18話
手術の日程が決まった。今から1ヶ月と少し後の1月4日だ。
ips細胞の培養に必要な期間がおよそ1ヶ月で、年末年始はお医者さんも休みたいので、この日に決まったと言われた。
僕は、そうですか、とそのときはうなずいた。僕は、ただ手術が行われる日を待つだけだ。もう何もできることは、ない。
明日から12月になる。
この時期から、周りの人たちの服装が厚くなっていく。
これからどんどん寒くなっていって、じきに朝になると布団から出られないほどだという。
僕がずっと過ごしているこの部屋の温度は、いつも変わらない。
僕がいつでも快適に過ごせるように、温度も、湿度も、1年中いつも同じだ。
僕は季節というものを、言葉でしか知らない。
春になったらお花見。夏になったら海水浴。秋には運動会。冬には、クリスマスパーティ。
みんな知っている。色々な物語のなかで、登場人物たちが体験しているのを、僕はみていた。
病院の中でも、クリスマスパーティは行われる。
入院中の患者さんを集めて、食堂でお祝いをする。
普段この部屋から出ることが難しい僕も、この日はいつも参加させてもらっていた。
だけど他の患者さんと話すことは無いし、看護師さんとも別段変わった会話があるわけでもなかった。
この日はいつも、つまらない日だった。
だけどおやつに出されるイチゴのショートケーキだけは、結構楽しみにしていた。
「来年になったら、手術なんだね」
樹里は言った。正確には樹里が言ったと思われる言葉を、看護師の長居さんが僕に伝えてくれた。
手術が失敗したら、僕は死んでしまう可能性が高い。手術をしなければ、もう少し生きられるかもしれない。
もしかしたら年単位の寿命がまだ残っているかもしれない。そう、言われた
でも僕はすでに決断した、今更なにも言うこともない。
それはお医者さんを信じているわけではない。僕が死んでしまっても特に問題はない。それだけだ。
「死んだら、ずっと私といよう」
いつの日か、樹里から言われた。
僕から切り出した約束を、その日、樹里は受け入れてくれた。
その約束は叶う気がした、ただ、なんとなく。
樹里がそう言ったから僕は信じた。ただ、それだけだった。
でも、樹里には、生きて欲しいとも、泣きながら言われた。
一緒に生きよう、最後まで一緒に。そのお願いを、僕は叶えられるだろうか。
わからない。
でも、今はもう、どうなったっていいんだ。
心のもやもやはもう、ない。
「思い出を、たくさん作ろうよ。こんなに長い間、家族全員が一緒にいられるなんて、今までなかったんだから」
「そうだね、それはとても楽しいのかもしれない」
「一緒にクリスマスしよ。一緒に祝う始めてのクリスマスだね」
「そういえば、樹里の知っている神様って」
そのとき、口元に人差し指を添えた樹里が、僕の言葉を遮って
「しーっ」
と、いたずらっぽく言った。