第1話 行先は異世界
(ピンポーン)
夏、暑さが猛威を振い始める8月上旬。扇風機を回し、ベッドの上で寝そべりながら俺はスマホゲームをやっている。今月のアルバイト代をゲームの中の推しキャラ、カノンちゃんとレイナちゃんに注ぎ込んでいたところ、インターホンの音が部屋に鳴り響いた。
高校生2年生の俺は今夏休みを満喫している。共働きの両親は仕事の為家にいない。中学生の妹と高校3年生の姉はそれぞれの部活に行っているため夕方まで帰ってこない。そうなるとこのインターホンに対応出来るのは俺しかいない。しかし、しかしだ、俺は今、愛しのカノンちゃんとレイナちゃんの育成に務めている為この場を離脱することができない。
「あ〜、カノンちゃん今月も綺麗だよ〜、レイナちゃんも水着バージョンなんて出しちゃって…諭吉さんもう1枚いきま〜す。」
画面に向かって独り言を呟きながら俺はインターホンを無視した。オートセーブのゲームなので途中で止めて玄関に行くとこも出来るのだか、夏だし、暑いし、なにより動くのがめんどくさかった。
(コンコン)
1分ぐらいだろうか俺が無視しているとドアをノックする音と共に
「ごめんくださーい」
と可愛らしい女性の声が聞こえた。
「はい!今行きまーす!」
こんな休みの日に家に来てくれるような女子が居るはずもないと分かってはいたが、声優にも負けず劣らない女性の声が聞こえた瞬間、俺は携帯の画面を切る事すら忘れ玄関へと飛び出した。
「えっーと、今日は友達と約束した覚えは無かったけどー…ってか、休みの日に遊ぶような友達自体いないけど、どちら様でしたかー?」
軽く自虐ネタを挟みながら玄関の扉を開けた俺は目を疑った。そこに居たのは澄んだ青い目した美少女だった。長い銀色の髪はこの世のものとは思えないほど綺麗で腰のあたりまで艶々だ。肌は白く、20歳にも満たない愛らしい顔つきの彼女は笑顔で立っていた。
「おはようございます松永駆琉様。貴方はたった今、私に選ばれました。詳しいことは後ほど説明しますのでご一緒して頂けますか?」
「…結婚のお誘いですか?」
無言の時間が過ぎると、彼女は無垢な笑顔で首を傾げた。
「…何のことでしょうか?」
「すみません。可愛い女の子にアプローチされたのかと思い上がりました。」
すると彼女は俺にこう囁いた。
「まぁ、貴方の頑張り次第では結婚という儀式をしてあげても構いませんが…」
「はい!喜んで!!何処へでもついて行きます!」
怪しい勧誘かもしれないのに俺はなんのためらいもなく二つ返事で飛びついてしまった。
返事と共に彼女に近付くと、足元に魔法陣のような円が展開された。
「うぉ!なんだこれは!?」
「…駆琉様、どうか私たちを救ってください…」
俺は眩い光に驚き、彼女の声を聞き取れなかった。思わず目を閉じてしまった俺は異変に気が付いた。先程まで聞こえていた車の音や鳥の鳴き声が一気に止んだ。すぐに目を開くと周りは真っ暗で何も見えなかった。
「な、なんだここは!?」
辺り一面真っ暗で何も見えない。手を伸ばしても何も無い、それどころか地面に立っている感覚すら感じられない。まるで宇宙に放り出されたかのような浮いている感覚が続いた。
「おーい!誰かいないのかー!!」
俺の発した大きな声が暗い空間に響き渡る。
「声も出せるし呼吸もできる。なんだこの空間は」
状況を頭の中で整理していたその時、脳内に声が響いた。
「…さま。…駆琉様聞こえますか?」
この声は、先程玄関前にいた少女の声だ。
「あぁ、少しぼんやりだが聞こえる。ここは一体どこなんだ?」
「説明もなくいきなりすみません。急に前に出られるとは思いもしませんでしたので…ですがここまで来たら引き返すことは出来ません。駆琉様にはこれから異世界へと転移していただきます。異世界の名称はアブルダイム。50年前人々に魔力という力が備わったこの世界は、その後数年にわたり魔物や、魔獣といった人に害を及ぼすものが現れ遂には魔王の幹部と名乗る者も現れ、今現在は日々魔王軍の生み出す魔物や魔獣を倒して日常を送る状況になっております。」
「…ということは、俺がそのアブルダイムってことに行って魔王を倒して勇者になって可愛い女の子に囲まれて日々を送るハーレムエンドを目指せってことですか!」
「はぁ…」
小さなため息が聞こえた。
「失礼しました。やることは間違ってはいません。とにかく今アブルダイムには、魔王を倒すほどの強力な戦士が存在しません。その為大陸の人々は別世界から転移させることによって魔王を倒せる存在を作ろうとしています。」
「よし!それならこの俺がすぐに魔王を倒して世界を救ってやる!もちろん異世界転移なんだから最強装備でスタート、チート持ちですよね!!」
「全く呑気な方で…人選を誤ったかしら。でも今更変更も出来ないし…」
小声で俺の悪口が聞こえたような気がした。
「多少の特典は付けてあげれますので、それを生かせるかはあなた次第です。それでは駆琉様、魔法陣の構築が完成致しましたのでこれから異世界へと転移して頂きます。あちらに着いたら案内人がいると思いますのでその方に分からないことがあれば聞いてください。」
俺の戯言を聞き流し、玄関の前にいた美少女は話を進めた。俺は美少女の顔を思い出しにやけていると、次第に足元が明るくなり辺り一面青い空になった。
「それではご武運を。また会える機会を心の底から楽しみに待っています。」