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恋が実らなかった男の話

作者: 秋野萌葱

※注意

目から涙。

とことん、男主人公が不憫。

最後救済あり。

「ねぇ、俺と結婚してよ。」

それは高校時代の同窓会で唐突に言われた言葉だった。

私には婚約者がいる。彼もそれを知っているので、私は最初、この男が何を言っているのか分からなかった。

「お断りします。だいたい結婚云々の前に、私、あんたの事一つも知らないんだけど。それに私、婚約者いるし。」

「それじゃあさ、俺とも付き合おうよ。俺の魅力がわかれば結婚する気が起きるかも知れないじゃん。」

「無理。」

「即答かよっ。」

決まってる。もちろん答えはNOだ。

好意を寄せてくれるのは嬉しいが、ほんの数回話した程度の男にいきなり結婚してくれないかと言われても、到底無理な話だ。

けれど、これだけの拒絶で彼は引き下がらないだろう。

そう考えた私は、彼にこう言った。

「じゃあ、友達ならいいよ。悩み事を打ち上げて、本音を言い合う相手ならいいよ。」

その言葉は効果バツグンだったらしく、彼はまるで、柴犬みたいに目を輝かせ喜びを表した。

「ああ!これからは俺とお前は友達だ!ついでに俺の魅力に気づいて結婚してくれたら嬉しい!。」

目をキラキラさせて、言った油断もスキもない結婚してくれと言った言葉に間髪入れず私はしっかり釘を刺した。

「友達はいいけど、結婚は嫌よ。」


〜X年後〜

白いウェールが、冬の窓から吹いてくる風に揺れる。

もう一度、自分を映す姿見に向き直り、ホウ。とため息をつくと。

「結婚間近の乙女にため息は似合わないぞ。」

不意にどころからか声か響いた、思わず声がする窓への方へ振り返ると。

「よっ!今日も美人だな。俺と結婚してくれないか?」

開け放たれた窓に、今日の私と正反対の濃紺の、スーツ姿の彼か佇んでいた。

そして、その姿を見た私はどういう心境か気がついた時には思わず彼の近くに駆け寄っていた。

「あんたと結婚はしないわよ。それよりも何でここにいるの。?」

そう問い掛けると、彼はふっとからかうような笑顔を浮かべて。

「つれないなあ、お前が招待状を送ったんじゃあないか。ちなみにここにいるのは、結婚式前で不安定だろう、お前の気持ちを落ち着かせるためさ。」

そういいながら、一歩一歩と歩みを進めて私との距離を縮めてきた。

彼にとっては本音の言葉だろうが、私にとっては無神経に聞こえる言葉に思わずムッとして、私は言い返した。

「大きなお世話よ。不安よりも高揚感のほうが大きくなっていくばかりだもの。」

緊張感に震えながらも上手く言葉を躱したつもりだったが、彼は何かに気付いたらしく、笑顔だった顔をスッと引き締め私に問い掛けた。

「嘘だ。瞳がいつもより暗い、何があったのか、話してくれないか?」

逃げ道を封じ込める言い方をされてしまい言葉に詰まった私は仕方なく話始めた。

彼はここへ迎えに来てくれるだろうか、彼は私と結婚してくれるだろうか、

彼は私を愛してくれるだろうか。

そんな胸の内に貯まったモヤモヤとした悩みを吐き出すと。

「ぷっははっ!」

何か可笑しかったのか、彼は急にお腹を抱えて笑いだした。

「なーんだ。やっぱりただのマリッジブルーだったか、そうかそうか!クククっ。」

「失礼な!これででも相当悩んたのよ。しかもまた誰にも言っていないのに。」

すると、予想外だったのか彼は私の言葉に目を丸くして嬉しそうに微笑んた。

「そうか!俺はお前のヒミツを一つ知ることができたんだな!」

ヒミツ。そう言った彼の言葉に私は酷く、くすぐったいような、耳か熱を帯びた感覚に襲われた。

「だっ、誰にも言言わないでよ。絶対に墓場まで持って行ってよ!」

照れ隠しに言った言葉はすぐに彼にバレて、彼は小さく笑いながら。

「分かった。約束しよう。」

晴れの日に似合わない約束を了承した。

すると、彼は白い手袋をはめた私の手に自分の指を絡ませて。

「ゆーびきりげんまん嘘ついたらはーり千本のーます!指切った!」

と、まるで二重に約束をするかのように、指切りをした。

しばらく話をしていると、不意にコンコンと扉がノックされ。

「お時間です。」

と外から声が響いた。

そして、側にいた彼はおもむろに私に顔を近づけると、ひそりと私にこう言った。

「今日この日が、お前にとって幸せな日でありますように。俺はお前を祝福するよ。あと、そのドレス似合ってるよ。」

そう私に言うと、彼はニコりと小さく笑み、来たときと同じように窓から部屋の外側へ出て行った。飴玉のような、甘い言葉を残して。



「うーん!やっぱり、赤ん坊は可愛いなあ。」

とある日、赤ちゃんの顔が見たいと言った彼。

私がファミレスに、ベビーカーに乗せて赤ちゃんを連れて来ると、先程から彼はずっとデレッぱなしだ。へたをすると私の夫以上にだ。

「コラコラ、デレすぎ、それよりもあんた今度お見合いするんだって?」

赤ちゃんから意識を逸らすために、彼のお見合い話に話を振ると。

「ああ、その件ならもう断った。」

「えっ?何で?」

予想外の衝撃の発言に驚き私は思わず、素で聞き返した。

「当たり前だろう。だって俺は、お前一筋なんだからさ。」

「あっそ。」

もういつもの挨拶のような応酬に飽きた私は、雑に答えを返した。すると不意にベビーカーから顔を上げた彼は真面目な顔で私に言った。

