第3-15話 幕引き
……まだだ。まだ“道”は繋がっている場所がある。それを見ると、その奥に何人かのマコトが見える。まだ終わってない。
《15人ね》
(ああ)
ロックオン。
次の“道”を覗く。そこにいたのは12人のマコト。狙いすます。そして、“絶対”の魔法で持って、命をそのまま持っていく。合わせて27人のマコトが死んだ。最後に残った“道”を覗く。
そこには、4人のマコトがいて。
だが、気が付けば部屋の中を煙が充満していく。頭の中に白い煙が覆っていって、意識が飛んでしまいそうになる。
《ユツキ! しっかり!!》
(……っ!!)
天使ちゃんの言葉で我に返る。微かな自意識の中で、俺は引き金を引いた。
ばっ! と、煙が急に晴れると、意識が急にクリアになった。そして、次の瞬間。全ての“道”が閉じると、消えた。
(……終わり?)
《いえ……。まだよ。よく見て》
ふと、部屋の中に穴が開くと……そこからマコトが姿を現わした。
「……誰だ。誰が、いる」
今までのようなおちゃらけた様子ではない。その目には明確な殺意。周囲を索敵しながら、“道”があった場所で敵を探し続けている。そんなところを探しても無駄だというのに。
俺は静かにマコトに向かって狙いを澄ました。
「いい加減に姿を現わしやがれッ! どこの誰だ!? 卑怯だぞ!!!」
……卑怯、ね。
《ユツキ》
(分かってる)
俺が激昂しそうになったところで天使ちゃんが抑えてくれた。そうだ。こんなところで怒ったところで何も意味はないのだ。俺の目的はマコトを殺すこと。そのために必要なのは、冷徹な精神。
俺は騒ぎ続けているマコトを、どこか冷静な目で見ながらそっと俺から伸びた“道”に触れた。
……考えてみれば、ここまで長かった。
マコトに俺の能力が奪われたことから始まったこの殺意は、ここにて終わるのだ。
「奪った物、返してもらうぞ」
俺の言葉など、届かないことなどよく知っている。だが、それでもこれだけは言っておかねばならないと思った。そして、俺は魔法を使った。それは“絶死”の魔法。命あり、この世界に生きている者であれば必ず死ぬ。それを速めるだけの魔法。
マコトの首に死神の鎌がかかり、そして速やかに引き切った。
びくり、と身体が震えて倒れ込むと窓の外にかかっていた遮蔽物が解かれる。“道”も新しく開かれる気配もない。穴が開いて、そこからマコトが現れるということもない。
俺は『延魔の腕』を使って、マコトの身体。その心臓部分を一歩も動くことなく探ると、そこに“魔核”があることに気が付いた。本物だ。このマコトは、本物だ。
俺はマコトの身体から“魔核”を引き抜く。ぬるり、と手に“魔核”が吸い付く感覚。引き抜いた先にあったのは、1つの大きな“魔核”にいくつもの“魔核”がくっついているような不思議な形をしていた。
《ユツキ。やったわね》
(……ああ)
終わったのだ。ここに、4人の“稀人”を殺すことを……成し遂げたのだ。
「行こう。天使ちゃん」
《そうね》
殺したとなれば、俺は万が一のためにアリバイを作らなければならない。窓から出ると、ロイと決めておいた場所に向かって、飛行魔法を使った。ふわり、と身体が浮き上がって王城から逃げ出す。
ちらり、と後ろを振り返る。
全ての終わりは、なんともあっけない終わりだった。
――――――――――――
「ユツキの勝利を称えて、乾杯!!」
「「「乾杯!!!」」」
わいのわいのと、多くの冒険者が騒ぐ酒場で、俺たちはジョッキをぶつけあった。
「おめでとう。ユツキ!」
「……よくやった」
「流石ですね。ユツキ君」
「…………ありがとう。ユツキ」
仲間たちから、そう言われると悪い気はしない。俺は半分照れながら、麦酒を煽った。未成年? こっちの世界じゃあ、酒を飲める年齢が違うから良いのよ。メルと先生、そしてヒナの3人は果汁を絞ったものをぐっと飲む。
よく考えたら俺たち、半分以上が子供じゃん。よくこれで酒場にこようと思ったな。
「今日はご馳走にしましょ!!」
ユノがはしゃいで、酒場にあるものを片っ端から頼んでいく。どうせ半分以上はユノの胃袋におさまるんだろうなぁ。と思うが、今日ばかりはそれもありだろう。
最初は自分の中にはなかった達成感も、ロイと待ちあわせたり、仲間たちと合流することで沸々と湧き上がってきた。
「ユツキ……。あれは、手に、入った……?」
ステラが身体を震わせて聞いてくる。
「ああ。これだ」
俺は“魔核”を机の上に置く。ごとり、と硬質な物体が木の上にのった音がする。普通の“魔核”と違ってゴツゴツしている。マコトが奪って来た能力が“魔核”として育っていっているのだろう。
……という、勝手な推測だが。
「食べる、の?」
「ま、まあ。3人分、食べたし……」
もうここまで来たら食べないという選択肢はないのだ。いや、あるかもしれないが。4人も食べれば何かがあるかも知れない。そう思ってしまう。だから、俺はナイフを使って“魔核”を半分に割った。
「こっちはヒナの分。これは俺の分だ」
半分に割ってから、俺はヒナに“魔核”を渡した。彼女も能力を奪われた被害者の1人だ。ここで“魔核”を飲むことで何かが変わるかも知れない。
「これ、は?」
「食べるんだ」
「え? でも、石……」
「ああ。でも、食べるんだ」
「美味しいの?」
「……不味い」
俺の顔があまりにもアレだったもので、ヒナの顔もしかめっ面になった。俺は長い間、“魔核”を見ていると食べるための踏ん切りがつかなくなりそうで、“魔核”を口に含んで麦酒で一気に飲み込んだ。
不味い×苦いの方程式でプラスになるかと思ったら、口の中は足し算だった。
「……うぅっ!!」
苦い。圧倒的に苦いッ! だが、飲むしかないッ!!!
ごくん、と震える喉でそれを飲み干した瞬間、
“条件を達成しました”
“以下のスキルが解放されます”
“【使役者】【鑑定】【無効化】【簒奪者】【創造魔法】”
“『分身作成』『影魔法Lv5』『空間魔法』”
そんな声が、脳に響いた。
“条件を達成したことにより、スキルの譲渡が可能になりました”
“スキルを持ち主に返還しますか? Y/N”
“Yが選択されました”
“返還するスキルを選択してください”
“以下のスキルが選択されました”
“『分身作成』『影魔法Lv5』『空間魔法』”
“スキルを返還します”
俺の中からスキルが消えて行く。その感覚がある。
……ああ。そうか。
本当に、終わったのか。