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死の境界  作者: 野寺 いぶき
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第12話 バイコーン

俺は銀貨をカバンにしまうと、フーシャと地図を見ながら城内へ向かった。道中、水路や川が多く流れており迷路のような道を進むこと1時間ほどでようやく城に到着することが出来た。城の門番は俺達の首飾りを見ると門を通してくれた。城の中は言うまでもなく広く豪華だった。一流ホテルのエントランス並に豪華だ。中心の大きなシャンデリアを際立てるように小型のシャンデリアが設置してあった。昼間なのにも関わらずエントランスはとても明るくて汚れがないと言っていいほど光沢があった。

城内を見渡しているとタキシードを着た男が近づいてきた。


「駆琉様とフーシャ様でよろしかったでしょうか?お話は門番の者から聞いております。どうぞこちらへ」

「この男…出来るやつだ!」


俺達は一言も発していないのにまるで状況を分かっているかのように、脇の部屋へと案内された。


「驚かないのよ。これぐらいの国になればこれぐらいは普通よ。大体この首飾りで見分けはつくだろうし」


慣れた表情のフーシャは奥の部屋に入ると首飾りを取り男に渡した。俺も真似をして首飾りを渡すと男は部屋から出ていった。男とすれ違いで貫禄のある白髪のお爺さんが入ってきた。扉を丁寧に閉めると、フーシャの前に立ち深々と頭を下げた。


「フーシャ様ご無沙汰しております。とても美しくなられた上に異性の方までお連れしてくるとは」


まるで過去に雇われていたかのような丁寧な言葉遣いであいさつをした。


「この人、知り合いなのか?」

「紹介するわ。この爺は旧ムスプルヘイム騎士団団長のドルフよ。今は引退してこの城の女王の護衛役をやっているわ」


フーシャはまるでドルフの生い立ちを知っているかのように紹介した。ドルフは俺の方を見ると深く一礼をしてフーシャに尋ねた。


「こちらの御仁にはあのことはお伝えされてますでしょうか?」

「まだ言ってないわ。心配しなくてもそのうちわかる事だから大丈夫よ」

「旦那様には?」

「それも必要ないわ」


俺には訳の分からない会話を済ませると、カバンのチェックを行うことなく国への立ち入りが許可された。ドルフと別れるとフーシャは行きたい所があると言って俺を引っ張った。俺は連れられるがまま5分程歩くと賑やかな城下を通り過ぎ、大きな墓石があるところに着いた。フーシャは墓石の前に立つと帽子を取り1分ほど目をつぶり微動だにしなかった。


「さぁ、行きましょうか」


こちらを振り向くと、フーシャは俺の手を握り城下を案内してくれた。武器屋、防具屋といったどの街にでもあるような店から、スクロールや水晶などが売っている珍しい店も紹介してくれた。


「ここに入ってみようか」


俺はある店の前を通ると、一風変わった看板が気になりフーシャを止めた。


「へぇ〜、なかなかいい趣味してるわね」


店の名前はモンスターハウス。動物関係の店と思うが窓が真っ黒で内装が見えないためそれ以外は全くわからなかった。しかし、俺はこの店に何故か惹かれてしまった。中に入ると薄暗い照明が広い店内を照らしていた。生き物が売買されている様子はなくペットの餌や装飾なども特になく、店が広く感じた。店内の装飾といえば、レジが設置してあるカウンターと変わった模様が入った紙が壁一面に張り巡らされているぐらいだ。カウンターの横には階段があり、店主らしき人が1人で座っているだけの質素な店だ。


「…なんか不気味な店だな」

「モンスターハウスはこんなもんよ?」


フーシャは模様の入った紙をじっくり見ると、壁から1枚剥がし店主の元に持って行った。


「この子試しに使っていいかしら?」

「おぉ、お姉さんお目が高いですね、こちらの子は先週入荷したばかりの新作ですよ」


店主は不敵な笑みを浮かべると階段を降りた先で試していいと言ってくれた。フーシャは俺を連れて地下へ向かう階段へ歩いた。階段を降りると相変わらず薄暗い照明が奥まで伸びていた。道の両脇には頑丈な鉄格子が幾つかあったが中には何も入っていなかった。フーシャは手に持っていた紙を鉄格子の中に落とすと紙を見つめた。数秒経つと紙から煙のようなものが上がり、次第に煙の中から人影のようなものが姿を見せた。


「あれは…骨の騎士?」


フーシャの飛ばした紙から吹き出る風が煙を消散させると、黒い光沢を帯びた鎧の騎士が姿を見せた。右手には刃こぼれが目立つ真っ黒の剣、左手にはなんの柄もない真っ黒の盾、2m程ある大柄な体格、頭には2本の角が生えたヘルムを被っていた。極めつけは全身が骨だった。顔から手の先、足の先まで肉や皮は一切なくただただ骨がむき出しの状態で立っていた。


