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ボレロ

作者: 長光一寛




去年の末に友人二人とボレロだけをやるグループ「Bolerox」を作って以来、私の主要練習曲はボレロとなった。この快い音楽は二つのメロディーが楽器編成だけを変えながら延々と繰り返されるのだが、聞く人を最後まで飽きさせない魅力がある。私のこれからの人生のBGMとして、飽きることのない日々を送る助けとしたいと思っている。ミューズの女神たちも私を応援してくれているのか、最近次のようなことが起こった。


第1の出来事(2月29日)


高崎の観音山を会社の同僚二人と散策した。


午後、野鳥の森に入り息を凝らした鳥見に飽きて、小尾根のベンチで小休止したときのこと。


私はケーナを出してボレロを吹き始めた。まもなくそばでボレロの軽快なリズムが聞こえてきます。すでに昼寝体勢に入った桑田氏がボレロのリズムを知っているわけもなく、隣に座った刀根君が指の爪先でベンチを打ってくれているのだろうと思い、それに合わせて吹き続けました。


曲が終わると刀根君は不思議そうに、「長光さんが吹いてると、タッタカタタッとボレロのリズムがどこからともなく聞こえてましたよ」と言います。


「えっ、君がリズムをとってくれていたのじゃないの」と私も不審な気持ちになります。しかしすぐにその犯人に気づきケータイをズボンのポケットから抜き出してみます。


前夜、私はケータイの作曲ソフトを使ってボレロのリズムだけを入力し、三味線の音色でメール着メロとしてセットしたばかりだったのだ。


ケータイを開いてみると、案の定メールが入っていました。私がボレロを吹き始めて間もなく、ルイセニュールというフォルクローレバンドの仲間の三谷氏がタイミングよく私にメールを発信しており、はからずも遠隔より、しかも私の演奏に合わせるようなタイミングで伴奏に加わってくれたというわけでした。



第2の出来事(4月3日)


最近の休みの日といえば中川に出て、楽器の練習というワンパターンを繰り返していたので、金曜の夜思い立ってスキーに行くことにし、翌朝、寝坊しなかったので決行しました。新幹線での日帰りが簡単なガーラ湯沢です。


余談ながら、スキーに行くときに携行する楽器の選択肢は私の持っているもののうちでは一つしかありません。零下の気温の中でスキーグラブをはめたまま演奏でき、かつ大き過ぎない楽器は、パンフルートのフォークローレ版のサンポーニャしかありません。特にリフトに乗っている間に吹くのです。緩やかな林間コースなら滑りながらも吹けます。


そういうわけで私は春なお遠き越後湯沢の雪斜面を片手に色糸なびくサンポーニャを持って滑降し、リフトに乗ると、息切れがおさまるやピーヒャラをしました。前のリフトの人が振り返って見ます。スキー場で最も長い時間を費やすのは滑っているときでなくリフトに乗っているときです。だから私はサンポーニャでこの時間を有効に活用したのです。


しかしそれは午後のことで、午前中はCDで15・6枚分の音声情報が入っているnetwork walkmanで音楽等をイヤフォーンで聞きながらゲレンデを登り下りしていました。walkmanはshuffle modeにしているので曲順不同で次にどの曲がくるかわからず新鮮です。


さて、この中にボレロも入っていますがなんせCDで15・6枚分の中での一曲ですので、一週間に一度巡り逢えるかどうかという低い確率で登場してきます。


そして、その朝、リフトに乗っていると、ボレロが巡ってきたのです。小さな音で始まり徐々に音量が高まっていきます。この曲は15分近い長いものですので、曲が終わる頃には再びリフト乗り場まで滑り降りていました。これだけなら別にどうということはなかったのです。


その時リフトに乗りながら次にイヤフォーンから聞こえて来たのは、英会話学習用に入れていた英人のインタビューでした。しかし不思議なことにボレロがまだ微かな音で聞こえているのです。ふと前のこともあるので携帯電話が鳴っているのかとも思いましたが、着メロにはボレロのリズムが入っているだけなのに、今聞こえているのは確かにメロディー付きなのです。さてはこのwalkmanついにおかしくなって、前の曲を今の曲と重ねて鳴らすようになったかと心配になりました。


しかし今回も犯人は思わぬところにいたのです。いや賢明なる読者はもう気づかれているかもしれませんが、


リフトの支柱等にはスキー場の連絡放送用ラウドスピーカーが付いていて、通常はここから音楽が流されており、その時偶然ボレロとなったのです。これも偶然ということで忘れていいことかもしれませんが、スキー場で流される音楽は若者向けでクラシックなど私の知る限りその日もそのときだけで、あとは聞いたこともないようなニューミュージックやラップといわれている類のものばかりです。ですから、なぜ私が久しぶりにボレロを聞いたその直後に限って、ボレロだったんだろう、と・・・


終わり


2004年4月


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