5話
「私、あそこに行きたいんだ」
樹里が指さしたのは、パステルカラーが基調の、ファンシーな雑貨屋だった。
「じゃあ私は入り口の付近にいるからね」
看護師さんは店内までは付き添いしないみたいだ。
「わたしって、どんなアクセサリが似合うと思う?」
樹里が迫ってきて言う。
「ねえ、有希くん。わたしに似合うものを買ってください」
「ごめん、僕お金持ってないんだ」
「あ、そうだったね。ちょっとまってね」
バッグの中をあさり出して、ごそごそと何かをし始めた。
「はい、これ、私からの誕生日プレゼント」
ピンクと白色の封筒の中には、千円札が2枚入っていた。
「……これで何か買ってほしいってことだよね」
「そのとおり!」
もらったお金でプレゼントを買うのは情けないけど、
それでも嬉しいと思ってくれるのなら、ありがたくもらって、買ってあげることにしよう。
雑貨屋をぐるぐる回っていると、目に止まったのは、薄いピンク色をした、透明なプラスチックで出来た、ハート型のイヤリングだ。それを手にとって検分していると、となりの樹里が目を輝かせてるのがわかった
「うん、これを買ってあげよう」
「いいね! ありがとう」
こういうとき、わかりやすいのはこの子の美点だ。
隣に並んでいる、造花の冠の一つを手にとってみる。
これは、ふわふわした髪質の樹里によく似合う気がした。
「ちょっと屈んで」
同じくらいの背丈の樹里に屈んでもらい、花冠を乗っけてみる。
思ったよりも、ずっと似合っている。
「なんか、ヨーロッパの結婚式のお嫁さんみたいだね」
何気なく呟いたら、顔を背けられてしまった。
少しセリフがキザすぎただろうか。
「ふふ」
それでも嬉しそうだったからよしとしよう。
店を出ると、お昼を少し過ぎたところだった。
「お昼御飯どうする?」
「はい!あのクレープが食べたいです!」
指をさすと、ワゴン車の前に人だかりができていた。
どうやらクレープの移動販売のようだ。
「お腹にたまらなくない?」
「大丈夫、甘いものは主食です!」
看護師さんは悩んでいたけど、今日の主役は樹里だから、仕方ないな。
結局3人ともクレープを買い、公園のベンチでのんびり食べた。