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死の境界  作者: 野寺 いぶき
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第10話 目的地

階段を上り教会に戻ると、観衆席の1番前に村長が祭壇を眺めるように座っていた。

フーシャが扉を開けた音に反応すると、立ち上がりこちらに歩いてきた。


「おぉ…冒険者よ。見事彼女を連れ出すことに成功したみたいですな」

「今までお世話になったわね、村長さん。厄介者が居なくなる事だし、これで晴れて村も安泰ってわけね」

「ほっほっほ。そうじゃな…あんたの噂を聞き連れ出そうと来るガラの悪い連中が来なくなるのは良い事じゃ。じゃが少し寂しくなるのぉ…たまには顔を出すのじゃぞ。それとあまり冒険者の方に迷惑をかけるんじゃないのじゃぞ」

「心配ないわ。なんせ私はもう駆琉の物なのだから」


仲が良いのか悪いのか、皮肉を言いつつも心配そうな表情を浮かべる村長を後に俺たちは教会を出た。


「スゥー………フーー。やっぱりシャバの空気は美味しいわね。それで駆琉、これから行く宛てはあるの?」

「次の目的地は北の大国にしようかと…」

「ふーん…まぁ、悪くない選択ね」

「そういえばこの集落に入る前に大陸No.って書いてある看板が立ってたけどこの集落には名前はないのか?」

「ここは集落じゃなくて村よ。それで村には基本名前はないの。大陸は大きく3つに分けていて、下から村、街、国となっていて村にギルドが出来ると街と認められ名前が貰えて、街が繁栄すると王が君臨して国となるのよ。」


俺は門の前に貼ってあったギルド募集の意味をようやく理解出来た。この村にはギルドが存在しないから名前もなく店の数や人の量も少ないのか。

フーシャの話を聞くうちに大陸のシステムが少し理解出来た。この大陸はギルドのない村は経済が発展しない。特産物や観光地を作って集客をしたところで魔物に襲われた時に村を守ってくれる存在が居ないと好き放題暴れられるからだ。大陸から兵士を派遣してくれるが来る頃には村は壊滅していることが多いそうだ。そのような危ないところにわざわざ訪れる人も住む人もいる訳がない。一方、ギルドがあり街と認められたことろは魔物の襲来があってもすぐに対応出来るため人々が安心して暮らすことが出来る。そのような所には人も集まりやすく、経済が発展しやすい。そこに王が居ると国として認められ、莫大な富を持つ王が国に足りないものを投資と言う形で補い発展させるそうだ。国民によって選ばれる王や金を積みギルド推薦で王位に着く者もいるそうだ。中には独裁者もいるそうだが、指示が的確で発展している国もあるそうで一概に否定されてはいないようだ。

話のキリが着いたところで次の目的地である北の大国に向かおうかと思ったが、フーシャを連れ出し教会の外に出たことにはすっかり日が暮れ、周りに灯りがつきはじめていた。夜間は視界が悪く魔物との戦闘も危険が伴うので、俺たちは近くの宿を探しに泊まることにした。


「ここで大丈夫か?」


数分歩いたところで俺は足を止めると、目の前には年季の入った4階建ての宿が立っていた。窓から中の様子が伺える。見た感じ1階はどうやら酒場になっているようだ。空席の目立つ酒場は、遠出で立ち寄った冒険者らしき一団が数組居るだけで賑わっているようには見えなかった。しかし、数分歩いたがここ以外目立ったお店が立っていなかった為、俺はここに入る確認をフーシャに取った。


「私は構わないわよ。丁度汗も流したかったし、食事も取れれば問題ないわ」


フーシャは笑みを浮かべると先行して扉を開けて中へ入っていった。扉が開く鈍い音を聞くと俺もフーシャの後について行った。


「マスター!大人2名1泊、1部屋でいいわ、用意して頂戴。後、食事はいつものやつね」

「え?ちょっと…1部屋なんですか?男女なんで2部屋の方が…」


今日知り合ったばかりの男女2人が1部屋に泊まることに異論を唱える俺の言葉はフーシャには届くことはなかった。それよりもこちらに気づいたマスターの大きな返事が俺の声をかき消した。


