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NO LIFE KING  作者: ねる
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7.Virgin Fight

「いつ見ても凄いなぁ……」

 チヒロは目の前にそびえ立つ大理石で出来た柱と吹き抜けの天井を見上げながらそう呟いた。


 チヒロはリンレットに連れられ、ギルド本部に来ていた。

 ただし今日は前と違い、チヒロの腰には鞘に納められた直剣が、リンレットの脇には.45AUTO(コルト・ガバメント)がそれぞれ装備されていた。


 奥のカウンターに着くといつもの受付嬢がにこりと営業スマイルを浮かべて対応してきた。

「こんにちは。本日はどのようなご用件ですか?」

「クエストを。出来るだけ初心者向けの、初めて街の外に出るような者でもやれるような。そんな奴を頼む」

「それならこれなんかどうでしょうか」





 それから数時間後、二人は王都スプリングフィールドから少し離れた平原を歩いていた。

 二人が受けたのはスライムの討伐。超が付くほど初心者向けクエスト、その中でも定番となっているクエストだ。


「あれがスライム……ですか?」

 チヒロが自信なさげに指差したのは、うねうねと動く青いゼリー状の物体ーーいや、動いているのだから生物なのかもしれない。とにかく、その常識はずれな見た目から生物であるかも判断がつかないものだった。

「そうだ。そしてあれの中心に赤い球が浮かんでいるだろう、あれがスライムの(コア)だ。あれを破壊すれば奴を倒すことができる」


 チヒロはリンレットの話を聞いてコクリと頷き、剣を腰から引き抜いた。

(オールマイター、発動)

 そう心の中で唱えると、彼女の体が一瞬赤くぼんやりと輝いた。






「やります!」

 そう叫ぶと同時に彼女は駆け出した。

 スライムとの距離が五メートルほどのところで、相手も気づいたのかチヒロに向かって飛びかかってきた。

 それに構わずチヒロは上から下に勢いよく剣を振り下ろした。

 包丁で野菜を切った時のような、そんな小気味よい感覚が手に伝わったと思うとスライムは空中でパンと弾けた。


 ふと顔を上げると、周りにはさらに四体のスライムが群がって来ていた。

 そのうちの二体が飛びかかってきたのでバックステップで攻撃を(かわ)し、着地直後の隙を狙って叩き斬った。


 しかし一気に倒したことで気が緩んでしまったのか、残ったスライムに隙を突かれ剣を持っている右手に纏わりつかれてしまった。

「しまった!」

 刹那、乾いた破裂音がしたと思うと、纏わりついていたスライムが核を破壊されて破裂した。

 音のした方を振り返るとリンレットが拳銃(ガバメント)を構えて立っていた。


 彼は間髪入れずにもう一度引き金(トリガー)を引いた。撃鉄(ハンマー)が倒れ、撃針(ファイアリングピン)が押されて雷管(プライマー)を突き、弾が発射される。

 その弾は寸分の狂いもなく、スライムの核にまるで吸い込まれるかのように向かって行き、その核を破壊されて破裂した。

 そしてほぼ同時にオールマイターの効果が切れ、チヒロはその場にへたり込んだのであった。






「最後まで気を抜くな。スライムじゃ無ければ死んでいたぞ」

 リンレットは少し厳しい口調でそう言い放った。

 チヒロが痛みを感じ、右腕を見るとスライムに取り付かれた部分が火傷にように(ただ)れていた。

 リンレットは彼女に近づくと、腰から赤い液体の入った小瓶を取り出し、チヒロの手に掛けた。

 すると、みるみる治っていき元どおりになってしまった。

「はぁー……」

 そんな夢のような光景を目にしてチヒロはため息をつくことしかできなかった。






 突然、リンレットは勢いよく立ち上がった。それが意識したものなのか、本能的なものなのかは分からないが、ただリンレットは長年の経験から、第六感から、どこからか迫る危険を察知して立ち上がったのだ。

「……リンレットさん?」

「静かに……何かが来る……」

 チヒロは訳が分からず立ち上がったがリンレットはそれも気にせず、目の前に(そび)える丘の頂上に目を凝らしていた。


 “それ”が飛び出してきたのはその時だった。“それ”は丘のてっぺんから飛び出し、チヒロに向かって一直線に突っ込んでいった。

 リンレットは反射的にチヒロ抱きかかえて横に飛んだ。彼の伸びた足が“それ”によって切断され、数秒遅れて痛みが伝わる。

「クソッ!」

 彼は足を再生させ、“それ”の正体を確かめるために顔を上げた。

 その瞬間、彼は彼自身の目を疑った。

「何だ……あれは」


 そこに居たのは狼ーーいや、正確には頭から角が一本生えている一角狼なのだが、どうにも様子が違う。

 体のあちこちから宝石のような結晶体が突き出ていて全体的に体が肥大化している。さらに目は充血していて、どこを見ているのか分からない様な有様だった。

 これを見て、リンレットは一つの結論に達した。

「……魔力暴走!」






 魔力暴走とは、文字通り何らかの影響で体内の魔力量が急激に増え、それに体が耐えられなくなって起こる現象のことである。

 並みの生物なら体が耐えきれずに組織が崩壊を起こすが魔物など、タフな生物は崩壊を起こすより先に体組織が飽和した魔力量に耐えられる様に変化ーーいわば進化するのである。

 そして体内に収まりきらなくなった魔力は“魔晶石”という結晶として浮き出てくるのだ。

 魔力暴走を起こした生物は稀に脳を侵され、凶暴化するものもある。きっとこの一角狼もその類なのだろう。






 チヒロは、この一角狼を見て不思議と恐怖は感じなかった。彼女はそれが自分よりも遥かに強いリンレットに守られているからだと思ったが、実際はもっと違う理由だったのかもしれない。


 チヒロは無意識のうちに【オールマイター】を発動していた。丁度足元に転がっていた短剣を持ち上げ、一角狼に向かって足を進めた。


「何をしている! 戻れ!」

 リンレットは叫ぶがチヒロの足は止まらない。


 一角狼が口を大きく開け、チヒロに飛びかかる。しかしチヒロは必要最低限の動きでそれを避け、逆に一角狼の右足を叩き切った。


 着地し、大きく体制を崩した一角狼の喉笛目掛け、チヒロが突進する。だが一角狼はそれを待っていたかの様に立ち上がり、左前脚で攻撃を仕掛けた。


 しかし、その攻撃はチヒロに当たらなかった。リンレットが間一髪のところで一角狼の左前脚に五発の鉛玉を撃ち込んだのだ。

一瞬、一角狼が怯んだ。その隙をチヒロは逃さず、短剣を一角狼の首に突き立てた。


「はあああああッ!」

 彼女は短剣を引き抜き、もう一度、今度は一角狼の首を撫で切った。


 傷口から鮮血が吹き出し、チヒロの半身を真っ赤に染めた。






 チヒロがふと意識を戻すと、辺りは真っ赤に染まっていた。

 今まで草原に居たはずなのに? 訳が分からず自分の手を見ると、それも真っ赤に染まっている。それどころか全身が、生温かい液体で染められている様だ。


 後ろを振り返ると、ところどころ赤く染まっている白い巨体。それを見た瞬間、チヒロにある感覚が蘇る。


 そして急に気持ちが悪くなり、訳が分からず胃の中のものを吐き出した。

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