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少女と食事に関するナイトメア

飽食増殖フルコースもどき

作者: 三隅 凛

不快な表現、描写を意図的に使っている部分があります。

 空。空が広がっている。青空でないのは確かで、雲があるのも確かだ。それ以外は、よく分からない。

 そこには沢山の料理がある。飲み物も沢山ではないがある。食事をする存在も幾つか存在し、茶色の椅子に座っているのがそれらだ。食事は既に始まっていて、たとえば謔?迢ゥ弱なんかは真っ青な口周りをスープや肉片やソースでべたべたにしながら喋っている。

 目の前にはスープがある。トマトが入っていて、混ぜるととろとろと崩れていく。茶色の湯気を立てているが、匂いは全くしない。

 食事をしよう。手に銀色のフォークが握られている。

 鯛のカルパッチョとレタスが花のように盛り付けてあるサラダが、細長い皿に載っている。サラダは意外にも二口でなくなってしまった。蠕動するフォークで食べる。ナイフとスプーンはない。鯛は早く食べないと、身から目玉が増殖してしまうので(先にサラダを食べた所為で既にふたつ、小さな目玉がこちらを見ている)あんまり噛まずに飲み込む。

 大きなテーブルにはテーブルクロスが掛けられている。色は白ではない。食事を共にするのは青い謔?迢ゥ弱と、帽子を脱がない牛、小さな驤エ譛ィなんかがいる。他にもいる。さっきまで(スープを混ぜている時)は太った迪●縺ョがいたはずだけれど、今はいない。あとで現れるかもしれないし、もう現れないかもしれない。

「今日は少ない」驤エ譛ィが嬉しそうに言いながら、トマトとパンを食べている。一口がとても小さいので、トマトはともかくパンはいつまで経っても減らない。

 カルパッチョとサラダの液体が、紫色に変わっていく。丸くて大きな皿。

 紫色のソースから肉が発生する。葡萄とケチャップの匂いがする。

「牛だよ。頬肉だ。美味しいんだよ」隣のミニチュアダックスフンド(でも、手は人間だった。男の人みたいな)がにっこり微笑んでくる。「美味しいんだ。ソースも、パンと一緒に食べるといい」

 でもパンは見当たらない。驤エ譛ィが食べていたパンをぽとりと目の前に落とした。ふかふかで、さくさくで、ぼろぼろのパンだ。牛の頬肉と、ソースと一緒に食べる。口に入れると、砂糖菓子か砂のように崩れた。食べ進める。

 驤エ譛ィとミニチュアダックスフンドが食事をしながら話している。

「次はデザートかな」「まだまだ先じゃないか」「まだまだ先だろう」「前菜はまだかな」「メインディッシュは何だろう」「聞いてないのかい」「牛と聞いた」「鶏だろう」「魚は沢山だって」「果物も欲しいな」「ああ、デザートが食べたい」

 手が汚れたが、口周りは汚さずに済んだ。手拭きがないので、伝統的にテーブルクロスで手を拭く。すっかりきれいになった。テーブルクロスは汚れていないので、気持ちがいい。

「デザートだ!」謔?迢ゥ弱がガラガラと叫んだ。確かに目の前にあるのは、果物をふんだんに使ったフルーツタルトだ。もちろん、デザートの次は魚だろう。空は青色だから。

 木苺を食べる。つぶれた。オレンジを食べる。はじけた。グレープフルーツを食べる。ちいさくなった。門?カ繧を食べる。くだけた。タルトを食べる。するするとなくなった。また木苺を食べる。つぶれない。

 ところで、この食事会には鮟堤ウ螢ォ氏がいる。でも、彼は食事をせず、食事の真似事をしている。白黒の手でスプーンを持ち、丁寧に掬い、持ち上げ、でも食べない。顔がないから。ただ、ダックスフンド以外では彼が一番きれいに「食事」をしているので、好ましい、と思う。ぐちゃぐちゃとかべちゃべちゃしていない。本人は切実に、自分が食事をできないことを隠蔽したいのだろうけど。

 フルーツタルトのタルトは食べ切ったのに、フルーツがいつまでもなくならない。ダックスフンドを見つめると、笑っていくつかもらってくれた。グレープフルーツや苺がなくなって、少しだけ晴れやかな気分になる。

色とりどりの刺身が、真っ赤な皿の上にたくさん盛り付けられている。トマトかりんごから枝分かれして、分裂している。嬉しくなって食べる。よく噛んで、身が崩れて解ける。テーブルクロスはすっかり白くなってしまった。

「次は空だよ」「それは服の話かい?」「いいや、テーブルクロスだ」「皿は?」「無論、空だ。朝焼けの」「赤じゃ駄目だよ、ア濶イじゃないと」「当たり前だ。私は牛より豚が好きなんだ」「鴨も食べないと」わたしは会話に参加できない。


 だってあなたには舌がないんですもの! 


 だからわたしは、こんな、変で美味しくない料理を食べられるのだ。スプーンが口を開く。「莠縺偵s向けじゃないからねぇ」。

 次は大根サラダ、閭。鮗サ縺ィ繝√ドレッシングだ。大根が丸まった。ドレッシングのせいだ。食べ辛いが、それでも食べる。砂糖菓子のように、でも砂糖菓子とは違う匂いがする。ドレッシングが飛び散り、迪●縺ョの目に入った。それも両目。でも、誰も気にせず、食事は進む。まだまだコース料理は半分も提供されていない。

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