「おぉ、フーシャか!お前一緒に冒険するメンバー見つかったんだってな、村長に聞いたぞ!」

「話が早いわね。隣の彼が噂のパートナー、駆琉よ」

「それはめでたいじゃないか!お前の顔を見ることが出来なくなるのは寂しいがこれも運命なら仕方ないな。今日は俺の奢りだ!好きなだけ食べていくといい」


フーシャの顔を見るなり、テンションの上がったマスターは俺たちを席に座らせると、頼んでもいないのに大量の料理と酒を置いていった。


「さぁ、よく食べてよく飲むんだぞ。駆琉と言ったか?こんな美女と冒険なんて羨ましい限りじゃねーか!これから色々大変だと思うけどフーシャをしっかりと頼んだぞ!」


お酒の臭いが漂うマスターはフラフラ歩いていった。どうやら客にお酒と料理を出しながら自分でも飲んでいるようだった。カウンターに戻ると、近くの客とゲラゲラと笑いながら大きな声で会話をしていた。


「フーシャはここの常連なのか?」


マスターとの馴れたやり取りが気になった俺はフーシャに問いかけた。


「ずっと牢獄で過ごすのも暇なのよ。だからちょくちょく抜け出してはここに来てたわけなのよ」


マスターが持ってきた酒を迷うことなく飲み干すとフーシャは俺の元に寄り添ってきた。


「ほら駆琉…ここのお肉は絶品よ」


そう言うとフーシャは、1口サイズの肉をフォークで刺して俺の口元まで運んできた。


「いいよ、1人で食べれるから」


女性に慣れてない俺は照れながら断った。


「もぉー、赤くなって可愛んだから。今日はお姉さんに任せて。ほら食べるのよ」


頬が火照ってきたフーシャは少し酔っている様子だった。断る俺の口をこじ開けて肉を放り込んだ。


(モグモグ……ゴクッ)


な、なんだこの肉は!口の中に入ったと思ったら肉汁を出すとともにとろけていったぞ!こんなの転移前の世界でも食べたことないぞ…

あまりの美味しさに肉の入っていない口をむしゃむしゃ動かし続けて後味を堪能していた。驚いている俺を面白そうに見つめるフーシャは肉以外の料理も運んできた。俺は極上の料理と美女と酒で至福のひとときを過ごしていると、酔っ払っているフーシャはテーブルにひじをつきこれからの事について話し始めた。


「そういえば駆琉は北の大国には何をしに行くの?」

「北の大国は勉強だな。この大陸について知ることと情報集め、それにパーティーメンバー。あと1番大事なのは自分の能力を知ることだ」

「まぁ、私というものがありながら…」

「そりゃフーシャと2人っきりで旅が出来れば最高だけどさ、ギルドマスターからパーティーメンバーは4人いた方が後々便利だと言われたからさ…」


酔いが回ってきたのだろうか、赤みを帯びた頬を両手で抑え、テーブルに肘をついたフーシャは拗ねているかのように頬を膨らませこちらを見つめていた。ぎこちない動きでフォークを持つと目の前の皿に並んでいるハムのような薄くスライスされた肉に手をつけた。


「うーん!やっぱりお酒にはイノシシの肉がぴったりね。」


肉をつまみに酒を進めるフーシャは俺の言葉など右から左に聞き流して真面目には聞いていない様子だった。


「そういえば、北の大陸の近くの村にギルドが出来たのは知ってる?北の大国はギルドに所属している人が多いからパーティーメンバーを探すのは大変だけど、ギルドが出来たての街なら無所属の冒険者がちらほら見えるから行ってみるのもいいかもね。それにあそこの村には剣士…戦士?見たいな輩が多いから前線に出てくれる人がいれば駆琉のパーティーには丁度いいかもね」


話しながらも食べる手を止めないフーシャはテーブルに乗っていた料理を完食した。飲み物も一滴も残すことなく綺麗に平らげると「ご馳走様」とマスターに伝え、俺の肩を借りて2階へ向かった。


