22話
シャー、という音とともに、カーテンが開いていく。柔らかな日差しが部屋の色をあらわにする。
月明かりと常夜灯でほんのり照らされた、部屋一面に飾られた、色とりどり折り紙も、神秘的できれいだった。
でも、冬の低い太陽を浴びて、輝く部屋の飾りも、またきらびやかだ。
空気をいれかえよう、と少しだけ窓を開けてもらうと、ほんのり、冬の匂いが部屋にひろがる。
寒いけど、気持ちがいい風が、僕の頰を撫でていく。
今日は、クリスマスイブ。
樹里がずっと楽しみに待っていた、特別な日なんだ。
だから、きっと楽しい日になる。今日は楽しもう。
クリスマスは、院内でもイベントがあるため、みんな忙しくなる。長居さんも、僕につきっきりとはいかない。
今日、僕の担当に回った、男の看護師さんに、書棚から本を持ってきてもらった。この前、お父さんが買ってきた本だ。
樹里と出会ってから、読書量はめっきり減ったけど、暇な時間があれば、こうやって本を読んでいる。
ベッドの背もたれを起こしてもらい、着脱式のテーブルに、ブックスタンドを乗せてもらう。
本をセットしてもらう、幸いまだ自力でページをめくることはできる。
みんながこの部屋に集まるまで、僕は、本の世界に入りこむことにした。
コンコン。
どのくらいの時間が過ぎたのか。ご飯は食べてないから、まだお昼前だろう。
「どうぞ」
僕は少しだけ緊張した。
「入るよ」
「どうぞ」
両親の顔が見えたので、僕から挨拶をする。
「おはよう」
「おはよう、いい天気だね」
「おはよう」
樹里が望んだことは、家族みんなで、楽しいクリスマスパーティーをすること。
だから、僕は努力して、そして、歩み寄らなければいけない。
それは、僕の方から。
わだかまりは、ある。それが、子供がいじけてるだけだ、ということもわかってる。
すべては樹里のため、歩み寄ろう。
そう言い聞かせた。
「そして、メリークリスマス!」
「メリークリスマス」
「メリークリスマス!」
3人でお祝いの挨拶をする。
「お父さんの服が赤いね」
僕のつぶやきに、お父さんは反応した。
「そう。これは、七福神の大黒天さ!」
白い袋を誇示しながら、お父さんは言った。
「そう、なんだ」
僕はそれしか言えなかった。
「あらら、違うでしょう」
「そうだった。これは、サンタクロースだよ!」
お母さんがとっさにフォローする。長年連れ添ってきたんだなぁ、ということがよくわかる。
「なんでそんな格好しているん、の?」
僕は敬語を使いそうになったけど、とっさに軌道修正した。
「え? だって今日はクリスマスだよ」
「そうだね」
僕はうなずいた。
「だから、みんなにプレゼントをあげなくちゃ!」
「ええ! お父さんがサンタさんだったんだ! って、今、樹里が言ったわ」
「樹里もちゃんと来てくれたんだね」
「お兄ちゃん、メリークリスマス!」
「メリークリスマス、樹里」
「この場面で放置されるのは寂しいぞ、サンタさんは」
「ちょっとビックリしたから」
お父さんに、僕は言った。
「そうだろう、まさかお父さんが、サンタさんなんて、思わなかっただろ」
「世界中の子供たちに、プレゼントを配ってたから、ずっと帰れなかったのよね」
「ちょっと、ちょっと待って」
話しの流れがおかしいので、頭の中を整理したくて、会話を遮った。
お父さんって、こんな人だったのか? お母さんも、こういったおふざけに、付き合うんだ。
大学の客員教授として、海外を転々としてた人たちだ。もっとお堅い会話しか出来ないと、思ってた。
僕たちは、極たまに病院に来てもらっても、いつもうわべの会話しかしなかった。
だから、両親がどんな人かも、何を考えてるかも、知ることが出来なかったんだ。
「でも、お父さん、サンタさんは、自分の正体を教えちゃいけないんだよ。サンタさんはお父さんなんて、絶対に言っちゃいけないんだよ。樹里の言葉ね」
「違う違う。サンタさんはお父さん、なんじゃなくて、お父さんが、サンタなんだ。これは、小さいように見えて、大きい違いなんだよ」
「どういうこと?」
「もう少し学校で勉強すればわかるわ」
「同じような気がするけど……言いたいことはわかるけどね。と樹里の言葉よ」
お母さんは1人で会話してる。そう見えるのは僕だけなんだろうけど。