広がる緑の草原が俺の目に映し出された。


「地面が見えてきたな…あぁ、そろそろ地面に衝突しそうだな。俺の短い異世界生活もここまでかぁ…」


そんなことを言っていると俺はある事に気づいた。落下に伴って押し付けてくる風が感じなくなったのだ。それどころか目に映し出された草原との距離が変わっていないような…


「あれっ?さっきまで確かに急降下してたけどな、これって時間が止まっているのか?」


改めて周りを見渡すと、青く澄み渡った空は灰色になり、俺の視界に入った二匹のカラスみたいな大きさの鳥達は、羽を広げた状態で止まっていた。

周りをキョロキョロ見ていると、俺の脳内に男の人の声が響いてきた。


「汝、死を直前にする者よ。今此処で能力は開花する」


訳の分からない声が聞こえたと思ったら、灰色の空は青くなり鳥達は再び動き始めた。そして、止まっていた俺ももちろん落下を再開した。


「もうだめだー!」


脳内に響いた声から助かる手がかりを掴むことは出来ず、俺は諦めて瞼を閉じた。


「あれ?思ったより衝撃が来ないぞ?」


目を閉じていたので何が起きたのかは分からなかったが、フワッと軽くバウンドする感覚だけは感じ取ることが出来た。


「俺は…助かったのか?」


再び開いた俺の目には先程と同じ青く澄み渡った空が広がっていた。今度は体も地面に着いている感覚がある。高いところから落ちたはずなのに不思議と痛い所はなかった。

安堵する俺は首を左に降った。すると目線の先に短いスカートを履いた俺と同年代位と思われる女の子が立っていた。肩にかかる程の黒髪と黒い瞳をしていた。少し鋭い目付きの彼女は最近まで見ていた女子高生と変わりがなかった。仰向けの状態で寝そべっている俺は彼女の短いスカートの中までしっかりと目に焼けつけた。


「…清楚な見た目に相反した情熱の赤…これはギャップ萌えか!」


腕を組みながら彼女のパンツの感想を口ずさんだ。


「あ、あんた!何勝手に人のパンツの中見て評価してるのよ!蹴るわよ!」


真っ赤な顔になった彼女はスカートを手で押えてこちらを睨んできた。


「しっかしあれだな、異世界とは聞いていたけど、お姉さんの見た目やその服装、まるで日本人みたいだな」

「は?私も日本人ですけど?ってかそのいつまでその体勢でいるわけ?」


彼女のパンツが見放題なベストポジションにいた俺は、しぶしぶ起き上がり草原の上に座った。


「えっーと、こっちに来たら現地の案内が居ると聞いたのですが…」

「私もそう聞いているわよ」


どうやら俺達は同じタイミングで転移してきたようだ。会話が終わり気まずい雰囲気が流れていると、1人の男性が歩いてきた。

遠目から見てもわかるほど筋肉質な男は背丈と同等な大きさの大剣を背負っていた。鎧は付けておらずタンクトップのような服を着た男の腕には魔物にやられたであろう切り傷がそこら辺に付いていた。近付くにつれて男の迫力は増し、身長も2mは超えているように見えた。


「またせたな!あんたが転移してきたという…」

「はいはーい!俺の名前は松永駆琉!先刻、玄関前に現れた美少女に世界を救って欲しいと頼まれこの世界に参上しました!以後お見知りおきを!」


話が進まない彼女との気まずい沈黙から抜け出そうと大柄の男が話す途中で俺は自己紹介を切り出した。


「…ところでお前さんはどこの誰なんだい?俺がギルドマスターから聞いてきた転移者はこっちの嬢ちゃんのような容姿って聞いていたんだがな」

「え、それってつまり…」


俺は普段使うことのない頭をフル回転させた。

このままこの大柄の男と彼女が一緒にギルドに行くと俺は何も無い草原で1人になってしまう。装備もろくにもってないやつが昼間から草原のど真ん中に立っていたらモンスターや盗賊に襲われる。もちろん武器もなけりゃ魔法も使えない俺はやられる一方。そうなると終いには……だめだ!それだけは阻止しなければ!


「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいお兄さん!俺も担当者らしき人が居ると聞いて待っていたんですが、一向に来る気配がないので…ってかもう誰も来ないかもしれないので。何でもします!なのでここで1人にしないでください!」


武器も防具も、行くあてもない俺は藁にもすがる思いで大柄の男に同行の許可を求めた。


「うーん、ちょっと待っときな」


ギルドから来たという大柄の男は俺の服装を見て察してくれたみたいだ。ポケットから緑の四角い石を取り出しそれに向かって話し始めた。


「…マスターか?今、転移してきた嬢ちゃんを迎えに行ったのだがな、そこにもう1人武器も防具もしてない男が居るのだが一緒に連れ帰っても構わんか?」


どうやらあの石がこの世界では電話の役割をしているようだ。大柄の男は俺の服装や外見をマスターに話していた。


「…わかった。それじゃ一先ず連れて帰ることにするわ」


通話が終わった大柄の男はこちらに歩いきた。


「よし!そこのお前、マスターの許可が降りたから同行を許可しよう。しかし、俺はこの嬢ちゃんの案内役だからな。どこの誰だかわからんお前さんにはあまり構ってやれんが気を悪くするなよ」

「ありがとうございます!連れて行ってもらえるだけでも有難いです!」

「ところでお前さんは誰に転移させられたのか覚えてないのか?」


俺は転移した時に出会った女の子の外見を伝えた。


「ここら辺でそんな奴は聞いたことないなぁ。まぁ、お前さんが本物の転移者かどうかはギルドに帰ればわかる事だからな!最近は自ら転移者を名乗り出て好待遇を受けようとする輩がおるでなぁ。俺達も嫌でも疑わないといけないからな」


俺が怪しいものであるという疑いはまだ晴れてないが、同行は許可して貰えた。


「でもお前さんが本当に転移者なら、うちのギルドは大喜びだろうな。それじゃとりあえずギルドに戻るとするか!俺の名前はヴァルハラだ。お前は駆琉だったな。そっちの嬢ちゃんは?」

「私は横屋美久。」

「おぉ、そうか美久だな。これからよろしくな!それじゃ出発するか。」


俺をこの世界に連れてきたあの子は現れず、何一つ分からないこの世界だが、必ずまたあの子に会えると信じ、俺はこれからどんな冒険が待っているのか期待に想像を膨らませながら1歩を踏み出した。


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