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NO LIFE KING  作者: ねる
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5. Fight Fight Fight

 王都スプリングフィールドから北西に500kmほど離れた場所に、途方もなく長い石の壁があった。


 壁の名はマサバ砦。

 オードナンス王国を魔族の侵攻から守る為に設置された防壁である。


 普段なら兵達はくつろいでいるのだが今日だけは何やら様子が違った。


「何人いるんだ、ありゃあ……」

 壁の中のとある部屋に据え付けられた双眼鏡を覗いた、小太りの将校が額に汗を浮かべながら呟いた。


 彼はこの砦の指揮官のステル少将。

 そして彼の視線の先には、地平線を覆い尽くすほどの大勢の魔族や魔物が見えていた。


 そこへもう一人、今度はあまり背の高くない青年が息を切らして駆け込んで来た。

「計算結果出ました! 敵総数、推定約一万!」

「一万!? 直ぐに王都に報告せよ!」

 ステルは目を見開いて命令した。しかし青年は少しばつが悪そうに口を開いた。


「それが、魔導妨害を受けていて王都まで水晶通信ができないのです」

伝書梟(フクロウ)を使え! 直ちに全ての迫撃砲、高射砲用意! 全軍、第一防御体制で待機、いつでも撃てるようにしておけ!」






 彼はとても焦っていた。

 この砦で長いこと指揮官をしているが、今までここまで大規模な魔族軍を相手にしたことなどなかった。

 それは彼の命令で魔族軍に銃口を向けている兵達も同じだった。


 その時、魔族軍が陣形を作って突撃をかけて来た。

「少将! 攻撃命令を!」

 青年がその様子を見て声を上げた。

「まだだ、射程距離ギリギリまで撃つな。無駄に弾を消費してはならん」

 彼はその心境とは裏腹に、落ち着いて命令を返した。


「距離三千!」


 まだだ。


「距離二千五百!」


 まだだ、まだ撃つな。


「距離二千!」


 その時、まだ射程距離ではないにも関わらず、一つの砲が火を吹いた。

「誰だ! まだ攻撃命令は出していないぞ!」

 しかしそれに続いて、混乱状態になった兵士はどんどん銃や大砲を放ち始めた。


 次々に爆発が起こり、暗く静かな夜に光の筋が飛び交い、着弾する度にいくつもの明かりを灯した。

 しかし、魔族の足は止まらない。砦との距離は縮まる一方であった。

 ステルの焦りは更に加速した。

「何故奴らを、魔族供を止められん! こちらは最新の火砲で武装してるのだぞ!?」


「それが、敵の数が余りにも多いものですから。それに奴ら、耐久力が高すぎて当たっても平気で飛び込んでくるんです!」


 部下の言葉を聞き、ステルはぐぬぬと唸った。そして自分が部下を抑えられなかったばかりに混乱を招いてしまったと、自らの非力さを悔いたのだった。

 と、その時、ステルと部下たちは轟音と衝撃を感じ、倒れ込んだ。

 窓から顔を出し空を見上げると、ドラゴンが舞っていた。


操竜兵(ドラグナー)!?」

 ドラゴン達は腹に抱えた爆弾樽を次々と投下し、また口から(ブレス)を吹いて壁の上や中の兵士を攻撃して行った。

 対空砲が彼等を狙って火を噴くが、ドラゴンの変則的な動きを捉えきれていなかった。


 その時、外を見ていた青年将校が声を上げた。

「奴ら、壁に到達しやがった!」

 そう言われ、慌てて下を見ると魔物の群れが波のように壁に群がっていた。

「野郎ッ! させるか!」

 どこからか、マシンガンを持ってきた青年将校が魔物の群れに向かって乱射した。もう多くない壁の上の砲兵達も砲口を真下に向けて撃ちまくっているが、敵の数が多すぎるため焼け石に水の状態だった。


 するとステルは額の汗を拭い、静かに口を開いた。

「全員、現時刻を持ってマサバ砦を放棄する。総員退避!」

 マシンガンを撃っていた青年将校が振り返って声を上げた。

「何をおっしゃるのですか! 我々はまだ戦えます!」

「もうこの砦に戦闘能力は残っておらん。それに……」


 ステルが次の言葉を言おうとしたその時。

『万物よ、我の命令を読み解きこの闇を切り裂く(ほのお)の矢になれ』


 ステルは確かにそう言う声が、何処からともなく聞こえた。その瞬間、何十、何百という数の(あけ)の魔法陣が上空を覆い、そこから幾千もの炎の矢が光の筋となりマサバ砦に降り注いだ。


 着弾した矢はその場で爆発を起こし、兵隊や砲、更には砦そのものを吹き飛ばして行った。あちらこちらから兵士たちの叫ぶ声が聞こえたと思えば直ぐに爆音でかき消される。


 まるで地獄の様相を呈していた。


「ステル少将! 早く脱出を!」


 ステルが最期に目にしたのはそう言う血だらけの部下の姿と、真っ赤に燃え盛る指揮官室だった。




 炎の朱と夜の闇が混じり合った空にはただ一羽、純白の梟だけがが飛んでいった。

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