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死の境界  作者: 野寺 いぶき
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第19話 テンタの実力

「全力いくわよ!全員、後退!」


テンタの声が森に響くと、全線で交戦しているメンバーは隙を見て後方に下がる。狙った獲物は逃さないと走り出す魔獣を弓使いが足止めした瞬間、テンタは物凄いスピードで魔獣との間合いを詰めた。

俺は魔獣に注目していたせいでテンタの動きをよく見ていなかったが、大声で指示を出した時は少なくとも100mは離れていたはずだ。騎士と戦士が魔獣の攻撃の後の隙を見て離脱すると、動こうとした魔獣の足元に三本の矢が突き刺さり、一瞬ではあるが魔獣の動きが止まると、それまで視界にすら入っていなかったテンタが怯んだ魔獣の懐で剣を突き立てていた。

瞬間移動でも使ったと思ったが、魔獣の懐に入った時、僅かに確認できた残像が瞬間移動と言う行為を否定していた。これがテンタの身体能力なのか、はたまた魔法使いに掛けてもらっていた補助魔法のお陰なのか、それとも秘めた能力でもあったのか。俺はそんな事を考えていたが、答えを出す事はできなかった。何故なら答えを出す前に勝負がついたからだ。

魔獣の懐に一瞬で入ったテンタは、テンポよく間を開けることなく斬りかかった。……………刹那。俺の頭の中にはこの二文字の漢字が浮かび上がった。言葉の通り、テンタが動き始めてから、魔獣の首をはねるまで一瞬の出来事だった。

魔獣の懐に入ったテンタは、腰に差していた刀を抜いた。テンタの腰に刺さっている刀だけは部屋のショーケースの中に大事そうに飾ってあった為、ここぞと言う時まで取っておいたのだろう。鞘から抜かれた刀身は太陽の光が反射して輝く。一際豪華な刀はテンタのスピードを最大限に乗せて肩に命中すると、全く攻撃の通らなかった魔獣の肩を簡単に斬り落とす。刃先の向きを変えると、魔獣に叫ぶ暇も与えずもう一太刀。首に入ると、まるでゼリーを切ったかのようにスムーズに刀を振り切った。

俺達で勝てるのか。そんな事を思っていた俺の視界には、綺麗な放物線を描いて飛んでいく魔獣の頭が入った。


「おぉ…さすがギルドマスター」

「へぇ〜、結構やるじゃない」


俺とフーシャは物陰からテンタの戦いぶりに感心していた。若い見た目なんて関係ない。ギルドマスターであるテンタはその地位に見合う実力を見せつけた。血の付いた刀を振り払って鞘に収めると、まるで歴戦の戦士の面影が重なったように思えた。


「さぁ、これで魔獣退治は終了ね」


テンタがギルドメンバーの元に歩いていくと、全員唖然としていた。ギルドが設立されて2ヶ月、テンタの実力を生で見るのは初めてのようだった。


「ほら皆、ボッーとしてないで魔獣の回収に取り掛かるわよ!」


テンタはこの状況を予想していたのだろう。戸惑うメンバーに明るく指示を出すと、討伐した魔獣の後始末に掛かった。


「…そういえば、魔物って倒すと黒い煙になって蒸発するのじゃないのか?」


疑問に思った俺は、フーシャに尋ねると新たな事実が発覚した。黒い煙となって蒸発するのは、魔王軍によって自我を奪われ魔物化した、元々この大陸にいる生き物か、この大陸で生成、複製された魔物に限るらしい。それとは別に異世界から転移してきた魔物や魔獣、もちろん魔王やその幹部は倒しても消えることはないらしい。実際、過去に倒した魔王の幹部は消えることなく、今もどこかに幽閉されていると言われている。


