2話
視神経の移植手術から一週間が経った。
お医者さんは成功したと言った。ずっと包帯を両目に巻いていたため、本当に見えるようになっているのか不安だった。
包帯を取ってもらうと、光に目がくらむ。
しばらくして眩しさになれると、目の前には、お医者さんと看護師さんがいた。
「見えるかい?」
「はい、見えます」
お医者さんが立てている指の数を当てたあと、視力がちゃんとあるか、本格的な検査を始めた。
僕は、部屋の隅に、見知らぬ同じ歳くらいの女の子が座っていたことに気づいた。
「あの子は、誰?」
そう僕が言うと、女の子はガタッという音をたてて席を立つ。
そしてハッとして口を手で抑えた。だんだん目には涙が滲んでくる。
何か僕は、この子を悲しませることを言ってしまったらしい。誰かわからないけど、女の子を泣かせたのなら謝るしかない。
「えっと、ごめんね。」
「ううん、大丈夫だよ」
彼女は、僕が今まで見たことのない、とても素敵な笑顔をみせた。なのに涙をポロポロこぼしている。
どういうことなのだろうか、困惑するしか無い。ただその表情を見せられて、今すごくドキドキしている。
「やっと気づいてくれたんだ。」
女の子は言った。
「あぁ、ようやく見えるようになったんだねぇ。」
つぶやいた、看護師さんの方を見る。
「誰なんですか、この子?」
「有希君の妹だよ、双子の。」
何を言われているのか、全然意味がわからない。僕はずっと一人っ子だ。
「良かったねぇ、樹里ちゃん。じゃあ、有希くん、話すよ」
激しく当惑する僕に、看護師さんは説明を始めた。
「なんでかな、有希くんは、妹の樹里ちゃんが今まで見えなかったの。」
「視神経を移植したら見えるようになるとはね。脳の問題だと思っていたんだけど。」
お医者さんはそう言った。
「有希くんは、樹里ちゃんに触られても気づかないし、話しかけても返事をしない。誰かが樹里ちゃんの話しをしても無視をする。」
看護師さんは言った。
「何故か樹里ちゃんという存在を、認識出来なかったんだよね」
お医者さんは言う。
「有希くんが気に病むことじゃないよ。精神的な症状だってお医者さんは言ってるし」
看護師さんが言う。
「それが、ようやく見えるようになったんだね。」
お医者さんが言った。
樹里、と呼ばれる、僕の双子の妹だという女の子が、僕の目の前に立って、笑って話しかけてきた。
「はじめまして、有希くん」
「ほら、お返事」
看護師さんに促されて、僕も答えた。
「はじめまして。・・・樹里ちゃん」
とてもこそばゆい感じがした。