「これは死霊術か何かなのか?」

「違うわ、これは召喚術と言うのよ。この紙に刻まれた霊魂に魔力を注ぐことで霊魂に応じた魔物を召喚することが出来るわ」


骨の騎士は少し経つと黒い煙と共に消えた。満足した表情を見せるフーシャは鉄格子の扉を開き、召喚に使った紙を拾って階段を上がり、店主の元に紙を返した。


「これは中々使えそうわね。とりあえずもう少し見せてもらうわね」

「どうぞごゆっくりお過ごしください」


フーシャは他の張り紙を興味津々で見始めた。一連の流れを見たが分からない事が多かった俺は召喚術についてフーシャに訪ねた。予定もなく時間に余裕があったのでフーシャは丁寧に召喚術について教えてくれた。

先程の骨の騎士が召喚されるときに使った紙は、サモンペーパーと言われる商品で一般的にはサンペと呼ばれている。サンペには魔物の霊魂が封じられており、魔力を注ぐことにより召喚され従わせる事が出来る。召喚時に魔力を注いだものを主と判断し、その後も一定の魔力を注ぎ続ける事で現界し続け攻撃や援護など命令を与えることが出来る。先程のフーシャのように召喚時にだけ魔力を注いで放置すると数秒で消える。眷属を召喚する事が出来るとても優秀な魔法具なのだが、致命的な弱点が2つある。1つ目は召喚、現界し続けるために使う魔力が多い事だ。並大抵の冒険者となると10分程度が限界のようだ。眷属に魔力を使いすぎて自分の動きが悪くなると本末転倒なので、余程魔力に余裕がある人しか使わないそうだ。2つ目は値段が高い。先程の骨の騎士はスケルトンロードという名の魔物で上位個体といわれる部類に属し、戦闘力も高い為金貨500枚はくだらない値がする。

俺はサンペの利点と欠点を理解すると自分に合いそうな物はないかと壁を見渡した。


「う〜ん、ゴブリン…オーク…」


安価で買えるサンペは使い道があるのかと言いたいほど弱い魔物などが多かった。するとフーシャが何枚かオススメを見積もって持ってきてくれた。


アクアスライム・・・通常のスライムとは体の構成が異なり人体に無害な水でできている為、水分として非常に重宝されている。金貨3枚


ランラン・・・ランタン型の魔物。野営や洞窟など暗い場面で活躍される。灯した火は寿命が尽きるまで消えないと言われる。金貨4枚


ゴブリン(アサシン)・・・隠密性に優れているゴブリン種。索敵や護衛など活躍出来る分野は多い。金貨8枚


あやつりパペット・・・他人の動きを真似ることが得意。成長すると他人そっくりに変身することも出来る。金貨9枚


金貨数枚程度のものだと戦闘というよりは便利な個性が目立つ魔物が多かった。 戦う手段の少ない俺は戦闘に優れた魔物のサンペを探していたが、どれも金貨数十枚〜数百枚と高価なものばかりだった。でもせっかく新しい戦闘手段が増えるかもしれないチャンスだったので、手頃で使いやすそうな魔物を探していると1枚のサンペに目が止まった。


バイコーン(幼年期)・・・生後2年。金貨12枚


説明文がとてつもなく短い。それに比べて横に貼られている成長したバイコーンはびっしりと説明文が書かれており、金貨250枚もする高額商品となっている。

俺は幼年期のバイコーンとの違いをフーシャに聞いてみた。


バイコーンとは2本の角を持ち馬の姿をモチーフとした最上級個体で滅多にお目にかかれない魔物だ。純潔を司るユニコーンとは対の、不純を司ると言われ黒い見た目をしている。回復、補助に特化したユニコーンとは違い、攻撃、状態異常付着の攻撃に特化している。長い幼年期を過ごし、5年ほどで大人に成長すると真価を発揮する。凶暴な性格と多数の攻撃手段は魅了だが、寿命が短く大人になると2年ほどで力尽きるそうだ。幼年期のバイコーンは大人より一回りサイズが小さく背中に乗るのには問題ないのだが、戦闘の面では成長したバイコーンの見る影もないと言われる。多少の攻撃手段はあるみたいだがどれも威力は低く、状態異常も威力不足という理由でまともに掛からないそうだ。さらに大人になれる個体は数が少なく、大半は幼年期で寿命を迎え、運良く大人になっても数日で寿命を迎える個体もいるそうだ。人気は高いが、実際使うものは少ない。使いどころが難しい幼年期でも少し高めの価格設定をされている為購入者も少ない。しかし、俺はそんなバイコーンに何故か魅力を感じてしまい購入を決めた。フーシャも特に止める様子はなく納得した表情を浮かべていたので、俺はサンペを壁から剥がし店主の元に持っていった。