「2人とも〜、もう出てきもいいよ!」


フーシャから話を聞いていると、魔獣を運ぶ準備の完了したメンバーは歩き出した。結局何もしなかった俺達は率先して運ぶのを手伝った。


「それにしても、ギルドが設立されて2ヶ月というのにあんなに綺麗な連携が取れるなんて、凄くて戦闘に加わる隙がなかったよ」

「ふふっ、ありがとね。気に入ったのならうちのギルドに加入しても良いわよ」

「いえ、そこは遠慮しておきます…」


冗談交じりにテンタと戦果を話しながら帰途についた。


「でもここまで思う存分戦えたのは、隣のフーシャが結界を張ってくれていたお陰もあるのよ」

「え、お前そんなことしてたのか?」

「私がただ見てるだけだと思った?結界を張るだけならなんの問題も無いわ。本音は戦いにも参戦したかったんだけどね。思ったよりもあさっさり決着がついたからね」

「じゃ、俺だけ何の役にも立たなかったのか…」

「そんな事ないよ!駆琉も充分…うん、良かったよ…」


フォローをしきれなかったテンタを見ながら俺は涙目になっていた。周りのメンバーも徐々に笑顔が見え出した。


「見ていろ、次はきっと役に立つからな!」

「次なんて来なくても良いんだけどね…」


大きな魔獣はロープに縛って、数人で引っ張りながら順番に休憩を取りつつ歩いた。暫くすると、街に到着した。魔獣の死体は、腐って街中に臭いが漂うといけないので街はずれの小屋に入れた。

一通りテンタの予定していた計画が終わると、メンバーは予め予約していた酒場に入り祝杯をあげた。乾杯をする時に今後の方針がテンタから伝えられる。


「みんな、今日はよく戦ってくれた。まだまだ成長は必要だが、それは今後考えよう。亡くなった仲間の調査も含め、明後日から洞窟の再再調査に向かうが、今日は勝利の余韻に浸ろう。ギルド創立後初の大掛かりな討伐作戦が終了した!今日は全てを忘れて飲むぞ!かんぱーい!!」


魔獣を倒したことにより、今回の事件が解決したと全員が思っていた。アイサと共に洞窟に向かったメンバーが一瞬で首をはねられたと報告していたが、あの斧を持った魔獣がそんな器用な事ができるとは思えない。些細な異変すら感じることなく勝利の美酒に浸っていた俺達は、この二日後の悲劇など予想出来るわけがなかった。


夜通し飲み食いすると、日が登り、大陸から派遣された部隊が魔獣の死体を回収しにきた。魔獣を大陸側に引き渡すと、メンバーは各々、後日の洞窟調査に向けて準備を進めた。魔獣に思いっきり吹き飛ばされた魔法使いは、フーシャの防護結界の効果もあり、幸い命に別状はなかったが、今回はギルドで留守番をする事になった。後で合流予定だった3人はどうやら昨日から音信不通のようだ。しかし、3人とも手練との事でテンタは心配していなかった。

一旦フーシャと一緒に宿に戻ると、これからの方針を話し合った。フーシャは幾つか意見を出したが、どうやら決定権は俺にあるようだった。俺は明日の作戦にも参加する意思を決めテンタに伝えることにした。


「そうか、そうか、2人とも参加してくれるんだね。それはとても心強い」


人数不足で悩んでいたテンタはとても喜んでいた。俺は、昨日の一件を自分のギルドに報告し、今日大陸から来た部隊に魔獣を引き渡した事、明日洞窟の再調査に向かうことも伝えた。


「赤い目をした魔獣が現れたのは本当なんじゃな?」

「間違いありません。この目で確かに見たました」

「そうか…わかった。くれぐれも慎重に行くのだぞ。もしもの事があったら我々のギルドからすぐにでも派遣を送るからな」

「ありがとうごさまいます」


俺はマスターに報告を済ませると、なんやら忙しそうだった。フーシャの話によると、先日の魔王幹部の撤退の件で一気にギルドの知名度が上がり、依頼が殺到しているのではないだろうかと言っていた。

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