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NO LIFE KING  作者: ねる
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8.こちら害虫駆除隊

 その夜、リンレットは自分の銃の手入れをしていた。彼の前には通常分解されたM1911と手入れ用具が置かれていた。


 一つベッドを挟んで向こう側にはチヒロがぐっすりと寝ている。昼間の戦闘で余程疲れたのだろう。家に帰るとすぐさまコートを脱ぎ、泥のように眠ってしまった。


 ヘタっている部品が無いか確認し、銃身(バレル)にブラシを通して煤を落とし、駆動部に油をさす。

 そして一通りの作業が済むともう一度組み立て、ガチャガチャと動かす。


 トリガーを引くと静かな部屋に空撃ち(ドライファイア)の音が響く。


 リンレットは銃とマガジンを木箱に仕舞い、コートを脱いでベッドに横になった。





「どうしてこのクエスト受けられないんですか!?」

 ギルドに足を踏み入れた瞬間、そんな声がカウンターから飛んできた。

「なんだなんだ何事だ?」

 チヒロとリンレットが目をやると、一人の少年がカウンターで受付のお姉さんに抗議している様子が見て取れた。


「ですから……私どもとしましては、いくらBランク冒険者とはいえC+ランクのクエストを受けるには二人以上でないと……」

「あ、あのー」

 チヒロが声をかけると、少年は勢いよく振り返った。

 茶髪に少しつり上がった青い目。ぱっと見た感じはチヒロと同い年くらいであった。


「良ければ私たちとパーティ、組みませんか?」

「いいのか!?」

 少年は少し驚いたのか、目を丸くさせ、答えた。






 数時間後、三人は山の中を歩いていた。

「いや〜、助かったよ。昇段試験も兼ねたクエストだったからちょっと取り乱しちゃったよ」

 そう言ったのは先程ギルドに居た少年、ファルマスだった。


 今回受けたクエストは山に巣を作ってしまったジャイアントアントの討伐だ。

 ジャイアントアントは、文字通り蟻を大きくした様な見た目をしたモンスターである。






 十数分後、三人は突然立ち止まった。強い魔力の流れを感じたのだ。それは近くにモンスターの群れ、()しくはその巣があるという事だ。

 今回は後者だったらしく、崖になってる場所にポッカリと穴が空いていた。


 ファルマスは、腰のポーチから筒を取り出し話し出した。

「この爆裂筒を投げ込んで中にいる内に大半を始末する。そのあと出てきた奴らを片付けるって算段だ。よろしく頼むぜ」

 チヒロとリンレットはコクリと頷いた。

 すると彼は穴の近くへと駆けてゆき、爆裂筒の導火線に火をつけて穴の中に放り込んだ。


 数秒後、ズンという地響きがしたと思うと、穴から土煙が立ち上った。

 と、その時。穴の中から全長1mほどの大きさの蟻が何匹……いや、何十匹という数飛び出して来た。

「うっわ……きっしょ……」

 チヒロは剣を抜きながら顔を(しか)めたが、リンレットとファルマスは違った。


 口角を釣り上げ、まるでテーマパークに来た子供達の様に──いや、そんな純粋無垢なものではなく、もっと卑下な笑いだったが──とにかく笑顔で、うじゃうじゃ湧く蟻の群れへと飛び出して行ったのだった。

 ファルマスは背中から双剣を取り出すと、ジャイアントアント達を一気に数匹、叩き斬った。

 リンレットは一対多数戦で拳銃は役に立たないと思ったのか、蹴ったり殴ったり引き千切ったりと、好き放題戦っていた。

「もうこれ私いらないんじゃ……」

 チヒロは殺戮を楽しむ二人を見てそう呟いた。






 しかしその時。轟音と地鳴りが穴の方で起こったと思うと、5、6mはあろう大きさの蟻が穴を突き破って飛び出してきた。

「親玉!?」

女王(クイーン)だ。一つの巣に一体のみいて、こいつのみが繁殖を行うんだ。雄は全滅したみたいだけどこいつは仕留めきれなかったらしい」

 女王蟻(クイーン)は大きく上半身を持ち上げ、顎を開いて威嚇した。


「オールマイター!」

 チヒロはそう叫び、オールマイターを発動させて駆け出した。

 女王蟻は前足で押しつぶそうとしたが、それより速く避け、早く斬り刻んだ。

『グギイィィ!!』

 女王蟻は苦しそうな声を上げて数m飛び退いた。


「逃すかッ!」

 チヒロは女王蟻に向かって駆け出した。が、しかし。女王蟻は待ってたかのように口から強酸の液体を吐いた。

 彼女はそれをサイドステップで避け、足に力を込めて大きく跳び上がった。


「跳んだぁ!?」

 ファルマスが素っ頓狂な声を出すのも仕方ない。何故なら彼女は自らの四、五倍はあろう女王蟻より、さらに高く跳び上がったのだ。

 女王蟻は残った左前脚をチヒロに向かって振った。しかしチヒロはその勢いを活かして逆に左前脚を真っ二つに斬り裂いた。


「この勢いでッ!」

 チヒロは一度着地し、再度跳び上がろうとした。しかし、女王蟻はその動きを読んでいたのか、跳び上がった瞬間のチヒロに向かって強酸液を吐き出した。

「マズい!」


 だが、その攻撃は当たらなかった。


 いや、正確には弾かれたのだ。


 チヒロは無意識のうちに腕をクロスさせ、“魔障壁(シールド)”の魔法を発動させていたのだ。高圧で発射され、まるで弾丸のようになっていた強酸液はチヒロの目前で四散した。

「とどめだあああああッ!」


 チヒロは剣で女王蟻の首を斬り落とした。

 彼女が着地するとほぼ同時に女王蟻の骸は無残にも崩れ落ちた。


「はぁ……はぁ……殺ったぞおおお!」

チヒロは大の字に寝転び、雲一つない、気持ちのいいほどの蒼天に拳を突き上げた。






「そうか……マサバを()としたか」

 そう言ったのは執事のような格好をした魔族の男だ。

 石畳に石の壁、石の柱のとても広い部屋に声が響く。

 その部屋の真ん中を突っ切るように赤い長絨毯が敷かれ、端に両開きの扉が。もう片方には木と黄金で出来た玉座が置かれていた。

 そしてその玉座の目の前には跪く一人の青年がいた。

「結構結構。よくやった。」

 パンパンと手を叩きながらそう言ったのは玉座に座った男だった。


 彼の名はない。


 敢えて名前を付けるとしたら、「魔王」と言うべき存在。

 魔物の統率者であり、この世に溢れている魔力の根源。


 彼の顔は目深に被られたフードによって見えないが、声からして嬉しそうに笑っているのが目に見える。

「やっと、やっとだ。150年待った甲斐があったというものだ。リンレット。お前に()()()()物を取り返してやる」

 そう言うと、彼はまた愉快そうにクックックと笑い出した。


「それで、次の任務。どうしますか?」

 執事(バトラー)は少し嬉しそうに口を開いた。

「では是非、私にやらせてください」

 玉座の前に跪いていた青年が顔を上げる。

「必ずや、成果を挙げてみせます」

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