1.日常のような異常
昨日投稿したら直ぐにコメントが付いてビックリしました。
やっぱりなろうでは異世界人気なんだなって。
リンレットがドアを開けるとそこは大通りに面した路地だった。
彼は目的の場所に向かうため、その大通りへと足を進めた。
ここはオードナンス王国、王都スプリングフィールド。
聖剣歴200年頃から突然始まった異世界からの人、物等の転移現象はこちらの世界の技術力を飛躍的に成長させた。
それから5000年程経った現在では、かつて乗り合いの馬車が走っていた道では路面鉄道や蒸気自動車が走り、尖った屋根の木造住宅が並んでいた街には煉瓦造りの高層建造物が目立ち、上下水道も整備され、人々はその暮らしを謳歌していた。
リンレットが向かった先は、街の中心部に位置するギルドだった。
石造りの大きな建物で、未だに数百年前と変わらぬ姿を保っている、今となっては珍しい建物だ。そのため、国内でも人気の観光スポットになっている。
入口の左右にこの国の国旗が掲げられている。このギルドは国営の機関なのだ。
彼は開け放してあるドアを潜って中に入った。中には自分の他にも数組のパーティがいて、それぞれ作戦会議をしたり他愛もない話をしたりと思い思いの行動を取っていた。
リンレットは奥にある受付へと足を進めた。
「お待ちしておりました、リンレット様」
受付嬢がぺこりと頭を下げる。
「こちらの者がギルドマスター室へご案内します。ついて来てください」
そう紹介されたのはブレザーを着こなした青年だった。リンレットは頷くとその青年に付いていった。
青年は二階の大きな扉の前で立ち止まった。彼はそのドアを数回ノックして扉を開け、中に入るように言った。リンレットは頷き中に足を踏み入れた。
部屋の奥、窓の前にある大きな机にいかにも偉そうな、煙草を咥えた男が座っていた。その男は年をとり、顔には皺と数々の傷が目立ち、頭は白髪で覆われているがそれを全て跳ね除けるだけの威厳を持っていた。
少しほつれたミリタリージャケットの左胸にはいくつもの数の勲章が付けられていた。
彼はこの国営ギルドの長、ガーランディア。元SS級冒険者で、かつて王国で名を馳せた優秀な冒険者だった。
「ようこそ、リンレット。と言ってもこの挨拶も何度目か分からんが」
「3432回。俺が450年前に魔王を勇者と共に封印してからそれだけの回数ここに呼ばれている。お前と交わしたのはこれで233回だ」
「わざわざ数えているのか。ふふ、まぁいい。取り敢えずそこに座れ。本題に入る」
部屋の中心に向かい合うようにして置かれている黒いソファの片方を指差してそう言った。リンレットは言葉に甘えてそこに腰掛け、少しくつろいだ体勢を取った。
ガーランディアは煙草を灰皿に押し付けてリンレットの向かいに座ると、胸ポケットから新しい煙草と銀のオイルライターを取り出し、口に煙草を咥えるとそれに火をつけてライターをリンレットに渡した。リンレットも同じように煙草を胸ポケットから取り出し、ガーランディアから受け取ったライターで火をつけた。
「さて本題だ。最近北メイトリックス地方サルム公爵領南の森周辺に派遣された冒険者が次々消息を絶っていてな」
「……ほぅ」
「それの調査任務なのだが、同じ理由で派遣されたA級冒険者のパーティも現在消息が掴めていない」
「その調査に行けばいいのだな」
「そうだ。これ以上只の冒険者を派遣する訳には、無駄に屍の山を築く訳にはいかないのだ」
「何人やられた? 人数で粗方の予想はできる」
「今までに23人だ。あそこは比較的平穏な地方だから突然変異の魔物やはぐれ飛龍とかも考えているのだが」
「すぐ向かおう。報酬は?」
「金貨10枚。それだけ危険な任務だ」
リンレットは少し驚いた。金貨10枚などという額は普通の人間なら3、4ヶ月遊んで暮らせる額だ。幾ら危険でも少し多い気がしたのだ。
「あの辺に行く列車は無かった筈だ。だから取り敢えず馬を一頭と数日分の固形食料。それと野宿の可能性もあるから結界用の札も」
「直ぐ用意させる。それでは無事を祈っている」
ガーランディアはそう言い終わると、左胸に右の拳をダンと叩きつけた。
「我らが使命は陛下と女神フリンターの統治するこの国の安全と平和を維持すること。HominisDignitati!」
「ヤー。1時間したら戻ってくる。それまでに頼む」
そう言ってリンレットは煙草を灰皿に押し付けると立ち上がり、踵を返してドアから出て行った。
家に帰ると直ぐにロングコートを脱ぎ、クローゼットを開けた。
中にはマグポーチが4つ付いたショルダーホルスターと、小さな木箱がいくつも置いてあった。
リンレットはショルダーホルスターを着、一番手前に置いてあった木箱を開けると中から一丁の拳銃がその姿を覗かせた。
チェッカリングの入った木のカスタムグリップ。
日光を反射して輝く、銀の3ホールトリガーとロングスライドストップ。
リアサイトは左右上下調整可能な精密射撃用の物に取り替えられ、フロントサイトも大型の物に付け替えられている。
ハンマーはエッグホールタイプ、サムセイフティもロングタイプに変更されている。どちらも銀色で、綺麗に光っている。
そしてスライドはチェッカリングが前後に切ってあり、左面の中央には「COLT AUTOMATIC CALIBER .45 」の文字と前足を大きく振り上げた馬の刻印。
そのボディには全体にブルーイング処理が施されていて、日光を反射してなんとも言いがたい、不思議な色合いを醸し出していた。
45口径、シングルアクション。
銃の名前はM1911A1、愛称は「ガバメント」。
リンレットが長年愛用している、彼にとっては相棒とでも言うべき存在であった。
彼はそれを左脇のホルスターに仕舞い、続いて別の箱を3つ開けた。その内2つにはマガジンが2本づつ入っており、もう1つには弾の入った紙の箱が更に沢山入っていた。彼は紙の箱を1つ取り出して開け、マガジンに弾を込めた。
そして込め終わるとそれもまたマグキャッチに入れ、その上からコートを着て部屋を出た。
ギルドに戻ると早速先ほどの若者に施設の裏に案内された。裏には大きな馬小屋があり、その内の一頭を案内された。
「此方になります。ご要望の物は全て背負わせております」
「いい仕事だ。感謝する」
「ありがとうございます。では、ご無事で」
そう言う若者の目はどこか悲痛そうだった。今まで彼は同じ任務で何人の冒険者を見送り続けたのだろうか。
今度こそは、今度こそは絶対に生きて帰って来て欲しい。そう言っているようだった。
リンレットは馬の鞍に跨ると、手綱を操り大通りに誘導し、そのまま町の北門へと向かった。