9.王都、襲撃 ①
「うっわあ! でっかぁい!」
チヒロは、目の前にそびえ立つ城を見上げて言った。
ここは王都の城、グレートオードナンスキャッスル。チヒロとリンレットは数日前に召集がかかり、会議に参加する為にここを訪れたのだった。
「全高おおよそ50m、広さは街が収まってしまうほどの広さだ」
「凄い……本当、ファンタジーの作り話の世界みたい……」
そんなやりとりをしながら、2人は王城の門を潜った。
すると目の前に広大な広場が現れた。リンレットによると昔はここで演説などをしていたらしい。しかしラジオが普及した今、演説などをわざわざここで行うことは無くなり、戴冠式などの時のみ市民に開放されるらしい。
そして巨大な扉を潜り、中に入る。
リンレットは慣れてるのか、つかつかと進んでいく。だがチヒロは緊張と興奮で周りをキョロキョロ落ち着きなく見回していた。
「うわぁ! 騎士さんだぁ!」
渡り廊下のような場所を歩いてる時、下を覗いてたチヒロがそう声を上げた。
リンレットが近づいて覗いてみると、何体もの甲冑が的を剣で攻撃したり、トラックを走ったりしていた。
「あれは魔導人形だな。人間が操る作り物の人間。あそこに水晶を持った魔導師がいるだろう、あれで指令を出しているんだ」
そんなやりとりをしていると、水晶を持った魔導師がその目の前に立つ魔導人形に向かって「行進」と命令する。すると魔導人形はガチャガチャと金属音を立てながら、目の前の的に向かって歩き出した。
「攻撃!」
魔導師がそう声を上げると魔導人形は剣を抜き、上段に構え的に向かって振りかぶった。
だがその剣は空を切り、魔導人形はバランスを崩し思い切り倒れてしまった。
「あんなのが使えるのか……?」
リンレットはそれを見てため息混じりに呟いたのだった。
「失礼する」
リンレットが扉を開くと、長卓とそれを囲む人々が目に入った。
大臣、将軍、ギルドマスター、公爵etcetc……錚々たる面子が集まっていた。
「ようこそリンレット。そして勇者サマ」
そう声を掛けたのは国営ギルドのマスター。ガーランディアだ。
「はっ、はじめまして! チヒロですっ」
これが人見知りの彼女の渾身の挨拶だった。これを見てガーランディアは子供のようにけらけらと笑ったのだった。
「笑うなよ。彼女に悪い。それに自己紹介がまだだろう」
隣に座っていたトミーが呆れ気味に嗜める。ガーランディアは息をはぁと吐くと、
「いやはや、すまなかった。嬢ちゃんの挨拶があまりにも可愛らしかったのでな。俺の名はガーランディア。嬢ちゃんの所属しているギルドの長をやってる」
「……! よっよろしくお願いしますっ!」
チヒロは思い切り頭を下げ、またガーランディアの笑いを誘ったのだった。
「ふぅ。これでテストは完了……っと」
オートマトンのテストをやっていた魔導師はそう言って額の汗を拭った。
「にしてもコイツは凄いな。現代の戦争を大きく変えてしまうかもしれん……」
「へぇ、そうなんだァ」
突然、後ろから声をかけられ素早く後ろを振り向いた。視界に赤髪の青年が立っているのが入ってくる。
彼は尋常じゃない程のプレッシャーを感じた。それがこの青年の物かは分からないがとにかく“ヤバイ”というのだけは感じる。
誰だ?何だ?何者だ?
そんなワードが頭の中を駆け巡る。
彼は、頬を嫌な汗が伝うのを感じながらゴクリと唾を飲み込み、青年と対峙した。
「貴様ッ、何者だ! どこから入ってきた!」
「おーおー怖い怖い。別に怪しい者ではありませんヨーっと」
彼は手をひらひらと振りながら答えた。緊張感漂う中、青年はそれを全く感じていないようだった。
すると騒ぎを聞きつけた衛兵が駆けつけてきて、呑気にあくびをかいている青年を素早く取り囲む。
四方八方から突きつけられる銃口と銃剣。だがそれにも動じず、青年は半目で魔導師を見据える。
「捕らえろ!」
衛兵の一人、リーダー格の男がそう声を上げた。
一斉に衛兵たちが駆け寄り青年は捕らえられる──筈だった。
青年がカッと目を見開くと、駆け寄っていた衛兵たちが一気に吹き飛ばされた。
「なっ、何ィ⁉︎」
「う、撃てェ!」
衛兵たちはすぐにホルスターからリボルバー拳銃を取り出し発砲する。
しかし──
「効かないよ。そんなん」
弾は当たった。血は噴き出た。しかし、青年はへらへらと笑いながらその場にしっかりと立っていた。
「あれ? もしかしてもう終わりなわけ? じゃ、こっちから行かせてもらうよ」
青年は飛び出した。そして衛兵の一人に目標を定めると──
「erste!」
ボロ雑巾を引き裂くように、人を、それも素手で引き裂いてしまったのだ。
あたりを臓物と血糊が覆い、顔を顰めたくなるような臭いが漂う。
「た、退却ッ!」
だが、その号令はあまりにも遅かった。
青年はまるで人間では無いような動きで衛兵たちを次々と骸にしていった。
ある者は首をむしり取られ、またある者は内臓を引きずり出され。
そして最後の一人はあの魔導師だった。青年は一歩ずつ、ゆっくりと彼に近づいていく。青年が近づくにつれ、彼の顔は恐怖の色を増していく。
青年は彼の前に立つと顔を鷲掴みにし、片腕だけで宙に浮かせた。
「き……貴様……何者」
「魔人軍序列7位。コルテットだ。覚えとけ」
それだけ言うと彼は魔導師の頭を握りつぶした。
バキバキという頭蓋が砕ける音と柔らかくも硬くもない感触が手に伝わり、血と脳漿と脳がぐちゃぐちゃに混ざった物質が辺りに撒き散らされる。
「あーあー気持ち悪い気持ち悪い……ん?」
コルテットはふと足元を転がる、血にまみれた水晶玉が転がっていた。
「これって……」
振り返ると動きの止まった甲冑たちが目に入る。
「……これはこれは。面白い置き土産だこと」
そう呟くと、コルテットは口角をにっと釣り上げて笑った。