26話
クリスマスパーティーが終わった。
そのあと、僕は眠った。
目を覚ますと、まだ星が見える。
うすぐらい部屋に一条の光が差し込む。
まだ夜は明けない。
昨日の出来事は夢だったのだろうか。
初めて過ごした、家族との団らん。
今まで望んでいて、得られなかったものだ。
それを突然に手に入れた。
それはクリスマスの奇跡、神様からの贈り物。
きっと、そんなもの。
だから神様を信じよう。
そう、信じたい。
布団から這い出る。
水が飲みたくなった。
枕元にある、水の入ったコップに手を伸ばす。
手が小刻みに震える。
掛け布団に水をこぼした。
病気が悪化している。
思考がおぼつかない。
昨日はとても楽しい一日をすごした、はずだった。
だけど、今はあまり思い出せない。
掛け布団の水が、パジャマまで染みてくる。
深夜。遅い時間なので、ナースコールを躊躇する。
大丈夫、看護師さんはこういうときのために待機している。
僕は、ナースコールのボタンを押した。
「どうしたの?」
長居さんがすぐに来てくれた。
「水を、こぼしてしまったんです」
おねしょに間違えられたらやだな、と思った。
「リネン室から替えを取ってくるからちょっと待って」
長居さんは、そう言って出ていった。
戻ってきた長居さんが、新しいかけ布団をかぶせてくれる。
そして言った。
「最近、冷えるね」
「はい」
「昨日は楽しかった?」
「はい、とても」
「よかった」
長居さんは続ける。
「私が行く必要は無いかな、と思って行かなかったの。忘れてたわけじゃ、無いよ」
「約束したわけじゃ無いですからね」
「そういうことは、言わない」
「じゃあ、言います。僕は、少しだけでいいから、来てほしかった」
「あら」
長居さんは、表情を少し崩した。
「大分素直になったじゃない」
そしてにこやかになる。
「そういう有希くんは、好きだよ」
「ありがとうございます」
僕も、笑った。
昨日はクリスマスイブ。
そして、今日はクリスマス。
今日は何もないのかな。つまらないな、と僕は思った。
かじかんだ手を布団のなかに突っ込む。
清潔で、そして暖かい。
布団を洗濯してくれる看護師さん、持ってきてくれた長居さん、みんなに感謝する。
「ありがとう」
小さく、つぶやいた。
誰にも聞かれないように。