「ねぇ、俺と結婚しない?」

もう何度いったか分からない言葉だった。

挨拶のような、言葉だったはずだ。

「私、子持ちよ。」

そう言って、いつものようにつき離そうとするけれど、彼はさらに真剣な口調で一言、言葉を紡いだ。

「それでも構わないけど?」

この時、私は彼の言葉にひどく心揺さぶられた。

けれど、夫の顔がふっと頭に浮かぶと、その考えは即座に消え失せた。

「ごめん。私は夫を裏切れない。」

そう答えたあと、彼の顔を見ると、悲しいような、嬉しいような、そんな表情が一瞬浮かぶと、ふっと消えた。

「そっか、言ってくれてありがとう。長居させて悪かったな。じゃ、また会おう。」

そう言うと、私か引き止める暇もなく。彼は風のようにレシートとと、共にその場から去って行った。

これ以降彼は私に求婚することはなかった。



ピッピッ

スーッ スーッ。

人工呼吸器から、かろうじて彼女の呼吸が聞こえてくる、もう2ヶ月も彼女は目を覚まさない。

親子で川遊びに行った時、3歳になった彼女の子供が、彼女の言いつけを守らずに勝手に川に入り、溺れて、そして気づいた彼女が後先考えずに助けるために川に飛び込み、子供を助けたが。                その時力つきたのかそのまま下流まで流されて、発見された時はかろうじて息はしていたが、意識はなかった。

そして、彼女はいまも眠り続けている。

「バカだなあ。」

握った彼女の手は暖かい。まだ、彼女が生きている証拠だ。目頭から熱い雫が流れ落ちる。

一粒、二粒、止めたいのに中々流れが止まらない。

「お願いだ。どうか、目を開けてくれないか。」

もう、何粒目か分からない雫が彼女手の甲にこぼれると。

「うわっ。ヒッドイ顔。」

不意に、彼女の声が聞こえた。                    驚いて彼女の顔を見ると、ゆるゆると瞳を開き、彼女は俺の顔を見ていた。

「い、意識が戻ったのか!」

驚きのあまり俺が問いかけると、彼女は笑んで小さく首を横に振ると、こう答えた。

「ううん。多分、一時的。あんたがバカみたいに泣いているから、神様が一時的に意識を戻すのを許してくれたのだと、思う。」          

聞きたくない。その考えが脳裏浮かんだ瞬間、俺は思わず彼女に向かって声を荒げていた。

「バカな事いうな。お前の子供はまだ3歳だろ!あの子を悲しませるつもりか!?」

俺が怒ったのが気に入らなかったのか、はたまた死に近づいて行く恐怖なのか、彼女は眉根を釣り上げて反論した。

「違うっ!違うの。私だって、あの子を一人にしたくない。だけど、もうこの体が保たないことは私が一番知っている。」

彼女の死への怯え、悲しみ、そしてこの世への未練が握った手から伝わってくる。

身を切り裂く烈火のような、深い悲しみを抱える煉獄のような痛みが。

彼女はゆっくりと俺に右手を近づけてくる。

その手は何ヶ月も眠っていたせいか、少し痩せて見えた。

「なぁ、もう会うことが無いのならば、最後に答えてくれないか。」

「なあに?」

俺の悲痛な問い掛けに彼女は小さく微笑んで俺の目を見つめていた。

「次に、生まれ変わってお前に会うことができたなら。」

涙声で一言、一言、言葉を紡いでいく。

そして、あの日から絶対に口にしようとしなかった言葉を紡ぐ。

「俺と結婚してください。」

そう俺が懇願すると、彼女は呆れたような、嬉しそうな笑顔を浮かべて。

「お友達からなら。」

そう最後に口にすると、ゆっくりと目蓋を落とし、彼女が、二度と瞳を開けることはなかった。

ビーッ。ビーッ。けたたましく鳴るバイタルサインの測定器の音を何処か遠く聞きながら。

俺は、ナースコールを押す事もできず。ただ冷たくなっていく彼女の手を縋るように握りながら。どうすることもせず、俺はただ呆然としていた。











XXX年後

今日、おれはあいつにこくはくする。正直、あいつはおれになんかみむきもしないかもしれない。

おれは、しばらくウジウジとその辺を歩き回っていたが、当たってくだけろと決心し、あいつの前にとびだした。

「なぁ!おまえ!」

「なに、あんた?」

おれを見るかのじょの目はしろい。それでも、おれは意をけっして口をひらいた。

「おれと、けっこんしてくれないか!」

そう言ったおれを見るかのじょの目が、大きくみひらかれた。      そしてじょじよにおだやかになると、ゆっくりと微笑み、こう口にした。

「友だちになって、おたがいを知って、そして大きくなって、わたしとあんたが、おたがいに好きでいたらけっこんしましょう。」

その答えをきいたとき、おれは100年も200年もその答えをずっと待ち望んでいた様な気がした。

突発的に書いたお話。短編なのであえて名前は入れませんでした。

楽しんでいただけたら嬉しいです。

すべての男女に幸あれ。

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― 新着の感想 ―
[一言] たまたま流れつきましたので、読ませていただきました。 文章作法云々とか表現技法云々の話はとりあえず横に置いておきまして…… プロットは面白かったです。 あと、男性キャラのメゲない一筋な感じ…
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