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天使とすごした10月4日  作者: 直木 新
20/28

20話

 この時間を壊したくなかった。

 この空気を、ずっと吸っていたかった。


 だけど、僕は、口を開こうと思った。

 聞かないことに、もう耐えられなかった。


 切り出す言葉をずっと考えていた。

 そして、僕は、口を開いた。


「僕は樹里が好きです」


 誰も何も言わず、少し、時間が過ぎた。


 怖かった。

 だけど、聞かずに最期を迎えるのは、もっと怖かった。


 思っていることを全て吐き出そう。

 僕は覚悟を決めた。


「目の手術を終えた後、僕は樹里に出会いました」


 たしかに、出会った。

 出会ったはずなんだ。


「初めて妹の存在を知り、僕たちは仲良くなりました。そして、僕は樹里が好きになりました。そして、10月4日を最後に僕は樹里が見えなくなりました」


 長居さんは僕の言葉の続きを待っていた。


 月が、僕たちを照らしていた。


「その1ヶ月は、僕にとって、かけがいのない日々でした。人生で、初めて大切なものを見つけました。初めて、人を好きになれました。そして、10月5日にそれが見えなくなりました」


 僕は続けた。


「失ったと思ったものを、長居さんを通して、僕はまた見つけることが出来ました」

「うん」

 長居さんは一言、短く言った。


「長居さんが通訳をしてくれる樹里は、確かに樹里でした。僕が出会ったあの女の子でした。だけど、不安になってしまって、それが耐えられないくらい大きくなってしまったんです」


 一呼吸、二呼吸おく。

 鼓動が高鳴るのを抑えながら、言った。

 この言葉は、きっとみんなを傷つける。僕自身も。


「樹里は、本当に存在するんですか?」


 もう一言、言った。


「長居さんが、樹里という女の子を、演じているんですか?」


 僕は、僕の考えを否定して欲しかった。

 樹里の存在を肯定して欲しかった。

 けれど、長居さんはただ黙って、僕の目を見つめた。

 そして言った。


「どうしてそう思うの?」


 一言だけ、短く。

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