「おっちゃん!これにします!」

「またまた珍しいのを選んだな!召喚できんと困るから地下で試していいぞ」


店主に勧められると俺とフーシャは地下で召喚をすることにした。


「…それで、これはどうやって召喚するんだ?」

「私の場合は多少離れたものでも魔力で干渉すること出来るけど、駆琉にはまだ少し難しいわね…それなら、紙に封じられている霊魂に手をかぶせて手のひらに魔力を集中させれば召喚できるはずよ」


俺はサンペに描かれた模様を手で覆い、手のひらに魔力を集中させた。


「どう?どう?駆琉、召喚できそう?」


俺の背後をうろちょろするフーシャに気が取られ中々召喚が出来ない。


「うるさい!集中出来んだろっ!」

「へぇ〜、私なら秒で出来るんだけどな〜。」


ウザイ絡みを無視しながら魔力をサモペに注ぐと煙のようなもの雲がモクモクと出てきた。次第に雲の色が黒くなっていくと雷を纏った。ゴロゴロと音を出す雷雲から雷が落ちて辺り一面が眩しく光った。思わず目を閉じてしまうと、雷の落ちた先にバイコーンと思われる魔物が姿を現した。


「幼少期とはいえ、さすが最上級個体。登場の仕方がかっこいい!!」


俺の選択は間違っていなかったと再度確認出来たところで、期待の相棒に熱い視線を送った。2本の鋭い角を生やした黒い馬が俺達の前に立つ。幼年期とはいえ、全長2m程あるバイコーンは迫力があった。このまま近付いて大丈夫なのかと俺は身構えているとフーシャは俺の肩を掴んだ。


「心配しなくても大丈夫よ。バイコーンは今、召喚に使用された魔力を辿って召喚主を探しているのよ」

「急に突進して来たりしないのか?」


いつでも襲いかかってきそうな勢いのバイコーンに警戒を解くことは出来ず立ち尽くしていると、こちらに向かって歩いてきた。バイコーンは足を曲げて頭を下げると俺の目の前に突き出した。


「これは、撫でて欲しいのか?」

「手に魔力を集中させて撫でるときっと喜ぶわよ」


俺はバイコーンの頭を撫でた。その瞬間、体内の魔力がバイコーンに吸われていくのがわかった。フーシャに魔力を持っていかれた時に比べると可愛いものだ。これなら何時間でも行けるぞと思いながら俺は、召喚したバイコーンのステータスが書かれた取扱説明書みたいな紙を見ながら使用感を確認した。


「使える技は2種類か。魔眼と雷撃。かなり使える気がするような…」


魔眼・・・見つめた対象に付与されている補助魔法の効果を無効化させる。

雷撃・・・呼び寄せた雷雲から対象に向かい雷を落とす。水上に落とすと水に接している全ての対象に雷が感電する。


俺と一緒にデータを見ていたフーシャが技のさらに詳しい内容をわかり易く要約してくれた。


「このバイコーンのレベルだと、魔眼を使える相手はDランク程度(オークやゴブリンの上位種など)の魔物ね。雷撃も威力がそれほど高くないわね、木を倒すのが精一杯みたいよ」


確かに使用する魔力量に対して、バイコーンの能力値や技のレベルは低いかもしれなかった。それでもどうにか上手い使い道がないかと俺は考えているとフーシャが感心した顔を見せる。


「それにしてもほんと魔力量だけは人一倍あるわね。バイコーンは幼少期でも現界に要する魔力量が多く、魔力値の高い魔法職でも数分で魔力切れになるのに」


俺がバイコーンを召喚してから既に10分は経っていた。フーシャに言われると少し疲れているような気がしたので念の為バイコーンをサンペに戻し店主の元に戻った。


「お、兄ちゃん!バイコーンは上手く召喚できたか?」


椅子に座って暇そうに雑誌のようなものを読んでいた店主は立ち上がり興味のある目をしてこちらを見つめた。


「完璧です!運がいいことに俺の魔力量は人一倍多いので問題なく出来ました」

「まさか、その若さでバイコーンを使えるとは」


店主は少し驚いた表情を見せると、机の上に置いていたバイコーンについて書かれた雑誌を俺に渡した。俺は金貨を渡すと店主は最後にアドバイスをくれた。


「バイコーンは使い方次第で強力な味方になるから大事に扱いな。運良く成長出来れば戦闘には欠かせない大きな存在になるからな、その雑誌をよく読んで頑張って育ててくれ。あと、バイコーンの技が何回使えるのか確認をしておくことは忘れないようにな。バイコーン自体は何発でも技を使えるが召喚者が何発撃つとどれだけ魔力を消費するのか確認しておくことは後々大事になってくるからな。それじゃ、兄ちゃんの活躍を楽しみにしてるぜ」


色々と教えてくれた意外と世話焼きな店主は店の外まで見送ってくれた。いい買い物をしたと思った俺は次の行き先をフーシャに聞こうとした時、城門から城の入口まで続く一本道がすごい人だかりになっていた。

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