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天使とすごした10月4日  作者: 直木 新
22/28

22話


 シャー、という音とともに、カーテンが開いていく。柔らかな日差しが部屋の色をあらわにする。

 月明かりと常夜灯でほんのり照らされた、部屋一面に飾られた、色とりどり折り紙も、神秘的できれいだった。

 でも、冬の低い太陽を浴びて、輝く部屋の飾りも、またきらびやかだ。

 

 空気をいれかえよう、と少しだけ窓を開けてもらうと、ほんのり、冬の匂いが部屋にひろがる。

 寒いけど、気持ちがいい風が、僕の頰を撫でていく。


 今日は、クリスマスイブ。

 樹里がずっと楽しみに待っていた、特別な日なんだ。

 だから、きっと楽しい日になる。今日は楽しもう。


 クリスマスは、院内でもイベントがあるため、みんな忙しくなる。長居さんも、僕につきっきりとはいかない。

 今日、僕の担当に回った、男の看護師さんに、書棚から本を持ってきてもらった。この前、お父さんが買ってきた本だ。

 樹里と出会ってから、読書量はめっきり減ったけど、暇な時間があれば、こうやって本を読んでいる。


 ベッドの背もたれを起こしてもらい、着脱式のテーブルに、ブックスタンドを乗せてもらう。

 本をセットしてもらう、幸いまだ自力でページをめくることはできる。

 みんながこの部屋に集まるまで、僕は、本の世界に入りこむことにした。


 コンコン。

 どのくらいの時間が過ぎたのか。ご飯は食べてないから、まだお昼前だろう。


「どうぞ」

 僕は少しだけ緊張した。


「入るよ」

「どうぞ」


 両親の顔が見えたので、僕から挨拶をする。

「おはよう」


「おはよう、いい天気だね」

「おはよう」


 樹里が望んだことは、家族みんなで、楽しいクリスマスパーティーをすること。

 だから、僕は努力して、そして、歩み寄らなければいけない。

 それは、僕の方から。

 わだかまりは、ある。それが、子供がいじけてるだけだ、ということもわかってる。

 すべては樹里のため、歩み寄ろう。

 そう言い聞かせた。


「そして、メリークリスマス!」

「メリークリスマス」

「メリークリスマス!」

3人でお祝いの挨拶をする。


「お父さんの服が赤いね」

 僕のつぶやきに、お父さんは反応した。


「そう。これは、七福神の大黒天さ!」

 白い袋を誇示しながら、お父さんは言った。


「そう、なんだ」

 僕はそれしか言えなかった。


「あらら、違うでしょう」

「そうだった。これは、サンタクロースだよ!」

 お母さんがとっさにフォローする。長年連れ添ってきたんだなぁ、ということがよくわかる。


「なんでそんな格好しているん、の?」

 僕は敬語を使いそうになったけど、とっさに軌道修正した。


「え? だって今日はクリスマスだよ」

「そうだね」

 僕はうなずいた。


「だから、みんなにプレゼントをあげなくちゃ!」

「ええ! お父さんがサンタさんだったんだ! って、今、樹里が言ったわ」


「樹里もちゃんと来てくれたんだね」

「お兄ちゃん、メリークリスマス!」

「メリークリスマス、樹里」


「この場面で放置されるのは寂しいぞ、サンタさんは」

「ちょっとビックリしたから」

 お父さんに、僕は言った。


「そうだろう、まさかお父さんが、サンタさんなんて、思わなかっただろ」

「世界中の子供たちに、プレゼントを配ってたから、ずっと帰れなかったのよね」

「ちょっと、ちょっと待って」

 話しの流れがおかしいので、頭の中を整理したくて、会話を遮った。


 お父さんって、こんな人だったのか? お母さんも、こういったおふざけに、付き合うんだ。

 大学の客員教授として、海外を転々としてた人たちだ。もっとお堅い会話しか出来ないと、思ってた。

 僕たちは、極たまに病院に来てもらっても、いつもうわべの会話しかしなかった。

 だから、両親がどんな人かも、何を考えてるかも、知ることが出来なかったんだ。


「でも、お父さん、サンタさんは、自分の正体を教えちゃいけないんだよ。サンタさんはお父さんなんて、絶対に言っちゃいけないんだよ。樹里の言葉ね」

「違う違う。サンタさんはお父さん、なんじゃなくて、お父さんが、サンタなんだ。これは、小さいように見えて、大きい違いなんだよ」


「どういうこと?」

「もう少し学校で勉強すればわかるわ」

「同じような気がするけど……言いたいことはわかるけどね。と樹里の言葉よ」


 お母さんは1人で会話してる。そう見えるのは僕だけなんだろうけど。

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