表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天使とすごした10月4日  作者: 直木 新
16/28

16話

「おはよう」


 朝、ノックとともに、お母さんと、お父さんが病室に入ってきた。


「おはよう」


「調子はどう?」

 お母さんは言った。


「うん、今は悪くはないよ。いつもとそんなに変わらない」


「何か、食べたいものはある?」


「ううん、大丈夫。」


「そう。何か、してほしいことは無い?」


 気まずいから出て行ってほしい、とは言えない。


「今は特にないかな」


「今日はこんな本を買ってきてみたんだ」


 西洋の海洋冒険物語と、アラビアの英雄物語。


「ありがとう。今回も面白そうな本だね。あとでゆっくり読むよ」


「喜んでくれてよかった。なにか読んでみたい本はあるかい?」


「本は足りてるよ。まだ手をつけてないのが結構たまってる」


「そうか、じゃあ、また面白そうなのがあったら買っておくよ」


 このままでは話が進みそうにないので、僕のほうから、本題を切り出すことにした。


「手術を、受けることにしたよ」


「……ああ、有希がそう決めてくれて、よかった」


 お父さんは続けた。


「お父さんたちは、迷ってた。今でもそうだ。偉い先生方がさじを投げたこの病気を、あの若い先生に任せてもいいのだろうか。何かしないと駄目なのはわかってる。しかし、何かできるチャンスは、おそらく1度しかない。1度しかないのなら、もっと確実な手を他に探すべきなんじゃないかと迷っていた。先生は、不確実な方法だと言った。それでもやりたいと、強く申し出てくれた。結局はその熱意に圧されてしまったよ。あれだけ治したい、と思ってくれるなら、お父さんたちは任せようと思った。……でももし失敗したら、後悔するだろう。なんであそこであの先生に任せてしまったのかと。何のために病気を治すために世界中を探し回ったのかと」


 そのあと、お父さんはしゃべらなかった。僕も答えなかった。しばらく病室を沈黙が支配する。


「……樹里はそこにいるの?」

 やがて僕は言った。お母さんがそれに答えた。

「お母さんのとなりにいるよ。看護師さんを通して、二人で話をしてるんだってね。同じように、わたしが樹里の言葉を伝えようか?」


 お母さんの申し出は断った。


「後で話をするから、今はいいよ」


 そのあとも世間話を続けたけれど、やがてお昼ごはんの時間になったので、二人は部屋から出て行った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