表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天使とすごした10月4日  作者: 直木 新
15/28

15話

 その夜、僕は樹里と話をした。間に長居さんを介して。


「樹里は、手術の話は、聞いた?」


「うん、聞いたよ、お父さんと、お母さんから」


「僕は、受けるって先生に言った。もう手術になるのは決定したんじゃないかな」


「うん。有希くんが嫌じゃないのなら受けるべきだと、わたしは思う」


「樹里は、どう思った?」


「……こんな話は、わたしは知らない」


 おそらくは、「前回」はこんな展開ではなかった、と言いたいのだろう。言葉を濁しているのは、長居さんには知られたくないからだろうか。

 カラオケの時のあの話は、樹里の作り話、妄想の部類だという可能性も、ちゃんと考慮しておかなければいけないけれど。


「なんで、こうなったんだろう」


「みんな、本気で有希くんを助けたいと思ってるんだよ。……みんな心の中で、祐希君が抱えている痛みと苦しみを、わかってしまったから」


「そっか。これから、そんなに苦しくなるのかあ。嫌だなあ」


「……祐希くん、今は苦しくないっていうの? わかってないの?」


「別に今は苦しくないよ? 少し不自由だとは思うけどね」


 樹里には、今の僕の病気がそんなひどい状態に見えるのだろうか。


 たしかに、体はだんだんうまく動かせなくなるし、痛みも徐々に現れてきた。でも、僕が何かうまく出来ないときは、周りがサポートしてくれる。僕のために、多くの人たちが奔走してくれている。

 世の中には、僕なんかより苦しんでいる人が、たくさん、たくさんいる。苦しいのが僕だけだなんて思うのは傲慢だ。

 樹里だって病気を抱えていて、体中が痛いって言っていたのに、そんなことおくびにも出さずに僕の看病をしてくれる。むしろ僕だけがずっと寝っ転がっていて、ほんとに申し訳がない。


「今は樹里がそばにいてくれるからね。毎日が楽しくなってきた」


 こういうことを言ったら、樹里も喜んでくれるかなと思ったけど、逆に表情が暗くなてしまった。

 会話ってやっぱり、難しい。兄妹だからって、僕と樹里の考えていることや思考の進む方向は全然違うんだ。さっきはなんて言えば正解だったんだろう。


「長居さんもね、自分の意見をいわせてもらうと、樹里ちゃんは、いったん帰りなさい。有希君も大事だけど、がんばってるご両親も労わってあげないとね」

「はい、そうですね、今日はもう帰ります。……長居さんがいるから、私は安心なんです。ありがとうございます」

「うん、そう言ってくれて、こちらこそありがとう。でも生意気。子供はそんなこと、言わなくていい」

「あはは、すみません」


 そう言ったあと、樹里は帰る準備を始めた。


「また明日ね。明日はお母さんたちと一緒に来るからね。おやすみ」

「うん、おやすみ。家でゆっくりして」


 そしてまた樹里と話が出来るのは明日になった。今日はもう、寝るだけだ。


「なんか自分と会話をしてるような、さっきの光景って間抜けだよね。有希君の視点から見たら、特に」


 樹里が帰るのを見送ったあと、長居さんはそんなことを言った。

 間抜けなんて、そんなことは思わない。長居さんは、いい人だ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