「…そういえば、俺達って泊まる部屋1つしか借りてなかったような…」

「いいの、いいの!気にしない!私は駆琉と一緒に居たいのよ!」


酔っている状態なので本気かどうか分からないが、それでもドキドキしている俺に酒のニオイをぷんぷんと漂わせた体を預けてきた。飲みすぎたのか歩くこともままならないフーシャを支えながら俺は部屋に向かった。

酒の匂いに混じりながら感じるフーシャのいい香りと、一歩歩く度に腕に当たるかどうか瀬戸際の胸と格闘していると部屋の前に着いた。

部屋の扉を開けて中に入ると、フーシャは急に何事も無かったかのように歩き出した。先程までフラフラだった足取りはまるで嘘だったかのようにスムーズだった。5歩ぐらい前に進むとこちらに振り返った。笑みを浮かべるとフーシャは、衝撃の事実を暴露した。


「ここの宿はね、1回部屋に入ると精算するまで外に出れないんだ」


はめられた…フーシャは俺と2人きりでこの部屋に入る為にわざと酔ったふりをして俺の肩を借りながら歩いたのだ。この先の生活を考えると無駄遣いは避けたい上に、1回の宿の料金を知る余地もない俺はうかつに外に出ることが出来なかった。


「ふふっ、諦めるのね。っていうかこんな美女と一緒に寝れるのだから本来はもっと喜ぶべき所なのよ?」

「いくらフーシャがナイスバディの別嬪といってもこれから一緒に旅をするわけだし、ほかにもパーティーメンバーが出来た事の時を考えたら…」

「もぅ!細かいことはその時に考えればいいの!それじゃ私、汗流したいからお風呂入ってくるわね。ちなみに覗いてもいいわよ?」

「覗きません!…たぶん」


フーシャは俺をからかうとシャワーを浴びに行った。俺はムズムズした気持ちを抑える為に、家から持ち出したガイドツールを見ながら時間を潰すことにした。

20分程経過し、ウトウトしながらガイドツールを見ていると扉の開く音が聞こえた。湯気に包まれながら火照った体を冷まそうとフーシャが出てきた。


「お、お前、なんて格好で出てくるんだ!」


異性の俺が居るのにも関わらずフーシャは、なんとバスタオル姿で出てきた。短めのバスタオルは脇から太もも辺りまでしか体を隠すことが出来ていなかった。

色気全開のフーシャの体に引き寄せられる視線を逸らすことの出来ない俺は、心の中で悪魔と天使が戦いをしていた。

このまま押し倒せと言う悪魔の囁きに対し、これから一緒に冒険する仲間には手を出すべきではないと言う天使のお告げが熱いバトルを繰り広げ、俺はチラ見を繰り返す行動をしてきた。それに気付いたは誘うかのように見せびらかしてくる、


「そんなに見たいの?なら見せてあげてもいいわよ。今日は特別だからね…ほらっ!」


俺の視線がフーシャへ釘付けになると、大胆にも両手で体に巻いているバスタオルを一気に開いた。


「ふふっ、可愛らしい顔しちゃって。どう?私の水着は?」


…なんとフーシャはバスタオルの下に水着を着ていた。この色以外ありえないというほど似合う一面真っ赤な水着は魅力的なフーシャの身体を引き立てていた。クルっと回り背中を見せると、赤い紐でクロスを描くように結んでいた。結び目を引っ張ると全部取れそうなぐらいラフな格好だ。

これは俗に言うビキニと言うやつなのだろうか…谷間が強調される少し小さめのトップと、引き締まる美尻が溢れ出そうなボトムが俺の理性を崩壊させそうだった。


「とても似合ってるけど…その格好で寝るのか?」

「私は寝る時は基本何も着ないんだけどね。駆琉が文句言うと思ったから、水着を着てあげたのわよ」


フーシャは俺の表情を楽しみながらニヤニヤと嬉しそうな笑顔を見せるとベッドに寝転がった。俺も汚れた体を流すために浴室に向かった。

フーシャの匂いが充満する浴室で軽く汗を流し10分程湯に浸かると体を拭いて部屋に戻った。ベットに寝そべっているフーシャは既に就寝していた。あれだけ魔力を使って、お酒を飲んだらこうなるのも仕方ない。ぐっすり寝ているフーシャの寝顔を見つめながら俺は

………………もちろん眠りにつくことなど出来なかった。



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